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俺の聖剣とあの娘の秘密なネジ穴  作者: 月凪
第二章 メガネの呪縛と、奇襲からの特攻作戦
9/15


 お菓子を全て持って行ったラムと別れ、俺とカイロは、どこまでも続く一本道をとぼとぼと歩を進めていた。

 囮になってくれたことは憧れる程に格好良かったが、リュックを丸ごと持っていったことで台無しにしている。

 それでも、ラムが大半の敵を引き受けてくれていると信じて先へと進んだ。道中、三度の欠陥消去者と遭遇したが、カイロが一刀の元に首と胴を切り離した。

 そして、この建物の最奥に辿り着いた。そこで待っていたものは、絶望と言うしかなかった。


「死ぬな……」


「死ぬね……」


 他に言葉が探せなかった。カイロも同じ心境だろう。この先の現状を目の当たりにすれば、誰でもこうなる。

 なぜなら、ドアのない奥の部屋に、真っ青なドレスを着た女の子が机に頬杖を付いて寝ていたからだ。側には十人程の欠陥消去者も控えている。

 こんな所に一般の人が居る訳がない。結果は分かっていたが、俺はマイナスドライバーで調節孔ネジを弄り、女の子の確認を取った。

 右手首と腰の辺りに、二つの触絶許回路ブラック・ボックスがあり、チィママだと確定しただけだった。

 

「二つある、チィママの一人だ。どうする?」


「寝てるから、起きる前に殺ろ。それでダメなら……たぶん、ムリ。どうせ、モードを変えられるのは一回だし」


 この状況では、他に作戦なんか浮かばない。

 補給すらままならないと考え、ポケットの中を探った。幸運なことに、一つだけ飴が入っていた。リュックを借りる交渉をした時の余りを、ポケットに入れてくれた自分に感謝した。


「ツイてた。これで、一回は全力でいけるな」


 飴を渡したが、カイロは受け取ってくれなかった。


「それを食べるのは、あんた。私が速攻で周りの取り巻きの首を斬る。チィママを殺るのは聖剣の方が確実だから。いこ……。モード、疾風ハヤテ


「ちょっ、待っ……」


 カイロは緑に輝く刀を握り、メガネをオデコにずらした。そこが定位置とばかりに額にメガネが収まり、風を巻いて消えた。

 またも相談なしに始まってしまい、飴を口に放り調節孔を深く捻り力を解放した。

 敵の首が宙を舞う中、みなぎる力を味方につけてチィママの背後に陣取った。

 ドレスの開けた背中の中心に調節孔を見つけ、マイナスドライバーを刺し込んだ。頭に過る躊躇いを感じながら左に回そうとして、爆発が起こり吹っ飛ばされた。


「燈っ。つつっ」


 カイロは不意の爆発と消耗の激しさに、足を止めさせられた。風のように疾く動けたが、初めて使うモード変更が、これ程までに消耗させられるとは予想の外だったようだ。


「ふあぁ。ん、おはようございます」


 伸びをしかけて、俺たちに気付いて間の抜けた挨拶をした。また眠そうに眼を擦り、改めて両手を上げて伸びをした。

 強化されている俺にダメージは少なく、肩で息をするカイロの側へ移動した。


「初めまして、チィママを任されています、フォレストと申します。大人しくしては頂けませんか」


 くりっとした眼に、上品に通った鼻筋が印象的なフォレストは、困ったように頭を下げた。

 俺に利く義理はなく、カイロが心配でならない。それに、カイロがなにかしでかす前に、俺がなんとかしなければならない。

 そう考えた矢先、カイロが残像を土産にフォレストに斬りかかった。

 カイロの振るう刀は、宙に漂う葉を斬り裂き、爆発のお返しをもらい戻ってきた。

 

