セラフィマ・ゲネラロフ 5
何を日本風描写にして、何を異世界風描写にすればいいのか、文章に出せていないかもしれませんが、かなり悩んでいます。
縛りある表現て、しみじみ難しいですね……。
椅子に腰掛けると、まずは屋敷の見取り図を眺める。
まだ辿り着けていない部屋が幾つかあった。
「この赤く×印が書かれた部屋には、どんな意味があるのじゃろうな……」
一箇所だけ入るなとばかりに大きく×印が付けられた部屋があるのだ。
普通に考えれば入ってはいけない場所だと判断するのだが、何しろここは呪われた村。
その場所こそが元の居た世界へ帰れる転移陣のような物が設置されている、特別な禁域かもしれない。
送られてきた者にとって素晴らしい物があるからこそ、あえて警戒させて近付かない
ようにしているとも考えられよう。
「意を決して入るにしても、何らかの制約がありそうではあるがのぅ」
呪いが凄まじい勢いで進行しそうな罠が仕掛けられているなど、絶望が潜んでいる可能性も低くはない。
現時点での状況を考えるにセラフィマを害する部屋だと認識して、回避した方が良さそうだ。
「魔法も使えぬ。自分以外に使える者がおらぬではなぁ……慎重な選択肢を取るしかなかろうて」
元の世界へ帰ったところで、セラフィマの居場所があるかと問われればないだろうと冷静に答える。
だが、世界はヴォルトゥニュ帝国だけではない。
セラフィマを知らぬ国も多くあるだろう。
何を持たなくても魔法が使えれば、人並み以上の生活は望めるはずだ。
「最悪の状況下にある場合、前向きな目標設定は必要じゃからのぅ」
村の見取り図に目を走らせながら、手が何かを求めて彷徨う。
書類を片付ける時、本を読む時、常に飲み物が置かれていたので、無意識に探してしまったのだろう。
そう言えば喉が渇いた。
「書庫は乾燥しているからな。然もありなん」
一人頷いたセラフィマは瞬時迷い、村の見取り図を畳むと腰を上げて、再び手記などを探す作業に取りかかった。
5つ目の本棚は高さがあった。
はしごはないかと書庫の中を見て回ると、隅の方に小さな物が置かれていた。
セラフィマの背丈ではぎりぎり一番上の棚に手が届きそうな高さだった。
「どれ……」
上向いて首が軋むのに耐えながら背表紙に書かれた文字を追う。
背表紙に文字が書かれていない本も多く、そういった本は手に取って表紙の文字を読んだ。
「ん? これは……古代語じゃな!」
合計で数百冊は確認しただろうか。
ようやっと読める言語で書かれた背表紙を見つける。
注意深く取り出して、落とさないように手に取ると表紙を捲った。
「おぉ!」
完全に読解できる訳ではないが、大体の所は読み解ける。
開いたページには、呪われし村で送る、罪人の日常生活と書かれていた。
「うむ! 間違いない! これじゃなっ!」
故国では王族必須言語だったのだ。
正直こんな言語が何処で役に立つのかと首を傾げながらも学んだのが、ここに来て功を奏するとは思いもよらなかった。
他にも探せばまだあったかもしれないが、いい加減集中力が途切れて困っていたところだったので切り上げることにする。
本を手にして慎重にはしごを降りて、忘れずに2枚の見取り図と本を抱え込んで書庫を後にした。
施錠も忘れない。
さすがのセラフィマも手に触れるのは、極力必要な物のみにした方が心臓に悪い思いをしないですむと学習したのだ。
廊下に出れば外は真っ暗だった。
仄かな明かりが灯ってはいたが、足下が心許ない。
書庫へ明かりを取りに戻ろうかと振り返れば、書庫の元あった場所に置いてきたはずの明かりが空中に浮いていた。
「あ、ありがたい! お借りする! しょ、書庫にはまた伺うので、その時に戻して置こうぞ!」
誰も聞いていないだろうけれどセラフィマは、耳元でうるさく聞こえる胸の鼓動を少しでも穏やかにさせるべく、大きな声で謝辞を述べた。
ばっしゃん! と、また池の方で大きな音が聞こえる。
暗闇の中でも金色に輝く鱗は鮮やかだった。
音に追い立てられるようにして、廊下を早足で進み、来た時と同じ道を戻っていく。
荒れてしまったはずの部屋は、案の定元に戻っていた。
ただ、衣装部屋で飾られた衣装の精緻な刺繍の柄が変わっている。
今度は花でなく、動物が刺繍されていたのだ。
派手な羽を広げた蒼を基調とした鳥が白蛇を踏みにじっている図案だった。
どちらも生きているかのように感じられたので、セラフィマは更に足を速める。
寝具のある部屋は、浄化魔法でも使ったかのように綺麗になり、清潔な寝具が部屋の片隅に置かれていた。
ここで眠れば疲れも取れ、神経の高ぶりも落ち着きそうだ。
水屋で口を漱ぎ、手を丁寧に洗ってから、鍋のかかっていた広い部屋へと足を踏み入れる。
