表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
側室達の末路  作者: 綾瀬紗葵
15/25

セラフィマ・ゲネラロフ 14

セラフィマ編、最終話です。

話の半分以上が酷い痛みを感じさせる系の残酷な描写となっています。

お読みの際はくれぐれもご注意下さいませ。



 誰かが隣で話をしている気がする。

 セラフィマには聞こえないはずなのに。

 何よりセラフィマ以外はヴァルヴァラしか、いないはずなのに。


(ヴァルヴァラ様?)


 不屈の精神でもってヴァルヴァラが井戸から脱出して、セラフィマを助けに来てくれたのかと思い至って、見えないと解っていても首を捻じ曲げようとした。


(ひっ!)


 首がぐるりと半回転した、気がした。

 なぜならば視界が移動したからだ。


(視界が、移動したじゃと?)


 セラフィマはそこで初めて、目が見えているのに気が付く。


(呪いから解放されるはずはないのに……どういう、ことじゃ?)


 ぼんやりと靄がかかったような視界は、隣から聞こえる声に、一瞬で明確になった。


(ねぇ、起きて、新人さん? あ! 起きた?)


(ぎゃああああああああ!)


 色鮮やかになった視界に映り込んできたのは、悪夢のような光景だった。


 にこにこと楽しそうに笑う女性は、首から下が土に埋まっていた。

 他にも何十とも知れぬ首が同じように規則正しく、土の上に並んでいた。

 その。

 首だけが土の上に出ている女性と、セラフィマの目線が、同じ、位置なのだ。


 生き埋めにされてしまったのだと、恐怖のどん底に落とされたセラフィマは、身体を動かそうとするも、全く動かない。

 そもそも身体があるのかどうか、感覚がないのだ。

 

(どんなに足掻いても、身体がないから動くだけ無駄よー)


 やはり、セラフィマの身体は失われているようだ。

 生き埋めの方が、どれだけましだっただろう。

 どんな状況であれ、生きているのだ。

 首から下が失われて生きているとは思えない。

 制裁が発動して、セラフィマ死んでしまったのだ。

 恐怖の先にあったのは、一時的な感情の麻痺。

 笑う女性の有り得ない説明も、淡々と受け入れられてしまう。

 

(本当は首も存在しないんだよねー。あ、でも痛覚はあるから。異常なくらいにあるからね!)


 何がそんなに楽しいのだろう。

 この狂った状況で、女性の瞳には心からの喜悦が灯っている。


(簡単に説明するからさぁ。聞いてねー?)


 女性は現在の奇妙極まりない状況を詳しく説明してくれるようだ。

 この状況で笑っている女性の説明だ。

 話半分に聞いておこう。


 感情が麻痺してしまって良かったと、女性とは真逆の笑みを浮かべる。


 女性、曰く。


 墓を荒らすか、畑の収穫物を粗末にすると、この制裁が科せられるらしい。

 首だけが埋まって身体がないように感じられるが、実際は首も身体も存在せずに、野菜の収穫物に取り憑いた思念が、そうのように見せ、感じさせているだけなのだそうだ。

 制裁を受けていない人間から見ると、一面の首は美味しそうな収穫物に見えるとのことだ。


(ひぃいいいいい! 許して! 許してくれぇっ!)


 警告に現れた見覚えのある衣装を着た人形が、3個先に埋まっていた首を引っこ抜いた。

 絶叫を上げた男性は、小さな人形に引き摺られていく。

 何故か、ないはずの身体もついていた。


(食べないで! もう俺を食べないでくれぇ!)


 男性の絶叫で、セラフィマは漠然と理解する。

 セラフィマは、野菜として、誰かに食べられる為に、生まれ変わったのかと。


(ふふふ。あの男性はとてもとても業が深いみたくてね? もう数え切れないほど食べられているのよ! 全身細かく切り刻まれたり、煮込まれたり。ああ! まるごと家畜に食べられたとかもあったかしら?)


(な、何で知っておるのじゃ?)


(強制的に見せられることもあるし。自分が体験したりもしたからね、知っているのよ?)


 ないはずの全身が恐怖で震える。

 感情の麻痺はとけてしまったらしい。

 意識がある時は永遠に、麻痺していれば良かったのに。

 己の身体を食べ尽くされる最後は、さすがのセラフィマも想像できえなかった。

 しかも、それが何度も何度も繰り返されるのだ。

 頭の中で歯ががちがちとうるさく鳴っている。


(かいほう! 何時か解放されるのではないのか! 解放された者は一人もおらぬのか!)


(うーん。解放された人はいるよ。ただ、極々少数だし、かなりの運が必要かなぁ?)


(条件を! 解放される条件を! お主が知る限りよい。教えては貰えぬじゃろうか?)