「危ないですよ。発破リーフって言いまして、触れるとバンッですから」


 フォレストの体の周りに、緑の葉が渦巻いていた。


「とっても、眠いのですよ。加減はしますけど命を奪ってしまいましたら、すいません」


 濃い緑の葉が羽を持つ虫の群れのように、俺たちを目掛けて襲ってきた。

 俺は倒れているカイロに覆い被さり、歯を食い縛った。

 背中に衝撃と熱が破裂し続け、痛みが笑えるレベルまで達した。


「どけ……。自分のことは、自分で……」


 俺を押し退けようとするカイロの腕には、悲しいくらい力が無かった。

 例えカイロに力があったとしても、俺はこのままでいたに違いない。

 大好きな嫁と唇が触れられるような距離に居られる機会は、滅多にないからだ。

 爆発の衝撃が背中を伝い喉から登ってきた血が、カイロの額にあるメガネに降り注いだ。


 これは死ぬと悟れて、だったらいいよなとカイロの唇にキスをした。


「にげ、ろ」


 重ねた唇に、血塗れの飴を押し込んだ。


「初めて……」


 カイロが口移しで受け取った飴を噛み、衝撃と熱が遠退いた。爆発は止んではいないが、着実に距離が離れていく。

 俺に当たる葉を、立ち上がったカイロが斬っていた。


「初めてだった……。間接キスは……気持ち悪いけど……」


 口に残る飴を微塵の破片に変え、眼を瞑って飲み干した。


「燈、あとでぶん殴る」


 カイロの操る刀は凄まじい迅さを備え、空気ごと衝撃すらも切り裂いていく。


「……ああ……」


 あとで、というのが嬉しくて、俺はそれだけ絞り出せた。


「夜摩刀、サムライのイジを見せてやろ。あいつを斬るまで休まない……月月火水木金金……壱刀漆刃イットシチジン


 一太刀が、七つの銀線を描いた。

 それは、神速の刀捌きによって、一振りの間に七度斬るカイロの最高速の力だった。

 次の一太刀も七つ、次も次も。

 遂には、無数にあった葉も爆煙も全て斬り捨て、カイロは無防備になったフォレストの前に立った。

 七つの断線がフォレストを寸断しようとし、今までにない規模の爆発がカイロの体を持っていった。


「ほんとに、今のは危なかったです。眠くて対応がおくれ……」


 フォレストの背後から、顔の半分を血に染めたシュガーが尖った爪を首筋に突き立てた。


「眠りなさい」


「だれ……シュガー……どこから」


 フォレストは強烈な睡魔に襲われ、立っていられず地に手を付いた。


「燈さま、フォレストに聖剣を」


 後を追うように、シュガーは膝を折った。

 

「いま……いく」


 俺は全身くまなく訴えてくる痛みに抗い、這ってフォレスト元へ向かった。

 そして、ほうほうの体で辿り着き、フォレストの調節孔にマイナスドライバーを突き入れた。

 

「助け……て」


 眠気と闘うフォレストが命乞いをした。

 そのせいで、今からすることの意味を明確に伝えられてしまった。

 俺は、フォレストを殺すことになってしまう。命の重責に俺は耐えられるのだろうか。

 躊躇いに沈み、手から力が抜けてマイナスドライバーを放してしまった。

 その隙を突かれ、フォレストが倒れているカイロに向かって手を伸ばした。カイロの二メートル上に、ひらひらと大きな葉が一枚、舞い降りてきた。


「発破を仕掛けました。私の調節孔から聖剣を抜きなさい。おかしな真似をすれば、あのお嬢さんを消し飛ばします」


「フォレスト」


 シュガーはフォレストを睨み付けた。


「ごめん、カイロが。俺には出来ない」


 フォレストの背中に突き立ったマイナスドライバーに手をかけた瞬間、カイロの上を舞っていた葉に穴が空き爆音が轟いた。直撃こそしなかったが、近すぎた為にカイロの体は爆風に運ばれ壁まで転がって行った。

 意図しない発破の起爆は、フォレストにとって晴天の霹靂となり動揺させた。

 俺はその機を逃さず、マイナスドライバーを握り、限界まで左に回した。


「死にた……がぁ……」


 断末魔とともにフォレストは塵となって消え去り、触絶許回路だけが一つ残された。

 すぐにやってしまった、という罪悪感が重くのし掛かってきた。


「嫌なことを、させてしまいましたね」


「いいんだ。カイロを守れたから」


 俺は敵の命よりも、カイロを優先した。後悔は勿論あるが、間違えたとは思わなかった。


「ちぃーっす。あれ、マザーもいたっすか。ボロボロっすね」


 長銃を片手にやって来たラムが、俺たちを見て笑顔を作った。

 カイロに仕掛けられた発破を撃ち抜いたのは、ラムだったようだ。

 兎にも角にも、なんとか誰も欠けることがなく生き残れた。

 だから、ラムがお菓子を持って行ったことはチャラにした。

 

「じゃ、帰るっすよ。これ余りっす」


 ラムが俺たちの口に飴を突っ込み、背に俺を背負い、両腕にシュガーと意識のないカイロを抱えた。クマさんリュックは俺の担当だった。


「力あるんだな」


「お世話をかけます」


「んー、ウチ力持ちっす。って、モードのお陰っすけどね。メガネ様々っす」


 基地に戻るまで、ラムが自分の活躍を喋り続けてくれて、余計なことを考える暇もない帰り道となった。





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