伍
帰ってすぐにムカつく視線を遮るように、基地のドアを乱暴に閉めた。
カイロとラムは緊張の糸が切れたのか、へなへなと座り込んだ。
もうこの街には居たくなかった。適当に窓のコンソールを操作して、塞転に移動を命じた。
着いた先は、俺が初めて来た時の森だった。
すうっ、と眠気と空腹に意識が遠退いた。調節孔を戻すのを忘れていた。動けなくなる前に、お菓子を用意した。
「ふぅっす、生き返ったっす」
ラムがシュークリームを一口で平らげ、わざとらしく手の甲で額を拭いた。
「きな粉うまい」
カイロがきな粉餅を口で引っ張り、大袈裟に伸ばして見せた。
「いいよ、無理しなくて」
調整孔を弄り怪我を治しながら、ホットケーキを口に運んだ。旨くもなんともなかった。今の気分なら、なにを食べても同じだ。
ムカつきが治まらない。ラムに止められなければ、俺は間違いなくキレていた。
助けてやったのに、なんで俺たちが化け物扱いされるんだ。自分たちでは、なにもしやがらないくせに。
「燈っち、もう忘れるっすよ。ウチらは馴れてるっすから」
「あいつらと私たちは違う。怖がられても仕方ない」
「辛く、ないのか?」
二人は俺の問いに、涙を溜めて気丈に笑った。
やはり、馴れることなんてない、あってはいけないんだ。悔しいけど、もう少しだけ辛抱だ。見返してやればいい。戦いが終われば、この世界を守った救世主さまだ。
だから、ここは笑って強がるところだ。
「もういいや、俺たち強いからな。見たかよ、俺の活躍」
「ビビったっすよ。燈っちを舐めてたっす」
「私の方が強いけどな」
いつも通りにバカやって、今日は楽しかったって言ってやる。そのネタは、ラムがもう用意してくれている。
「しっしっしっ、今日の戦利品っすよ」
ラムが勿体つけながら、十枚は有りそうなガチャ券を扇のように広げた。カードには全て服飾ガチャとある。
「だと思った。私は夜摩刀と話あるから、邪魔すんなよ」
カイロが興味なさそうに、ベッドに寝転び刀を握り独り言を始めた。
「やっぱ服か、ラムはオシャレだもんな」
「欲しいものがあるっすからね。当てるっす」
クローゼットを開けラムが小さな声でパジャマガチャと言って、ガチャ券を入れて扉を閉めた。
「パジャマ欲しいのか?」
一応、俺も小声にする。
「うっす。カテゴリーを変える時は、音声入力なんで、カイロっちに聞こえないように。バレないように、もっとこっち来るっす」
カイロから見えないように、ラムに肩を寄せた。扉が自動で開き、中から出てきたのは、ピンクのネグリジェ。隠す気があるのかどうかの透け具合だ。
「ハズレっす」
口をへの字にして、ラムが服を脱ぎ着替え出す。俺が隣に居るのにだ。
「次っす」
薄い膜みたいな生地から下着を丸見せにし、ガチャ券をクローゼットへ放った。うん、揺れが半端ない。
次に出てきたのは、色違いの同じ型のネグリジェだった。
「まいったっす。運良すぎてハズレっす」
「ハズレなのに、運いいのか?」
着替えをするラムから、チラシを渡された。
それは、写真付きのガチャのカタログで、今月の目玉と銘打たれていたのが、ラムが引いて着ているネグリジェだった。
「大当たりじゃん。いい値段しそうだもんな、これ」
「欲しいものじゃなければ、なに引いたってハズレっす。次っす」
それはそうだけど、にしても運がいいのも考えものだ。
三度はないだろ、と回した結果は被ってしまった。
「イカサマしてんの?」
「してんなら、狙ったの出してるっすよ」
それからも、ネグリジェこそ出ないが、高価そうなものばかり出た。その都度、ラムが着替える意味は分からなかったけど、目の保養にはなった。
「終わりっす、ウチはダメな女っす……」
ハズレの寝巻きを脱ぎ散らかし、下着だけの格好で俯いた。
よっぽど欲しかったのか、几帳面なラムらしくない。俺も力になってやりたいが、ガチャ運まではどうしようもない。
ガチャ券も切れたし、とここで閃いた。俺の初心者応援ログインボーナスに確か、服飾のガチャ券が有ったことを。
テーブルの下の箱を確認してみると、一枚だけだが有った。
「おい、ラストチャンスだ」
「リームーっす。今日は当たりしか引けない厄日っす。運が微妙な燈っちが回すといいっす……」
ラムは膝を抱えて、変な心の折れ方をしている。俺がガチャを回しては、男物になってしまう。それを説いても、ラムの心はポッキリのままだった。
「男物でも知らないからな」
「どーせ、出ないっす」
俺は一切の期待をされず、ラムが欲しいものも知らないままに、ガチャ券をクローゼットに入れて閉めた。
扉が開き出て来たものは、もふもふのフェルト生地のクマのぬいぐるみに見えた。それは後ろにファスナーがあり、着ぐるみ型のパジャマのようだ。
「これ、恥ずかしくて着れないな」
「きたー!! スタンダップ!!」
襟首を掴まれ、強制的に立たせられる。そして、ラムは俺の頭のてっぺんから爪先に視線を走らせた。
「身長は一七〇ジャスト。誤差、五センチ。いける」
俺の身長をピタリと当て、鼻息も荒く声も大きい。カイロにバレないようにとは、一体なんだったのか。
「クマの着ぐるみが欲しかったのか?」
「黙って、お礼は体で。私の言う通りにして」
横目でベッドのカイロの様子を探り、俺の耳元でこれから行うことの概要を囁いた。
ラムの別人のような口調と雰囲気に呑まれて、俺はたじたじとなってしまう。
「そんなバカじゃないだろ」
「カイロは大馬鹿なの。前もこれでやったし。いい、口裏は合わせてよ」
ラムはクマの着ぐるみを掴み、颯爽とバスルームに飛んで行った。
これから行うのは、プライドの高いカイロにパジャマをプレゼント大作戦だ。
普通にあげては、いくら欲しくてもカイロは素直に受け取ってはくれはしない。そこで、ラムが一肌脱ぐのだ。いや、正確には着るのだけど。
まずは、バスルームの窓から外に出て、あたかも一一一一