 知らない方が幸せかもねーと言いながらも、女性はセラフィマが知りたくなかった絶望を教えてくれた。


 最低でも百回以上殺されること。

 百回以上狂気に堕ちること。

 百回以上絶望すること。

 その上で、この村に必要なしと判断された物に思念として憑いている状態で、殺されること。


(そもそもね? 必要なしと判断される物って少ないのよ。村の呪いで古くなっても新品にできるみたいだし。私が運良く解放というか消滅の瞬間を見られたのは、一度だけ。書物に思念が憑いていた状態で、書物に気に入らないことが書かれているっていう理由で燃やされちゃった時ね)


 書物を燃やすなど書物好きのセラフィマにしてみれば万死に値するが、燃やした奴は制裁を食らったはずなので、その点の留飲は下がる。

 しかしセラフィマとしては、いらない書物など存在しないと思うのだが、村は何故その書物を不用と判断したのだろう。

 そして、焼けてしまった書物を何故復活させなかったのだろう。


 疑問点を女性に尋ねてみる。


(あくまでも推測でしかないのだけれど。書物は送り込まれた天才的な罪人が書き残した、この村での快適な生存方法だったの。罰を受けるための村だからね。簡単には生存させたくなかった。だから、不要とされ、消失しても復活させなかったんじゃないのかなぁ)


 女性の説明になるほどと頷く。

 セラフィマもその書物を読んでみたかった。

 こんな村でも絶望せずに、長く生きてみたかった。

 生身の身体のままで、贅沢でなくてもいいから、満足できる生活を。


(でもね? その書物についていた思念って、書物を書き記した男性のものだったのよ!)


(どういう、ことなのじゃ?)


(……呪いに満ち溢れた村のどこかに、良心があって。村で幸せに生きていく道を示した男に、恩赦的なものを与えたんじゃないかなって、ね。私は、そう解釈しました!)


 もし女性の解釈があっていたとするならば、セラフィマが解放される日は未来永劫こない。

 今までの人生において、無償の手助けなど、一度たりともしたことがないからだ。

 誰かの幸福など、祈ったことがないからだ。

 自分の罪を、何一つ、悔いていないからだ。


(ひっ!)


 髪の毛が抜けそうなほどに強く引っ張られる感覚がある。

 恐怖に引き攣った声が出た。

 上目遣いに見れば、人形がセラフィマの髪の毛を掴んでいる。

 

(痛いっ! 痛いぃいいいいい!)


 引っこ抜かれる瞬間に、全身を細かい針で連続して突き刺されたような痛みがあった。

 しかもなくなった身体が復活しており、目のつくところ全てに針穴が空いたような気持ち悪い痕が残っており、血がじわじわと滲み出ている。


(妾の、手が! 足が! あな、穴だらけじゃ! ひたいっ! ひいったい!)


 セラフィマは痛みに慣れていない。

 こんな痛みを経験するのならば、ヴォルトゥニュ帝国で拷問の一つも受けておけば良かった。

 そうすればここまで痛みを感じなかったかもしれない。

 呪術でほとんどの攻撃を返し続けていたセラフィマは、肉体的な痛みにはとことん弱かったのだ。


 引き摺られている最中に、身体のあちこが裂ける。

 木にぶつかった足は簡単に骨折して奇妙に曲がった。


(いー。いー! いぃいいい! いたいっ!)


 痙攣する瞼から微かに見えた女性は、相変わらず楽しそうに笑っている。

 笑いながら、セラフィマに向かって、囁いた。

 声の聞こえる距離ではないにも関わらず、はっきりと聞こえた。


 頑張って、最低百回死んでね!

 貴女なら、軽く千回狂えるかな?

 一万回は、絶望できそうだね! 

 

 女性は謳うように、セラフィマの未来を予見していた。


(いやじゃ! 死ぬのは嫌じゃ! 痛いのも嫌じゃああああああ!)


 殺された時に痛みを伴わなかった。

 最初の死を認識できていれば、まだ恐怖や痛みに耐え切れたかもしれないけれど。


(包丁を振り下ろさないで!)


 まな板の上へ転がされた。

 だん! と胴体が真っ二つにされる。


(妾の身体を切り刻まないで!)


 形の良い乳房が、跡形もなく刻まれていく。


(熱いー! 熱いー! 茹でないで! 掻き混ぜないで! 痛い! いたいぃ!)


 細かく切り刻まされてしまった身体が、熱湯の中に放り込まれた。

 調味料が身体に染みて痛い。

 痛い。

 この状態で、どうして痛みを感じられるのか理解に苦しむが、痛い。


 自分の身体が食材にされ、料理されているのを、激痛に苛まれて見続けるのが、認識できた初めての死だなんて、あんまりにも残酷だ。


 更には、これが、続くのだ。

 百回も、千回も、一万回も、続くのだ。


 誰かに食べられて、消化されるまで、痛みは続くのだ。


 目玉をくり抜かれても、見続けるのだ。


 痛みが終わったら、再び収穫物になって引っこ抜かれて、残酷に殺される日が来るのを怯えながら待ち続けるのだ。


 セラフィマが流した大量の涙は、スープに程良い塩加減を加えるアクセントになったようだ。


 最高の塩加減じゃのう!


 誰かがそう言って、喜んでいた。



死んでも意識があって、永遠に苦しめられるエンド。

ちなみに、反省して罪を贖いたい強い意識が出てくると、村からは解放される場合もあります。

ただ、村へ送られてくる罪人は、相当に駄目な人達なので、解放される人は極々僅かです。


お読み頂きありがとうございました。

引き続き、ヴァルヴァラ編をお楽しみ下さいませ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