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ハレルヤ  作者: 雨野知晴
2/12

第一話

 ザァー

 

「雨か・・・」

 

 またあの夢を見た。

 

 悲しみの始まりを・・・

 

 目ざまし時計をみると時刻は5:00

 

 予定より10分早いけど準備をしよう。

 

 

 

 支度を終わらせて

 

 階段を下りてリビングに出ると

 

 小母さんが朝食の準備をしていた。

 

 その横では小父さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

 

「おはようございます、桔梗小母さん

 

 いつ朝早く済みません。」

 

 この人は 檜原 桔梗 《ひのはらききょう》さん。

 

 母子家庭であった私の母親が亡くなったとき

 

 私を引き取ってくれた人だ。

 

「いいんですよ。

 

 晴也さん、私がやりたいだけなんですから。

 

 それに、そんな顔をしないの。

 

 でないと、あなたのお母さんに会わす顔がありません。」

 

「小母さん。」

 

 この家では私の母親の話をすることは禁止なのである。

 

「なあ、晴也くん。

 

 もう、鈴蘭に真実を話したらどうかね。

 

 私は君のご両親、大本ご夫妻には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。」

 

 こう切り出してきたのは 檜原 柊 《ひのはらひいらぎ》さん

 

 この二人には母親が亡くなってからの

 

 6年間ずっと面倒を見てもらってきた。

 

「柊小父さんもうその話はいいじゃないですか。

 

 中学の卒業とともに私はこの家を出ますから。」

 

「だが、しかし・・・」

 

「母が亡くなった後で

 

 親戚親戚の家をタライ回しになってるところを

 

 引き取ってくれた小父さんと小母さんには本当に感謝しているんです。

 

 その上、6年間も役に立たない私を育ててくださった。

 

 家族の関係が壊れてしまうかもしれないのに私を引き取ってくれました。

 

 これ以上あなた方に迷惑をかけるわけにはいけません。

 

 それではこの話はこれで終わりです。」

 

 こう話を切らせてもらった。

 

 いまは5:20分

 

 予定を少し遅れている。

 

「わかった。

 

 鈴蘭にはずっと黙っていることでいいんだな。」

 

「あなた・・・」

 

「はい、これが本当に最後です。

 

 もう、この話し合い話しないことにして下さい。

 

 ・・・私なんかが我が儘を言って本当にすみません。」

 

 檜原夫妻は悲しそうな顔をしていて、

 

 私は話をそらすために

 

「桔梗小母さん、すみませんが朝食をもらえませんか。

 

 すぐに出かけるんで・・・

 

 もう行かないと

 

 帰り道に檜原さんと鉢合わせしたら大変なので。」

 

「晴也くん・・・」

 

「そんな顔をしないでください小父さん小母さん。

 

 あ、学校への連絡はおねがいしますね。

 

 それではいただきます。」

 

 そう笑顔でこたえつつも

 

 檜原夫妻の温かさに涙が出そうになった。

 

 私には温かすぎる言葉だった。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・

 

 ・

 

 

 

 その後、何かを言いたそうな檜原夫妻を押し切って家を出た。

 

 今日は特別な日だ。

 

 電車に揺られとある墓所をめざした。

 

「管理人さん、おはようございます。」

 

「おはようございます、大本さん。

 

 そうですか、今年もそんな時期になりましたか。」

 

「ええ、一年というものは早いですね。

 

 ・・・それでは、失礼します。」

 

 そんな彼の後姿を和尚さんは寂しそうに見送った。

 

 毎年、わざわざ時間をずらして一人で朝早く来る少年を・・・

 

 

 

 

 

「父さん、母さん久し振り。

 

 俺、中2になったよ。

 

 高校生になる前にあの家を出ることを

 

 檜原夫妻にはっきり伝えてきたんだ・・・。

 

 そうそう、これは毎年言ってるけど

 

 本当に運命って皮肉なもんだよね。

 

 父さんと母さんが死んだ日が一緒だなんて。

 

 

 ・・・母さん

 

 俺、母さんとの最後の約束を守るよ。

 

 たまに挫けそうになるけど頑張ってるよ。

 

 ・・・だから、見守っていてよ。」

 

 

 そして、彼は立ちあがって同じ墓所の中にあるもう一つの場所に向かった。

 

 それは檜原夫妻のもう一人の子ども

 

 晴也と先ほど話に出てきた鈴蘭の双子の姉、 檜原 霞 《ひのはらかすみ》の墓へ

 

 

 

「霞、ひさしぶり。

 

 すまないな、花も線香もあげられなくて。

 

 俺だって考えているんだぞ。

 

 鈴蘭の機嫌を損なわないためにどうすればいいか。

 

 本当に悪かったな俺のせいで

 

 お前の大切な妹を苦しめて。

 

 自己満足かもしれないけど

 

 俺にはこれしかできなかったんだ。

 

 俺を恨んでもいいけど彼女だけは許してくれよ。

 

 来てほしくないだろうけどまた来年もくるよ。

 

 ・・・またな。」

 

 そうして彼は帰って行った。

 

 その後ろ姿は悲しみで満ちているのが誰の目から見ても明らかだった。

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