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俺の聖剣とあの娘の秘密なネジ穴  作者: 月凪
第二章 メガネの呪縛と、奇襲からの特攻作戦
8/15

 リュックにお菓子を詰めている間に、ラムは化粧を直した。カイロは刀との会話を終わらせていた。


「見て、名前をつけたの」


 カイロの右手の刀が光を放った。

 真っ直ぐに構え、一振りし風を巻き起こした。


「この刀の名前は、夜摩刀ヤマト。もう一つの私」


「いいっすね、カッコいいっすよ」


「そういえば、シュガーが言ってたよ。能力に名前を付けさせろって」


「リモコンの話でしょ。何回も聞いた」


「それそれ、リモコンの例え話な」


 名前とは本質を表す重要なものだと、シュガーなりの理論を交えた長い説明をしてくれていた。


「ウチは、フィーリングで名付けて行くっす」


 ばっちりな化粧をキメたラムが、芝居掛かった動きで銃を撃つ真似をした。


 この先に死が待っているというのに、俺の心に迷いは無かった。例え死んだとしても、恨み辛みではなく清々しい気持ちで逝ける。そんな風に思えた。


「行くか。ラム、塞転を動かしてくれ」


「かしこまりっす」


 ラムがコンソールに映る実行のキーを押した。モーターの振動音が鳴り出した。どんな仕組みなのか、窓の外の景色だけが高速で動き、基地の中には変化はなかった。五分とかからずに音が止み、外の景色が固定された。


 リュックを背負いドアを開けると、すぐ先に工場に似た長方形の建物があった。距離にすれば十メートルも離れていない。

 辺りに他の建物はなく、荒野が広がっているだけだった。


「あれじゃないよな? 間違えたかな」

 

「あれっすね。つうか、クマさんリュック似合わないっすね」


「私のクマさん……」


「近過ぎるだろ。もうバレてるっての。奇襲ってなんだよ、激しく帰りてえよ」


「帰りたくても、しばらくは塞転は使えないっす。充電とかいるっすから」


 引き返す手段の無さが退路を塞ぎ、正に背水の陣となってしまっている。

 幸いなことに敵の姿はないが、作戦は奇襲ではなく特攻に移行せざるを得なくなった。

 さっきの気持ちは消し飛んで、今死んだら化けて出てやると誓えた。


「行くか……」


 やる前から疲れてしまい、足取りも重く建物に近付いた。後に続く二人はつらっとしている。

 敵の気配を探りながら、身の丈を越すシャッターの前に辿り着いた。

 他に入り口はなく、端も確認は出来なかった。

 突拍子もなく、カイロが刀でシャッターを斬った。

 がしゃがしゃん、と派手な音で俺たちの存在をアピールしてくれた。

 ぐっと高まる死の確率に脈が跳ね上がる。


「頼むから相談してから斬ってくれ」


「百パーバレたっすね」


「他に入り口ないじゃん」


 カイロは悪びれずれもせず、ずかずかと足を踏み入れた。

 中はコンクリート造りで天井は低いが、奥がどこまでも続くトンネル状になっていた。

 所々にある電灯が、ちかちかと点滅し、先の見えない恐れを演出している。

 まるで心霊話に出てくる、ループしてしまう道のようだ。


「あそこ、下から光が漏れてる」


 カイロが光を目指して駆け出した。


「だから、なんかする前に相談しろっての」


 カイロを追いかけた道の端に、人が通れる程の正方形の穴が空いていた。

 それは通気孔の用途に見え、覗き込んで唖然とした。

 床を隔てて地下に広がる部屋には、欠陥消去者が群れを為している。全員、漏れなく黒ずくめで、大嫌いな例の虫の巣さながらのおぞましさだった。


「回れ右。ここハズレ」


「うわっ、気持ち悪い」


 下を覗いたカイロが慌てて顔を戻した。


「燈っち、端末ってここじゃないっすか。数が多いってことは、こいつらにとって重要な区画の可能性が高いっすから」


 ラムが眉を寄せて思案を巡らせている。

 確かに、可能性だけでなら低くはない。ただ俺は、ここから行きたくはない。


「他の所を調べないか」


「ラムの勘は、二回に一回は当たるから……」


「オッケーっす。ウチが一人で行って来るっす。お菓子を分けて欲しいっす」


 にこり、と口角を上げてラムは手を出した。


「ダメだって。とにかく落ち着け」


「どうしたの?」


 心配そうなカイロが尋ねるが、ラムはそれには応えなかった。


「ここじゃなかったとしてもっすよ、敵を引き付けておくには、ベストな場所っす。その間に、カイロっちと燈っちは自由に動けるっす。こんな場所で、マジでやられたらヤバいのは、挟み撃ちに合うことっすからね」


