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側室達の末路  作者: 綾瀬紗葵
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エカチェリーナ・ボドロヴァ 4

本日更新1話目のエカチェリーナ編4です。

気味の悪い描写、不愉快な描写、残酷な描写等が多いので、お読みの際はご注意下さいませ。

そういえば、朝から更新とか初めてじゃないかしら……〆切の力って凄いですね。



「あらまぁ、出血していますわ。枷が擦れてしまったのですわね? こちらの足首は……んっ! 少し痛みはありますが腫れはないようですし、大丈夫ですわね。あぁ! 勿体ないわ!」


 両方の足首を診察して、出血以外の怪我はないと診断したエカチェリーナは、枷を避けながら滴り落ちそうになっていた血を啜る。

 無理な体勢に腰は痛んだが、血が無駄になるのを指を銜えて見ているよりは我慢できた。


「唾液は消毒薬と同じ効力を発揮するとも聞いておりますし、これで十分でしょう。汚れた水で拭いたり、汚れたクロスで縛ったりなんて、怖くてできませんわ」

   

 綺麗に血を舐め取ったエカチェリーナは、壊した檻の隙間からようやっと脱出できた。

 脱出する時に胸と尻が引っかかって時間を無駄にしてしまったが、エカチェリーナ取ってそれは些末な出来事だった。


「さて、出口を探しましょう!」


 勢い込んで探そうとしたが、出口は呆気ないほど簡単に見つかった。

 米の器が置かれていた机の背後に衝立(パーティション)があり、その衝立の裏側に扉があったのだ。


「でも……これでは、開けられないわ……」


 折角見つけた扉には、一般的な扉にあるはずのドアノブや鍵穴が存在しなかった。

 ただ、本来ドアノブや鍵穴があるだろう場所に、奇妙な細工がなされていたのだ。


「確か……名も知れぬ小国からの貢ぎ物で見た記憶があるわ……寄せ木細工? いえ、からくり細工(パズル)、だったかしら?」


 扉に設置された四角い枠組の中に幾つかの木片が収まっている。

 そして木片を動かせそうな隙間が一箇所だけ空いていた。


「見せて貰った物は箱だったわ。正しい手順で動かしていけば、箱が開くとか言っていたけれど……」


 自慢げに説明されるのが鬱陶しくて、そんな子供の玩具を貰っても嬉しくありませんわ! と説明も途中で退出させたのだった。


 目の前のからくり細工は箱ではなかったが、恐らく定められた手順通りに木を動かしていくと箱が開くように、扉が開く仕掛けになっているのではないだろうか。


 檻からまんまと抜け出せた罪人が、そこから先は簡単に脱獄などできぬように、念を入れた仕掛けを施したと説明されれば納得もできる。


「子供の玩具などと罵倒せずに、説明を聞いておけば、今頃苦労せず開けられたかもしれませんわねぇ……残念だけれど、仕方ないわ」


 エカチェリーナは細工を解明しようとは思いもしない。

 自分には到底できるものでないと、知っているからだ。


 扉から出られないと解ったエカチェリーナは椅子を踏み台にして机の上に乗ると、窓の大きさを見極める。


「やはり……ここから脱出するには、大きさが……足りませんわよねぇ?」


 絶対に抜けられないと判断しかねる微妙な大きさの窓を前に、エカチェリーナは途方に暮れる。

 枠は隙間なく作られており、壊せる余地はなさそうだ。


「でも、ここから脱出する以外に方法はありませんし……どうしたら、宜しいのかしら」


 窓の外を眺めながら深い溜息を吐く。

 

「ここは……地下牢だったのですね? もしかして、お二人は村の中の違う場所に転移されたのかしら?」


 窓は地面より頭一つ分高い位置に作られていた。

 周囲には建物らしき物が幾つも見える。

 近くにある木の根が邪魔をしているので、外から窓を見つけるのは至難の業だろう。

 人は意外と足下を見ないものだ。


「地下牢って……そもそも見つけにくいものですものね。お二人は私を見つけて下さるかしら? 私からは捜しようもないから、お二人に見つけて頂かないと困ってしまいますわ。お腹も空きましたし……」


 美味しかった米の味を思い出したら、腹がぐうううと激しく鳴った。

 エカチェリーナは羞恥に頬を染める。

 腹が鳴るほどの空腹を感じたのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


「思い切って、壊した鎖、食べてみようかしら? え! あれは、人! 人ですわよね!」


 代わり映えのしない景色に、人の足らしきものが映り込む。

 裾の長い衣装を着ていた。

 エカチェリーナが着ていた物とは違う種類の、高価な女性用衣装のように見える。


「どなたかは存じ上げませんが、そこの貴女! 足下を見て下さらない! 私、地下牢に閉じ込められているんですの! 助けて頂きたいの! ねぇ? 聞こえませんの! そこの裾の長い衣装を纏った貴女のことですのよ!」


