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側室達の末路  作者: 綾瀬紗葵
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セラフィマ・ゲネラロフ 7

昨日の話数が間違っていたのに気が付いたので修正しました。


語っていた飲み会は、良い感じに大雨を回避しながら堪能しました。

二次会はカラオケに入ったのに歌わないでお喋り三昧でしたよ。

はははは。 

アニソン充実の系列だったんですけどね。



『呪いが本格稼働してしまったのかのぅ? それとも……日々酷くなっていく設定になっているのじゃろうか……』


 過去に五感を奪われる呪いを受けた時は、術を返して事なきを得た。

 術士として未熟者だった時分には、何日にも渡って不便に耐えながらも、最終的には失った物を取り戻してきたのだ。

 だから聴覚が奪われた程度では、セラフィマは動じない。

 ただ、不安には思う。


『ふむ……呪い返しの術式は通じるじゃろうか?』


 魔法は使えない。

 呪術は試す相手がいなかった。

 今回セラフィマの身に起きた異常状態が呪いのせいであるならば、返せるかもしれない。


 セラフィマは小指に歯を立てて出血させると、まっさらなクロスの上にその血で呪い返しの呪文を認めてゆく。

 血の量が足りずに何度も指に歯を立てて、痛みを感じねばならなかったが、どうにか術式を完成させた。


『我が身を呪いし者に、たがわぬ呪いを返せ!』


 セラフィマの耳に届かなくとも音にはなっているはずだ。

 有り難いことに術はきちんと発動した。

 クロスが一瞬鈍い光を放ち、認めた血の文字が綺麗に消え失せたのが、紛れもない証だった。


『なん、じゃと?』


 呪いは確実に返された。

 返された、だけだった。

 セラフィマの知る呪いは、相手に返せばその時点で呪いから解放されるはずなのだ。

 しかし、セラフィマの耳は相変わらず望んだ音をもたらしてはくれなかった。 


『返しただけでは意味がないということなのじゃろうか?』


 長年研鑽を重ねて誰にも負けぬと誇っていた術の根底が覆される状況に、足下が酷く脆くなったような恐怖を感じる。


『相手の聴覚が失われたとて、新しい術をかけるのは難しくなかろう……さて、どうしたものじゃろうか……』

 

 一番手っ取り早いのは術者を殺す呪いを使うという手段だが、術者の実力が解らない以上こちらから攻勢に出るのも避けた方が無難だ。

 地の利が圧倒的に悪いなど、不安定な要素が多すぎる。


 書庫には呪いに関する物が必ずあるだろう。

 ただ読めるかどうか。

 解呪方法が記されているかどうか。

 実行できるかどうか。

 書物が見つかったとしても、敷居が高かった。

 

『致し方ないかのぅ。聴覚の回復は後回しにして、当初の予定を先にこなすとしようか……』


 心なしか雑味が増した気がする水を一口だけ飲んでから、食事の間に移動する。

 新しい衣装も昨晩履いていた靴も見当たらなかったので、寝間着にルームシューズのままだが仕方ない。


『……嗅覚は失われていないようじゃな』


 食事の間は胃を刺激する美味しそうな香りが漂っていた。

 緑色の薬茶が入った器、真っ白い穀物が入っている器、泥のような汁物が入っている器、真っ黒い野菜らしき物が置かれている器が、昨晩と同じ膳の上に置かれていた。


『色は宜しくないが……味は……強い塩加減じゃが……独特で悪くないのぅ』


 泥水のような汁物の中に入っていたキノコは、つるりとしていて食感も面白かった。

 真っ黒い野菜には棒を突き刺して齧り付こうとしたのだが。


『むぅ? もしかして真っ黒いのが皮で、中身を食べる野菜なのか?』


 少し焦げ臭い皮が破れて、薄い緑色をした中身が出てきた。

 棒を使って皮を剥ぐと中身を取り出す。


『温かい瑞々しさを感じる野菜とは……なかなかに新鮮じゃ!』


 皿の隣に置かれていたジンジャーによく似た香りがする、すりおろした物を少しだけ載せて食べると、味が鋭くなって美味だった。


『ほぅ……これはまた……こんなにもちもちとした穀物は初めてじゃなぁ』


 白い穀物は木匙で掬って食べる。

 噛めば噛むほど甘さが滲み出るのが不思議だ。

 砂糖などと違う優しい甘みは、これもまた毎日食べても飽きのこないだろう味だった。


『ふぅ……この薬茶もヴァルヴァラ様に届けるべきじゃろうかのぅ……』


 水分に変わったかもしれない鎮痛剤は、セラフィマが昨晩美味しく頂いてしまった。

 だからといって、水を持っていけば前回のように熱湯になる予感もする。

 

『や。やはりヴァルヴァラ様には、塗り薬だけを持っていくとしよう』


 セラフィマに与えられた物は、セラフィマが消費した方が間違いないと、今までの行動を振り返ると改めて認識できた。


 クロスで口を拭ったセラフィマは、塗り薬の容器を割らないように井戸の中へ降ろす方法を考える。

 布で包んで籠に入れて落とせば、衝撃が和らぐのではないだろうか?

