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俺の聖剣とあの娘の秘密なネジ穴  作者: 月凪
第三章 罪の意識と、大好きなクマさん
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 とんとん、とドアがノックされた。作戦の始まりの合図だ。

 カイロが素早くベッドから体を起こした。この基地を訪ねてくるのは、シュガーか敵かの二択だから当然の反応だ。


「敵か。ラムどこ行った?」


 ここまでセーフだ。ラムならトイレと誤魔化すと、カイロは疑いもせずドアの前に立ち刀を正眼に構えた。


「ボクだよー。カイロー、開けておくれよー」


 くぐもったアニメの主人公みたいな声がして、またドアがノックされる。よく聞けばラムだと分かりそうで、雲行きが怪しくなってきた。

 

「ボクって誰だ?」


「ボクを忘れたのかい。悲しいな、開けるよ」


 ドアがゆっくりと開かれ、クマの顔になっているフードを深く被った着ぐるみ姿のラムが入ってきた。カイロの手から、するり、と刀が落ちた。


「く、クマさん……」


 口を半開きにして、メガネの奥の瞳がぐるぐる回っている。


「会いたかったよー、カイロー」


 ラムは成りきっているようだけど、ここでアウトだ。不自然な胸の二つのでかすぎる膨らみが、正体を隠す気がまるでないからだ。

 

「クマさん、あの時はごめんね。置いて来ちゃって。一一グス……」


 まさかのセーフに、俺はツッコミかけていた言葉を飲み込んだ。


「ボクは気にしてないのさ、こうしてまた会えたからね」


 ぎゅうっ、と着ぐるみの腕がカイロを抱き締める。胸の谷間にカイロを押し付け、再開の喜びを表現している。俺から見えるラムの顔は、これからどうイタズラをしてやろうか、という欲情に満ちていた。

 バレるから、と手を振ってもラムは気付いてくれない。おそらくアウトまでは、秒読みの段階だ。


「クマさん、だいす……は?」


 気持ちを伝えようと胸の谷間から上を向き、カイロが石となって固まった。


「わ、私も、だ、大好きよカイロ」


 ラムは自らフードを捲り上げ、キスをしようと口をタコみたいに伸ばして迫った。


「ラムじゃないかー!!」


 激怒してラムを蹴り飛ばした。


「なぜかバレたっすー」


 ラムはぶっ倒れ、降参とばかりに万歳をした。


「バレたんじゃなくて、バラしただろ」


 あと少しでいけたかも知れないのに、ここで完全にアウトになってしまった。


「うー、クマさん。うぅー」


 騙されたカイロは、怒りを晴らすのではなく、ちらちらと着ぐるみを盗み見ては、あさっての方向へ視線をさ迷わせていた。


「カイロっち。クマさん欲しかったら、燈っちにお願いするっすよ」


 カイロは何度も迷いながら、俺の前にちょこんと正座をした。愛らしくて鼻血が出そうだ。


「あ、あれ欲しい」


 上目遣いに震えながら、ラムを指差した。


「ウチはカイロっちのものっすよー」


 照れまくるラムを蹴りに行ってから、また俺の前に座った。


「中身あげるから。クマさん……ちょうだい」


 プライドに責められながら、クマの着ぐるみを欲していた。中身の人が可哀想には思ったけど、俺に断る理由なんかない。


「もち、大切にしてな」


 にまぁ、と嬉しそうに唇を開いてラムに襲いかかった。


「脱げ、今脱げ、すぐ脱げ、早く脱げ。私のクマさんだ」


「いやーん。燈っちが見てるっすー、燃えるっすよー」


「燃えんのかよ」


 どたばたと着ぐるみを剥ぎ取ろうと、くんずほぐれずの取っ組み合いになる。


「カイロっちも脱ぐっす」


 負けじと、組伏せられたラムがカイロのワンピースの裾を取った。


「喋んな偽物」


「はい」


 首に刀の腹を突き付け、低い声で黙らせた。

 すっかりまな板の上の鯛となったラムから、カイロはクマの着ぐるみを剥ぎ取った。


「私のクマさん。ずっと一緒」


 寝転がったまま着ぐるみを抱き締め、ころころと転がりベッドの下に入って行った。


「バッチっす」


 ラムが親指を立てた。かなりアウトな場面は合ったけども、なんとか作戦は成功を収めたようだ。作戦の成功報酬はというと。


「がおー、クマさんだぞー」


 ベッドの下から、カイロが着ぐるみを着て出てきた。俺のサイズではかなり大きく、ぶかぶかで袖も余りまくっている。それでもいいのか、カイロは両手を上げて嬉しそうにクマの真似をしている。


「クマ好きなんだな」


「クマさんは、一人ぼっちの私にハチミツをくれたんだ。本当に強い奴は優しい、クマさんが最強」


 よく分からないカイロの過去だが、クマには並々ならぬ恩があるようだ。がおーがおー言っているカイロを見ながら、ラムは散らばった衣服を拾い俺に耳打ちをした。


「そん時の中の人は、ウチっす。内緒っすよ」


 そう言って、ラムは懐かしそうに笑った。

 いつか詳しく教えてなと返して、カイロの気が済むまでクマの成りきりショーに付き合った。


 その日の夕食は、全員が同じメニューになった。ガチャ運を使い切ったようで、ラムもビスケットだったから。

 それでも、こっちに来てから一番に美味しくて楽しい夕食になった。

 みんな、笑っていたから。




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