 らしくないラムの並べる正論に、俺は二の句が継げなかった。


「ラム、約束は忘れてないよね?」


「もちっすよ。カイロっちと結婚するまで死ねないっすからね」


「んな約束するか……。燈、ラムにお菓子あげて」


 二人は笑っていた。俺にだけ分からないなにかの約束で。俺だけ蚊帳の外に置かれている疎外感が寂しかった。

 俺は逆らえず、肩からリュックを下ろした。

 ラムが頭の上のメガネを、目元に持っていった。


「おおっと、バッチっすね。語相手探スコープモードって名前にするっす」


 戦術モードの変更をしたラムがレンズ越しの左眼で、カイロと俺にウインクをした。さらにリュックを漁り、棒つきの飴を咥えキメ台詞をくれた。


「命懸けなガールズトーク、キメてくるっす」


 ラムがリュックを引っ掴み、勢いよく穴から飛び降りた。

 そこまでは映画のワンシーンのように絵になっていたが、事態の深刻さに俺とカイロは咄嗟に叫んだ。


「全部持ってくなー」


「私のクマさんー」


 俺とカイロの叫びは、空しく響き渡るだけだった。

 


 

 ラムが軽やかに敵陣のど真中に降り立ち、ボリュームたっぷりの胸がたわんだ。空から降ってきた侵入者に対し、欠陥消去者の群れが一斉に殺意を殺到させる。その数は三百を軽く超えていた。


「うっわ、多いっすね。パーティの始まりは、乱射魔銃話マシンガン・トークからっす。お喋りするっすよ、みんな聞き飽きるまで……」


 ラムの交差させた両の手に、ピンクメタリックに鈍く光を返す銃が握られた。

 以前とは形が異なり、銃身は倍の長さを得てグリップは握りやすく馴染んだ。引き金を守るガードはなく、暴発ハプニングさえも楽しめる、ラムならではのとんでも仕様だ。

 握りを確かめ二つの銃口から、水平に弾丸を掃射し前衛の敵を薙ぎ払った。


「くぅぅ、初めて当たったっす。飛びそうっす。もっとお話するっすよ」


 メガネ越しのラムの眼に映るのは、高性能なスコープが視ている景色と相違ない。距離も手癖のブレさえも計算に組み込み、正確無比な射撃を可能としている。

 今のラムは、視線を合わせるだけで対象を石に変える化け物と同義だった。


 敵が列を成して突っ込んできた。

 ラムが弾丸をばら蒔くが、前列が盾の役割をし、続く後列の足を止められない。それは、痛みも感情もない者にしか使えない作戦だ。

 右手の銃口にはお喋りをさせたまま、左手の銃を消した。


「なるっすね、話題を変えるっす。一方通行銃話スナイプ・トーク、女の独り善がりな想い、聞いて欲しいっす」


 伸ばした左手に姿を現したのは、艶を持たない漆黒の長銃ライフルだ。引き金のガードがないのはラムの性格を象徴している。

 腕よりも長い銃を肩付けするでもなく重さを感じさせず、見事な姿勢を保ったまま引き金を弾いた。

 前方に迫っていた敵の腹に、向こう側が見える大穴が穿たれ、後ろの敵をまとめて貫通し壁までも道連れにした。


「これ、お腹が減るっすね。無駄話は控えるっす」


 咥えていた飴を噛み砕き、隣の列に同じ運命を与えて銃を戻した。

 後ろ手に背負ったリュックを探り、取り出した板チョコの銀紙を剥がした。

 ラムがチョコに歯形を付けている間、敵は丸く取り囲むように展開している。

 ラムは左右を確認し、乱射の手応えに酔い始めた。

 前後左右から前進を開始した敵の狙いは、唯一弾が来ない背後だ。

 夢中で銃を撃ちまくるラムに、後ろから三人の敵が飛び掛かった。チョコに彩られた唇の端が、自嘲の形につり上がった。


蜂巣罠銃話ハニー・トーク


 たんっ、とラムの足が地を蹴った。

 ラムの立つ地面の後ろ一歩分の場所に、密集した幾つもの銃口が生え、宙にいる三人の敵を文字通りの蜂の巣にした。


「誘われたら最後、逃れられないハニートラップ。はぁ……ケツ振って待ってたっすのに、三人だけってショックっす。魅力ないんすかね、ウチのお尻」


 誰もが羨むスタイルに、自覚のなさという魅力も足して、ラムは敵を殲滅していった。


「カイロと燈は……大丈夫かしらね……」


 ばりばりと後先を考えずチョコを食べながら、ラムは二人の身を案じお喋りを続けた。




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