 喉が痛くなるほど大声を出している。

 窓越しだとしても、十分に聞こえるはずなのだ。


「無視なさらないで! 聞こえているんでしょう! 足下よ! 足下をご覧になって! まぁ!」


 何に足を取られたのか転んだ女性の顔が見えた。

 木の根の隙間を縫って、目線まで絡んだ。

 向こうも、エカチェリーナを見ていた。

 見ていたのに。

 全く気にしている様子もなく、裾の埃を払った女性は足早に遠くへ行ってしまった。


「セラフィマ様! セラフィマ様! どうして! どうしてですの! 何故に無視をなさるの! 今! この私の美しい眼と、目が合ったはずですわ! 何故、足を止めてはくれませんの! どうして、助けてはくれませんの!」


 エカチェリーナは喉が切れるほどの絶叫を上げた。


 信じられない。

 信じたくもない。

 目が合ったはずのセラフィマは、必死に叫び続けるエカチェリーナを、まるで目が見えないかのように、気にもかけずに無視をしたのだ。 


 打ちひしがれたエカチェリーナは、窓辺に頭を乗せて、セラフィマを恨む。


「酷いですわ! マルティン様の寵愛を独占した私が、そんなに憎かったのですか? もしかして、私を地下牢に閉じ込めたのは、セラフィマ様ではありませんの!」


 十分に有り得る話だった。

 セラフィマほど策謀を得意とする側室はいない。

 ヴァルヴァラも謀略を得意としていると自慢していたが、あくまでも人と人とを無闇に争わせる謀略であって、それ以外は頭が良いとは言えない行動に終始していたので、一部の側室の間では、戦馬鹿と揶揄されていたのだ。


「そうに違いないわ! あの、面倒この上もない扉の細工も、セラフィマ様がしでかしたのね!」


 頭の良さを自負するセラフィマが、いかにもやりそうな細工を忌々しく見下ろして、エカチェリーナは、どうにかして己の力で地下牢から脱出できないかと、未だ曾てない強さで願う。


「……私が、ここから脱出できるかもしれない、唯一の手段は……やはり、この窓ですわね?」


 エカチェリーナはテーブルの上に腰を下ろすと、身に付けていた物を全て脱ぎ捨てた。

 少しでも、窓に引っかかるのを防ごうと思っての行動だった。

 現れた乳房に、すっかり記憶から消去していた悍ましい状態を思い出してしまったが、今は考えないようにする。


 セラフィマへの憎悪が、己の身体に対する羞恥と絶望を超えている事実に感謝しながら、エカチェリーナは、机の脚で窓を割った。

 酷く割りにくい窓だった。

 逃亡防止用の何かが施されていたのだろうか。

 それでも繰り返し机の脚を叩き付けいれば、窓は壊れていった。

 細かい破片を慎重に取り除き、全て牢屋の中に落とす。

 破片が落ちている場所を、脱いだ服で何度も拭き上げた。


「痛ぅ!」


 それでも破片は残ってしまい、確認しようとするエカチェリーナの掌を容赦なく傷付ける。

 破片で舌を傷付けないようにしながら、溢れる血を舐め取って着々と準備を進めた。


「……これで、大丈夫と、信じましょう……」


 窓枠に幾度となく手を滑らせて、破片が落ちていないのを再確認してから、エカチェリーナは意を決して頭を窓に突っ込んだ。


「いだだだだだだだ!」


 はしたないどころではない、みっともない声が溢れ出る。

 間違いなく己の喉から放たれた初めての声に、エカチェリーナも驚いた。


「いだ! いだ! いだいっ!」


 頭は大丈夫だったが耳が窓枠に引っかかってしまったのだ。


「いぎ! いぎっ! いぎぎっぎぃっ!」


 それでも我慢して通り抜けようとすれば、左耳が引き裂かれた。

 血が目の中に入ってしまい、視界が真っ赤に染まった。



本当はもっとエロ特化の女性だったんですけど、描写すると規定に引っかかりそうな気がして、食べ物への執着特化にしました。

一応、3人では一番自分の外見に拘るようには書いてきたつもりです。


本日は後1話更新します。

引き続きお読み頂ければ嬉しいです。

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