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春になると雪解け水で街の周りに水があふれるのか、便利なんだか不便なんだか

 さて、本格的にあたたかくなってくるとヨルダン川の上流地域も雪が溶けて雪解け水になり、それによって川が増水する。


 決して降水量が多い訳ではないこの地域で麦が割ときちんと育つのも、上流のゴラン高原などの高い土地の雪解け水がまずはガリラヤ湖を満たし、そこから溢れた水が流れ落ちて、ヨルダン川も増水して、この増水によって水と肥沃な土が上流から運ばれてくるからだろう。


 そうすると多分いまは4月頃だろうな。


「しかし、水浸しになるのは困ったものだな」


 マリアはのほほんという。


「しかしこれこそが大地の女神のお恵みです。

 ありがたく感謝しましょう」


 そう言ってマリアはジッグラトの女神土偶に祈りを捧げている。


 この祈りが通じるか通じないかが長にとってはとても大事なのだな。


「ああ、たしかにそうだな。

 神様、今年も水と土を与えてくれたことに感謝いたします」


 そして周りが水浸しになると、ヤギや羊の乳とともにメインになるのが魚だ。


 まあ、ガゼルが街に近づけなくなるし、ガラリヤ湖から流されてきた魚がいっぱいになるわけだしな。


「ちなみに魚を釣ることはできますか?」


 弓矢は使えないが、魚釣りくらいならしたこともあるし俺にもできそうだ。


「ああ、魚釣りなら俺も大丈夫だ」


 マリアは頷くといった。


「では釣りに行きましょう」


「ああ、わかった、よろしく頼む」


 俺に渡された釣り竿や針の形は21世紀とあまり変わりない。


 竿は柳の枝を使い、針はガゼルの骨を石器で削って作られていて、糸は亜麻をよったものだな。


 沈めるための錘は小石で浮きは葦の茎を使うようだ。


 まあ釣り針がでかく、亜麻の糸も結構太いのは骨を削って加工したりする以上仕方ないだろう。


 俺達はまずエリコの街で土を掘り返してミミズを探した。


 釣り餌としてミミズを使うのは洋の東西を問わず昔から変わらないらしい。


 そして、ミミズを小さな籠に入れて、杉の木をくり抜いた丸木舟に俺たちは乗った。


 丸木舟と言っても結構でかい。


 全長は10メートル位、横幅が一メートルくらいあるな。


 俺とマリアはそれぞれパドルを持って船を外側に運び水の中に出る。


「意外と深いんだな」


「ええ、落ちないように気をつけてくださいね」


「雪解けの冷たい水に落ちるのはゾッとしないな」


 俺とマリアはそんなことを言いながらパドルを漕いで、街から少し離れた場所に出た。


「では、そろそろ始めましょう」


「ああ、了解、始めようか」


 この時代の釣り針は返しがないので、魚に逃げられやすい。


 まあその代わり水は透明で澄んでいるので魚影はよく見えるし魚の警戒心もうすい。


 釣り糸を水の中に垂らして、しばらくすると魚影が近づいてきてミミズに食いついた。


「よしきた!」


 俺は釣り竿を持ち上げると糸が強く引っ張られた。


「よしよし、大物だぜ」


 逃さないようにしばらく魚と格闘してたが、相手が少し弱った所で引っ張り上げてなんとかとか釣り上げることができた。


 全長80センチ位か。


 暴れてるそいつを神経ジメにした後、黒曜石のナイフでエラの横と尾の付け根をざっくりきって、活け〆にして頭を下にして血抜きをしてからエラと内臓を取り除いてそれは捨てる。


 こうすれば新鮮なまま食えるからな。


 ちなみに外見は鯉みたいな口ひげのあるデカイ魚だな。


「はあ、食い逃げされないでよかったぜ」


 マリアが嬉しそうにいう。


「うまく口髭バーベルが釣れましたね。

 ところで何をしているのですか?」


「ああ、魚は釣り上げたら、血を抜いて鰓なんかをすぐ捨てれば生臭くならないんだよ」


「へえ、そうなのですか。

 やはりあなたは色々お知りなのですね」


「ああ、まあな」


 といってもこの辺りもググったりようつべで調べた知識だが。


「では他の人たちにも教えてあげてもらえませんか」


「ああ、いいぜ」


 一方マリアは投網で小さめのティラピア(カワスズメ)をとっている。


 サン・ピエトロの魚と呼ばれてるこの魚はとても美味しいらしい。


 ほかにはいわしにしんも混ざってるな。


いわしにしんというと海の魚というイメージだが、普通にガラリヤ湖にはたくさん生息していたりする。


 順調に釣ったり網で捕ったりした俺達は竿や網を船において、街までパドルを漕いで戻った。


「しかしパドルを漕ぐのはけっこう大変だな」


「まあそのうち慣れますよ。

 船は交易移動に必要ですから」


「まあ、そうだよな」


 さて俺達は魚をカゴに入れて家に戻った。


 今日食べる分を除いて、大きめの魚は開きに、小さいイワシなどはそのまま塩漬けにして干して長持ちするようにするようだ。


「なるほどやっぱり干物にするんだな」


「ええ、全部すぐ食べるわけでは無いですし、こうすればしばらくはのんびりも出来ますしね」


 こうして俺達が釣ってきた魚は塩を振って焼き、パンと一緒に食べる。


一部は以前に作った炻器(せっき)で煮てみたが、だしが出てうまく食べられた。


「癖もないし、蛋白で美味いな」


「生臭さも減っていますし素晴らしいですね。

 それにあなたが作った粘土を焼いたものを使えば、こういった食べ方もできるのですね」


「ああ、まだ寒いからこういうふうに煮れば体もあたたまるぜ。

 今は肉を食べる時期じゃないが肉を煮込むのも悪くない」


「なるほど」


 まあ、魚の生臭さの原因は色々在るのだが、おもに死後にも体内に残ってる血液を介してバクテリアが繁殖したりするのが大きい。


 なので鰓に多い雑菌を取り除きつつ、内臓の消化酵素なども取り除けば生臭さが少なくなるのは当たり前なんだよな。


 こうして魚の活け〆をすることで今までよりも更に美味しく魚を食えるようになったわけだ。


 まあ、寄生虫が怖いので刺し身は食わないけどな。

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