「これ、を……食べろということなのじゃろうな?」
平べたいクッションの内一つの前に低い膳が置かれていた。
テーブルらしき物はない。
貧しい村々のように地べたに座り込んで食するのだろう。
板敷きでクッションまであるのだ。
きっと一番良い待遇に違いない。
よくよく見れば膳も磨き込まれた木でできているようだ。
膳の上には幾つかの皿と器が乗っていた。
器の中には麦と野菜を煮詰めたような物が入っている。
嗅いだことがない香ばしくも食欲をそそる匂いが胃を刺激した。
他の器に比べて細く高さがある草色の陶器には同じ色の湯が入っている。
薬草茶だろうか。
若干青臭さが残るが、薬草茶と考えればとても飲みやすい部類に入るだろう。
皿は二つ。
一つには焼き魚。
二つ目には各種野草のフリッター。
大きな底の浅い器には、獣臭さが強い肉が2枚。
黄色いソースがかけられていた。
「……いささか渋みが強いが毎日飲んでも飽きがこなそうな薬茶じゃな」
いざ飲んでみると青臭さは全く感じず、全身の疲れが抜けていきそうな何とも言えない香り豊かな温みに、表情をやわらげたセラフィマは、スプーンとフォークを探す。
「まさか……この二本の棒で食べろというのか?」
本来なら何種類かのスプーン、フォーク、ナイフなどが置かるはずの場所には、花びら模様小さな陶器に乗った二本の棒。
棒と言っても、綺麗に細工してあり口の中に入れるには問題なさそうな造りではあった。
「食べ方が解らぬぞ! ……フォークのように突き刺して食べればいいかのぅ」
二本の棒を焼き魚へ突き刺して齧り付く。
誰が見ているわけでもないのだ。
マナーを気にしなくても良いだろう。
「淡泊だが塩味がしっかりついているようじゃな。骨が少ないのが食べやすくて良い」
口の中に残る骨を取り出して、皿の上に重ねておく。
気に入らない人物に対して難癖付けるのにマナーの是非をよく使ったが、マナーが原因で失脚しなければならなかった者が今のセラフィマを見たらどれほどに憤るだろう。
思わず口元が笑みを形作る。
「このフリッターは……味はついていないのじゃな? しかし野草の甘みが……野草ではここまで甘みが出るものでもなかろうに。となると栽培された野菜なのじゃろうか?」
村のどこかで栽培されたのか。
村の見取り図には畑の面積は多く取られていたように思うが。
「だとすると、野菜を育て収穫する者がおるはずじゃが……」
人が居るとしか思えない数々の不可思議な現象に見舞われながらもセラフィマは、未だヴァルヴァラ以外の人影を見てはいない。
人の顔をした魚は当然、人として数えてはいなかった。
「この料理とて、作っておる者がおるはずじゃろ? 鄙びた村にはもったいない料理上手じゃ」
大きな器を手に取って、肉に棒を突き刺す。
「おう!」
驚くほど簡単に棒が肉に突き刺さった。
今まで食べたことがない柔らかさの肉のようだ。
肉にかかっていた柑橘系のソースが獣臭さを払拭しているのだが、肉そのものの旨味は噛むごとに口の中に広がる。
2枚をぺろりと食べ尽くしてしまった。
頷きながら今度は、鍋に入っていたと思われる麦と野菜の煮物に、器の側に置かれていた木の匙を入れる。
「あつ! あふっ! 美味じゃ! これは……麦ではないのぅ……だが、恐らく穀物……後は味付けじゃな。しょっぱくも濃厚な味。しかも身体がとても温まる。故国でもヴォルトゥニュ帝国でも、諸手を挙げて歓迎されそうな料理じゃ」
書庫には料理本らしき物もあったが、残念ながら読めなかった。
この料理の作り方が書かれた本が、解説図付であれば良いのだが。
「……ふぅ。満腹じゃ!」
だらしなく両足を投げ出して天井を見る。
天井もまた、複雑に木が組み込まれている見事な建築だった。
「ん? これは……ティーポットか?」
ふと鍋がかかっていた近くに、薬茶が入っていた器に近しい形の器と注ぎ口があるティーポットによく似た陶器が置かれていた。
蓋を開ければ先程とは違う茶色がかった薬茶が入っている。
こちらは燻製臭が強いが、身体に良さそうでもあった。
一口飲めば口の中がさっぱりする。
飲んでしまえば燻製臭も思ったより気にならなかった。
「ふぅ……食と住は問題なさそうじゃな」
衣装部屋での異常な出来事を思い出して肩を竦めながらも、セラフィマは想像していたよりは過ごしやすい環境に、深々と息を吐き出した。
明日は飲み会なのですが、台風は大丈夫なんでしょうか。
ちょうど移動時間が、暴風雨に晒される感じなんですよね……。
お店から、来られますか? と連絡が入ったんですが、来ないなら店しめるぞ! って、いうことだったんですかねぇ。
極力行く方向でと答えたんですけども……。
良い感じに回避できますように!