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ハレルヤ  作者: 雨野知晴
8/12

第六話

「さて、どこから話そうかね。」


「その前に一つよろしいですか。」


「何かね。」


「あの花はまだ真新しかったんですけど


あの花を置いて行った人のことはわかりますか。」


私はもうひとつ疑問に思っていたことを聞いてみた。


そうしたらおばあさんは悲しそうな顔をしてこう話し始めた。


「あの花かい。


あの花はね、二週間に一度あの事故で母親と幼馴染を失った少年が置いて行くんだよ。


それも決まって土曜日の朝一番にね。


ああ、あと二人の命日にね。


もうあの習慣も五年になるかね。


その少年の後ろ姿がね・・・


ものすごく悲しそうなんだよ。


最初は花が新しくなっていることに気がついたとき


いつ来ているのかが気になってね。


それから何度か後ろ姿を見ているとほっとけなくなってね。


あれじゃあ、あの子のお母さんも幼馴染も成仏できないよ。


あれだけ思ってもらっているのは嬉しいだろうけど


あんな悲しい姿を見ていると


不安になってきっと眠っていられないよ。」


私はその真実を知って予想が当たった。


彼はずっと向き合っていたのだ。


あの事故とたった一人で・・・


「もうひとつ質問してもよろしいでしょうか。」


「なにかね。」


「彼は命日に来ましたか。」


「いや、珍しくの来なかったわね。


毎年、昼前にきて日が暮れるまであの公園に残っているのに。」


・・・彼はここには来ていなかった。


では、どこに行っていたのだろうか・・・


「今それを考えても仕方がないぞ檜原、


おばあさん、事故の話のほうを願いできますか。」


「いいわよ。


私が見ていた一部始終を教えましょうか。


その前にどうしてその現場のすべてを見ていたのかを話させてもらおうかね。


あの日は天気が良くね。


二階に縁側があるんだけど


私は外を眺めながらお茶を飲むのが好きでね・・・


あの日も公園の桜が綺麗でね


そんな中一人の女性に連れられた


4人の子供が楽しそうにやってきたんだよ。


男の子が一人髪の長い女の子が2人で


髪の短い女の子が一人そ手を引かれてきたのよ。


最初は髪の短い女の子と髪の長い女の子がキャッチボールをしていたんだよ。


髪の短い女の子はあんまり投げるのが上手じゃなくてね。


男の子がよくボールを取りに行っていたんだよ。」


この発言を聞いて私は少し驚いた。


私の記憶の中にはそんなこと全くなかったのだ。


「おばあさん、それは本当ですか。」


「ああ本当だよ。


それから髪の短い女の子としていたわね。


男の子だってたまに失敗していたけど


男の子はゆっくり球を投げていたしね。


そこまで遠くにはいかなかったよ。


男の子もしだいに疲れてきたんだろうね。


それでもう一人の髪の長い女の子は何か用事でもあったんだろうね。


事故が起きる前に帰ってね。


そのあとに


ベンチに座っていたもう一人の髪の長い女の子に


男の子が投げてもらうのを代わってもらったんだよ。


髪の短い女の子の投げた球がたまたま道路に出てね。


それを髪の長い女の子が取りに言ってね。


女性は不安になってついて言ったんだよ。


そのあとに続くように男の子もついて行ったのよ。


そのあとに車のブレーキ音が聞こえてね・・・


玄関の扉を大慌てで外を見ていみると


男の子が母親と髪の長い女の子の名前を叫びながら


「必死に死なないで。」と叫んでいてね。


わずかに息のあった母親と何か話してて


見ていて痛々しかったよ。


男の子は自分のせいだって搬送されているときにずっと呟いていてね。


公園の中では髪の短い女の子が


立ったままどこを見ているか分からない眼で涙を流していてね。


あれは気を失っていたのじゃないかね・・・


その子の足元にはグローブが落ちていてね。


それが更に悲しみの深さを物語っているようだったよ・・・」


「おばあさん、今の話本当ですか。」


私は信じたくなかった。


今の話に真実が秘められていたのだから。


色々と私の記憶と食い違っている。


髪の長いもう一人の女の子は誰・・・


髪が短い女の子は私だ。


そして私はお姉ちゃんを・・・


「ああ、あの男の子を見るたびに私はあの日のことが鮮明に蘇るよ。


決して忘れられないからね、あの悲惨な事故を・・・」


ああ、やはり真実は違っていたのだ。


私はどうして彼を恨み続けていたのだろうか。


彼はどうして私を自分に恨ませ続けたのだろうか・・・


お姉ちゃんとキャッチボールをしていたのは自分で


自分が投げてボールを取りに行って死んだのだと。


なぜ、彼は話してくれなかったのだろうか・・・


なぜ、私を怨まなかったのだろうか・・・


なぜ、なぜ、なぜ・・・


私には色々な疑問で頭がいっぱいになった。


「檜原、大丈夫か・・・」


「ええ大丈夫よ。」


嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘


全く大丈夫じゃない。


「これがあの日の出来事だよ。」


「おばあさん、あの日のことを話してくれてありがとう。」


すぐに探さないと・・・


そう思って飛び出そうとした私に岩城君が


「ちょっと待った、檜原


確かにあいつ探すのは重要だ。


だけど、先に俺たちは真実を知らなくてはならない。」


「どうしてよ。


私たちは真実を見つけた。


だからあの人を探さないと・・・」


「少し落ち着け。


お前はそう思ってもまだ謎はあるぞ。


髪の長い女の子は誰だ。


どうしてお前はあいつが事故を引き起こしたと思ったんだ。


どうしてあいつが犯人だと思ったんだ。


それにあいつの居場所が今はわからない。


今からお前の親のところに行くぞ。」


私はただ頷くしかできなかった・・・


「おばあさん、話してくれてありがとうございました。」


「なあ、年寄りからのお願いがあるんだけどいいかね。」


「・・・なんですか」


「あの子を助けてやってくれんかね。


あの子はこの6年間


ずっと心につらい思いをため込み続けていたんだと思うのよ。


あの姿を見ていると死者も救われやしない。


それくらい辛そうだったんだよ。


ずっと見ていたからね。


自分の孫のように思えてきてね。


助けてやってほしいんだよ・・・」


「わかりました。絶対に助けて見せます。


行くぞ、檜原


すべてを知るために。」


「・・・分かったわ。


私だってすべて知りたい。」





・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・






「きたか、鈴蘭・・・」


「・・・お父さん、・・・お母さん


教えて、あの日何があったかを・・・」


「いいだろう 「俺はここで」 いや、岩城君もここにいてもらってくれないか。」


「・・・いいんですか。」


「ああ、私たち夫妻の願いだ、最後まで聞いてくれ。」


今あの日、真実が明かされる・・・



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