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俺の聖剣とあの娘の秘密なネジ穴  作者: 月凪
第一章 異世界への強制連行と、嫁にそっくりなデコッパチ
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「私だけでは、他のチィママたちに勝てるはずがありませんでした。だから力を求め、他の世界から聖剣を持つ貴方を呼び寄せたのです。急を要していたので、燈さまには了承も得ずに、誠に申し訳ありませんでした」


 シュガーは何度も頭を下げて、零れ落ちそうな涙を揺らした。

 ここまでやられると、逆に俺が悪いことをしたような気持ちになってきた。


「ああ、うん。それはもういいけど。聖剣ってマイナスドライバーだろ。なんか代わりになるものくらいなかったのか?」


 みんながマイナスドライバーを聖剣と特別視するが、俺には只の工具としか見えない。

 

「この世界に、武器となるものは存在しないのです。創造主が他人を傷付けるものを赦さなかったからです」


「いや、マイナスドライバーは武器じゃないから。そう言うなら、カイロとラムは使ってたけど」


 異分子消去者と闘った時、カイロとラムは武器を使っていた。カイロは刀を、ラムは銃を。


「はい。それが、これから行う改造のお話に繋がるのです。触絶許回路を三つ宿した欠陥という名の奇跡。二人は、この世界には存在し得ない運命ジョブを背負って生まれ落ちたのです。こちらに聖剣を」


 シュガーはラムの左手を取った。上に向けられた手首には調節孔があった。

 俺はマイナスドライバーを当て、僅かに回した。

 ラムの左手の周りに塵のようなものが集まり、みるみる銃の形を為していく。

 シュガーにもういいと合図され、俺はマイナスドライバーを調節孔から引き抜いた。


「これがラムの能力、銃話トークです。ラムは銃士ガンナーの運命を宿しています。自らのエネルギーを核に、空気中の浮遊分子を集め銃を作り出す。弾丸も同じです」

 

 あの時、ラムが倒れていた理由はこれだった。銃を撃つ度にエネルギーを消費して、腹が減って倒れていたのだ。


「なるほどね。一発も当たらなかったけどな」


「それは仕方ありません。二人の身体能力は最低値に設定されていますから。能力ソフトウェア身体ハードが対応できていないのです。これから行う改造で、身体能力を設定し直します。貴方たちだけが、この世界の希望です。始めましょう」


 いよいよ改造だと、シュガーは怪しさ満点の笑みを浮かべた。


「胸のは生命を維持するためのものです。左手首の方は銃話と身体能力です。ひひひ、左太ももの方へ聖剣をどうぞ」


 意地悪そうな顔のシュガーは、男の弱味をついてくる。

 ラムのどこに視点を合わせていいものかと、泳いで行こうとする目を固定し、太ももの調節孔にマイナスドライバー刺して回した。

 ラムの日焼けした肌が、少しだけ色が薄くなった。さらに回すと、肌が白くなっていく。


「おっと、そこまでです。限界まで回すと……ひそひそ……」


「マジ? それ凄くない、夢があるな……」


 小声で語られるラムのもう一つの能力を考え、男のロマンが止まらない。

 妄想の彼方へ旅立とうとして、シュガーのビンタに引き戻された。


「後にしましょうね。調節孔を移動させ設定をお願いします。ちなみに、調節孔に干渉し規定ルールを改変できるのは、聖剣と貴方が揃った時だけですから」


「お、おう」


 それから一時間をかけて、ここはどうでしょう、いやこうしようと議論を交わし、ラムの身体をいじり回して改造を完了させた。



 改造を終えたラムにシュガーが服を着せた。

 シュガーがお疲れさまと言って、棒つきの飴をくれた。

 俺は受け取ろうとして、手を伸ばした拍子に膝が揺れて落としてしまった。

 シュガーは飴を拾い、包装を解いて俺の口に突っ込んだ。舌に触れた甘さは心地好よく、体の全体に広がっていく錯覚を覚えた。


「これも心得ておいて下さい。力を使えば体力を消費します。闘う時は必ず、食べ物を携帯すると」


 言われて思い出した。俺も調節孔をいじっていたことを。


「休憩しましょうか?」


「いや、いいよ。カイロをやってから、ゆっくり休憩するから」


 口に広がる飴の味が、直に体力を回復させてくれている感覚があった。一体、俺の体はどうなってしまったのか。とりあえず、聞くのは後にした。



 次はお待ちかねの、カイロの番となった。

 シュガーが俺をちらちら見ながら、カイロの服を脱がせテーブルに寝かせた。

 眠るカイロを見る眼が霞んで喉が乾いた。

 カイロの胸はペッタンコで、くびれなんかも全然なくて、だけど大好きで……


「お嫁さんのことが、大好きだったのですね。こんなに愛されて、女として羨ましい限りです」


 からかわれると思っていたのに、シュガーは優しかった。だから、俺は甘えて不満を爆発させてしまった。


「なにも覚えてなくて……ここは知らない場所で……わけわかんねえし……いきなり殺されるとか……帰りたい……」


 シュガーはなにも言わず抱き寄せてくれた。ドレスに愚痴と涙で染みを作った。

 落ち着くまでそうしていて、ここで弱い自分とさよならと決めて、決別の印に飴を噛み砕いた。


「嫌なとこ見せたな。ありがと、もう大丈夫」


「調節孔は感情も昂らせます。お気になさらずに」


 俺はシュガーのドレスに別れを告げて、濡れた目を拭ってカイロに目をやった。

 カイロの胸の真ん中には、三つ並んだ触絶許回路があった。

 そこから伸び絡み合う線を辿ると、両の手首に続いている。


「右手首へ、聖剣をお願いします」


 シュガーの持ち上げたカイロの右手首へ、俺はマイナスドライバーを刺して回した。

 カイロの右手の甲を始点に、緑の光が集まり伸びて刃を形成した。それを確認し、元に戻しマイナスドライバーを抜いた。


「これがカイロの能力、伝魂回路刀サーキット。カイロは侍士サムライの運命を宿しています。自らのエネルギーを高純度に圧縮し刀を作り出す。果ては魂さえも刀身に替え、際限なく鋭さを増す危険なものです」


 刀を手に敵へ向かったカイロの姿が頭に過った。急激な体力の消耗の原因は、刀が砕けたからであった。


「左手首の方は速度になっています。これが厄介なのですが、二つは連動しています。片方を強化すると、もう片方が弱化します。バランスを考えて改造しましょう」


「うーん。つまり、バランス型にするか、特化型にするかってことだな……」


 そのままシュガーと悩みながら、二時間を使いなんとかカイロの改造を完了させた。

 終わった頃には、俺はふらふらになっていた。


「お疲れさまでした。調節孔を戻して下さいね」


「マジで疲れた」


 力の入らない手で首の調節孔を戻した。

 横になってしまいたかった。今は身体が鉛より重い自信がある。

 うつらうつらしながら、シュガーが二人をベッドに移すのを眺めていた。



 知らない内に場面が飛んで、誰かのイラ立った声が聞こえてきていた。


「また、被りました。またです。このこの」

 

 途切れ途切れにシュガーの声を聞きながら、遠退いていく意識の好きに任せることにした。


「……私たちの世界……オンラインを頼み……貴方に……宿るは……なのだから……」


 最後に聞こえた言葉の響きに、俺は誇らしい気持ちで意識を手放した。





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