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俺の聖剣とあの娘の秘密なネジ穴  作者: 月凪
第三章 罪の意識と、大好きなクマさん
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 帰ってすぐにムカつく視線を遮るように、基地のドアを乱暴に閉めた。

 カイロとラムは緊張の糸が切れたのか、へなへなと座り込んだ。

 もうこの街には居たくなかった。適当に窓のコンソールを操作して、塞転に移動を命じた。

 着いた先は、俺が初めて来た時の森だった。


 すうっ、と眠気と空腹に意識が遠退いた。調節孔を戻すのを忘れていた。動けなくなる前に、お菓子を用意した。


「ふぅっす、生き返ったっす」


 ラムがシュークリームを一口で平らげ、わざとらしく手の甲で額を拭いた。


「きな粉うまい」


 カイロがきな粉餅を口で引っ張り、大袈裟に伸ばして見せた。


「いいよ、無理しなくて」


 調整孔を弄り怪我を治しながら、ホットケーキを口に運んだ。旨くもなんともなかった。今の気分なら、なにを食べても同じだ。

 ムカつきが治まらない。ラムに止められなければ、俺は間違いなくキレていた。

 助けてやったのに、なんで俺たちが化け物扱いされるんだ。自分たちでは、なにもしやがらないくせに。


「燈っち、もう忘れるっすよ。ウチらは馴れてるっすから」


「あいつらと私たちは違う。怖がられても仕方ない」


「辛く、ないのか?」


 二人は俺の問いに、涙を溜めて気丈に笑った。

 やはり、馴れることなんてない、あってはいけないんだ。悔しいけど、もう少しだけ辛抱だ。見返してやればいい。戦いが終われば、この世界を守った救世主さまだ。

 だから、ここは笑って強がるところだ。

 

「もういいや、俺たち強いからな。見たかよ、俺の活躍」


「ビビったっすよ。燈っちを舐めてたっす」


「私の方が強いけどな」


 いつも通りにバカやって、今日は楽しかったって言ってやる。そのネタは、ラムがもう用意してくれている。


「しっしっしっ、今日の戦利品っすよ」


 ラムが勿体つけながら、十枚は有りそうなガチャ券を扇のように広げた。カードには全て服飾コーデガチャとある。


「だと思った。私は夜摩刀と話あるから、邪魔すんなよ」

 

 カイロが興味なさそうに、ベッドに寝転び刀を握り独り言を始めた。


「やっぱ服か、ラムはオシャレだもんな」


「欲しいものがあるっすからね。当てるっす」


 クローゼットを開けラムが小さな声でパジャマガチャと言って、ガチャ券を入れて扉を閉めた。


「パジャマ欲しいのか?」

 

 一応、俺も小声にする。


「うっす。カテゴリーを変える時は、音声入力なんで、カイロっちに聞こえないように。バレないように、もっとこっち来るっす」


 カイロから見えないように、ラムに肩を寄せた。扉が自動で開き、中から出てきたのは、ピンクのネグリジェ。隠す気があるのかどうかの透け具合だ。


「ハズレっす」


 口をへの字にして、ラムが服を脱ぎ着替え出す。俺が隣に居るのにだ。


「次っす」


 薄い膜みたいな生地から下着を丸見せにし、ガチャ券をクローゼットへ放った。うん、揺れが半端ない。

 次に出てきたのは、色違いの同じ型のネグリジェだった。

 

「まいったっす。運良すぎてハズレっす」


「ハズレなのに、運いいのか?」


 着替えをするラムから、チラシを渡された。

 それは、写真付きのガチャのカタログで、今月の目玉ピックアップと銘打たれていたのが、ラムが引いて着ているネグリジェだった。


「大当たりじゃん。いい値段しそうだもんな、これ」


「欲しいものじゃなければ、なに引いたってハズレっす。次っす」


 それはそうだけど、にしても運がいいのも考えものだ。

 三度はないだろ、と回した結果は被ってしまった。


「イカサマしてんの?」


「してんなら、狙ったの出してるっすよ」


 それからも、ネグリジェこそ出ないが、高価そうなものばかり出た。その都度、ラムが着替える意味は分からなかったけど、目の保養にはなった。


「終わりっす、ウチはダメな女っす……」


 ハズレの寝巻きを脱ぎ散らかし、下着だけの格好で俯いた。

 よっぽど欲しかったのか、几帳面なラムらしくない。俺も力になってやりたいが、ガチャ運まではどうしようもない。

 ガチャ券も切れたし、とここで閃いた。俺の初心者応援ビギナーログインボーナスに確か、服飾のガチャ券が有ったことを。

 テーブルの下の箱を確認してみると、一枚だけだが有った。


「おい、ラストチャンスだ」


「リームーっす。今日は当たりしか引けない厄日っす。運が微妙な燈っちが回すといいっす……」


 ラムは膝を抱えて、変な心の折れ方をしている。俺がガチャを回しては、男物になってしまう。それを説いても、ラムの心はポッキリのままだった。


「男物でも知らないからな」

 

「どーせ、出ないっす」


 俺は一切の期待をされず、ラムが欲しいものも知らないままに、ガチャ券をクローゼットに入れて閉めた。

 扉が開き出て来たものは、もふもふのフェルト生地のクマのぬいぐるみに見えた。それは後ろにファスナーがあり、着ぐるみ型のパジャマのようだ。


「これ、恥ずかしくて着れないな」


「きたー!! スタンダップ!!」

 

 襟首を掴まれ、強制的に立たせられる。そして、ラムは俺の頭のてっぺんから爪先に視線を走らせた。


「身長は一七〇ジャスト。誤差、五センチ。いける」


 俺の身長をピタリと当て、鼻息も荒く声も大きい。カイロにバレないようにとは、一体なんだったのか。


「クマの着ぐるみが欲しかったのか?」


「黙って、お礼は体で。私の言う通りにして」


 横目でベッドのカイロの様子を探り、俺の耳元でこれから行うことの概要を囁いた。

 ラムの別人のような口調と雰囲気に呑まれて、俺はたじたじとなってしまう。


「そんなバカじゃないだろ」 


「カイロは大馬鹿ピュアなの。前もこれでやったし。いい、口裏は合わせてよ」


 ラムはクマの着ぐるみを掴み、颯爽とバスルームに飛んで行った。

 これから行うのは、プライドの高いカイロにパジャマをプレゼント大作戦だ。

 普通にあげては、いくら欲しくてもカイロは素直に受け取ってはくれはしない。そこで、ラムが一肌脱ぐのだ。いや、正確には着るのだけど。

 まずは、バスルームの窓から外に出て、あたかも一一一一



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