 縄や長い棒のついた籠があれば安全に降ろせるのだが、食事の間と水屋をくまなく探しても見つけられなかった。


 セラフィマはクロスで容器を何重にも包み籠へ入れると、井戸へと向かった。

 玄関に行方がわからなくなっていた靴が、並べておいてあったので履き替える。

 井戸の側に立ち、ごくりと生唾を飲み込んでから中を覗いた。

 ヴァルヴァラは俯いた格好で座っていた。

 目をこらせば、すぐ近くに脱ぎ捨てられ、何故か見るも無惨に二度と着られないだろう状態にまで変形した鎧が置かれている。

 どの鎧にも血痕がべったりとへばりついていた。


『ヴァルヴァラ殿! 薬を持ってきたのじゃ! 火傷に効く塗り薬のようじゃから、試して欲しいのぅ』


 なるべく腕を伸ばして、少しでも距離を縮めながら籠を落とす。

 鎧の上へ落ちれば使いやすいだろうと狙ったはず、なのに。


『!!……!……!!……!!……!……………!!!』


 鎧の上へ落ちた籠は高く弾んで、容器はあれだけ厳重に包んだクロスから転がり出た。

 挙げ句にヴァルヴァラの後頭部の壁に向かって飛んでいき、砕け散った。

 塗り薬は何故か飲み薬のように水っぽくなっており、ヴァルヴァラの後頭部や顔に振りかけられてしまったのだ。

 満遍なく、粉々に砕け散った陶器の破片と共に。


 絶叫を上げ続けているらしいヴァルヴァラの、怨嗟は聞こえないはずだった。

 だが井戸の側にへたり込んでしまったセラフィマには、肌がびりびりと痛むほどの憎悪が感じられた。


『何故じゃ? 何故なのじゃ?』


 ヴァルヴァラを癒やそうとするセラフィマの心に、偽りは、露ほどもないはずなのに。

 どうして、酷くヴァルヴァラを傷付ける結果になってしまうのか。


『はっ! もしかして鎮痛剤を飲んだのが駄目だったのかもしれぬ』

 

 昨晩は、どうして大丈夫だと判断してしまったのだろう。

 あの鎮痛剤が美味過ぎるのが悪い。


『まぁ、妾と違ってヴァルヴァラ様は戦女神であられるからな! 痛みには強いはずじゃ。

火傷は恐らくあの薬で完治するじゃろうから……昼時にでもヴァルヴァラ様用の食事を頼んでみるとしようかのぅ』


 セラフィマは無意識に己の両腕で身体を抱き締めながら屋敷へ戻る。

 靴はきちんと履き替えた。


『次は……×印部屋以外の残された部屋へ行くとしようぞ』


 薬部屋から×印部屋へ行ける戸はなかった。

 もしかするとまだ行っていない部屋から行けるのかもしれない。

 現時点で行く気は微塵もないが。


『……ぬ? これは妾が着て良いということ……なのじゃな?』


 部屋を通り抜けていく途中に衣装部屋の戸を開けば、昨日まで飾ってあった衣装の代わりに、部屋の中央に置かれた底の浅い箱の中、畳まれた衣装が置いてあったのだ。


『寝間着と作りは似ているが、こちらは生地がしっかりしているようじゃ』


 また寝間着は白一色の無地だったが、広げた衣装には見たこともない赤い花の刺繍が漆黒の生地に施されていた。

 花には小さな光が幾つか灯っていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。


『高貴な妾に似合いの衣装じゃな』


 肌の馴染みも良い。

 鏡に映る己の姿に頷いたセラフィマは、脱いだ服を代わりに箱の中へ入れると背筋を伸ばして、新たな部屋へと足を進める。



今日の分でストックが切れてしまいました。

頑張ってストック確保に挑みます。

野菜とコミックスを購入しに、遠出したいんですけどね……ストック優先かなぁ。

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