はしごの歴史はすごく古いんだ
さて、鳩の塔の建設により野生のものも含めて、鳩を寄せ集め繁殖させることで、春から秋にかけて卵の採取もできるようになったのは実に大きい。
アヒルやガチョウ、あるいは野生の水鳥であるカモやガン、サギ、カイツブリ、チドリ、ミヤコドリやユリカモメなどの産卵は基本的に春のみだし、ヤギやロバ、ヒツジなどの乳もせいぜい出産から8ヶ月の秋の初めくらいまでしか絞るのは難しい。
しかし、卵や乳は完全栄養食なので特に子供や妊婦には積極的に摂取させたいからな。
まあ冬には卵も乳も入手するのは困難なので長期保存が可能なチーズやヨーグルトのような乳製品で何とかするしか無いが。
それに鳩を捕まえるのは楽なので肉の入手もだいぶ楽になった。
鳩の塔は比較的小さいものでも3000羽、大きいものだと10000羽が住めるような大きさだそうだが、今のエリコのものはそこまで高くないので1000羽くらいまでかもしれないがそれでも十分だろう。
エリコの住人が200人いても食べ尽くすようなことはないはずだ。
まあそれはともかくそろそろクルミやナッツ、ピスタチオやドングリなどの樹の実の採取時期だ。
これらについては基本的に地面に落ちているものを拾い集める。
まあ中には虫が食っていたり、腐っているものが混じるのが欠点だけどな。
また、ヨルダン川の水が引いた後には詰草や苜蓿などのマメ科の牧草やネズミムギやチモシー・グラスのようなイネ科の乾燥に強い草が夏場の季節の山羊や羊たちにとって大事な食べ物だが、川に比較的近くてそこまで乾燥しない場所に蒔いた乾燥に強く湿気に弱いひよこ豆やレンズ豆やごまなども水が引いた後に種を巻いてあり、それがそろそろ実るのでその収穫もする。
これらの豆は炻器のない時代では乾燥させて粉にしドングリなどと混ぜて焼いて食べていたが、今では野菜と一緒に茹でて食べたり、スープにしたりもしている。
だが秋といえばやはりナツメヤシやイチジク、ぶどうなどの果樹がメインだな。
ナツメヤシは樹齢100年ぐらいまで生きるのは普通で中には200年持つものもあるらしいが、その樹高は結構高くなり普通は15mから25mで、30mに達するものもある。
なので実も若くて背が低いものであれば手を伸ばしてそのままもぎ取ることのできるが高いものだと手を伸ばしたくらいでは届かない。
ちなみにイチジクの樹高は2mから5m程度なのでそこまで高くはならないし、ぶどうも蔦植物でそこまでは高くならないけどな。
じゃあそんなに背が高くなるナツメヤシの実などをどうやって採取するかといえば、地上から手が届かないような場所であれば鳩の塔でも使ったようなはしごを使う。
ちなみにエリコの塔には普通に階段があって屋上まで登っていける。
また大地母神の神殿は集落や都市が出現する前からつくられていたらしく、当初の神殿は食料の備蓄のための場所でもあったようだ。
ハシゴの歴史は相当古く原始時代から普通にあり世界最古の洞窟壁画とされるスペインのラパシエガ洞窟の壁画にも、赤い梯子のような絵が描かれているが、これは約6万4000年以上前のものだ。
この時代だとホモ・サピエンス自体は30万年以上前にはすでにアフリカには存在していたようだが、ホモサピエンスがヨーロッパ西部まで進出したのは古くとも約5万4000年前で、約6万4000年以上前だとスペインまで到達していた可能性はほぼなく、絵を書いたのはネアンデルタール人の可能性が高いが、おそらくそういった時期において、はしごは主にリンゴなどの果実を採取するために使われていたのではないかと推測されている。
ちなみにネアンデルタール人と言うと狩猟で肉ばかり食べていたと思われがちだが、そんなことはなくイモや豆や雑穀をすりつぶしてクッキーのようにして食べたり、松の実やコケ、きのこを焼いて食べたり、ベリーやナッツやリンゴなどの果実も食べていたようだ。
はしごの種類としては現代のような2本の縦木に足場となる横木を一定間隔で固定した物の他に一本の丸太に足場となる窪みを複数入れた階段に近い丸太はしごや、一本の木あるいは竹に穴を開けてそこに木や竹を差し込んでムカデのように足場となる棒を左右に取り付けたムカデはしごなどもある。
このあたりは植生などによって様々だな。
また縄ばしごも結構古くからあったようだ。
エリコのはしごは構造としては細い丸太を組み合わせた感じのいわゆる猿梯子だな。
日本でも縄文時代には北海道などでは深めに掘った竪穴式住居への出入りに、はしごが使われていた場合もあったようだ。
まあそれはともかく今日はエリこの街の中に生えているいるナツメヤシの木から実を収穫する日だ。
エリコでは古くからナツメヤシが生えていて、旧約聖書にも出てくるが、オアシスのそばには、甘い果実をならせ木陰を作るナツメヤシがたくさん生えているのだ。
ナツメヤシの木は実を取る他に建物の屋根の梁などの建材にも使われる。
ナツメヤシの種を撒いて栽培したりするのはもう少し時代が下って8000年ほど前ぐらいからのようだけどな。
俺はナツメヤシに梯子をかけ、一つずつ房を見ていき、良さげなものを見つけたら房ごと石斧でたたき切って、下に落として、それを下で待っているリーリスやアイシャが拾い集めてカゴに入れていき、実をざざっとまとめてとる。
「こんなもんかな」
俺が下へ声ををかけるとリーリスから声が帰ってきた。
「ええ、今日はこれくらいでいいと思うわ」
現代だと品種によっては身が柔らかいので一つ一つ摘んでいかないといけない場合もあるらしいけどな。
そして収穫したナツメヤシの状態で分けていく。
水分が少ないものはドライフルーツとして保存できるので干して行くが、皮と実の間に水分がたくさん入ってしまっているものはドライフルーツに出来ないので、すぐにそのまま食べたりペーストなどにする。
「アイシャこれは食べていいぞ」
水分が多くてドライフルーツにできないものをアイシャに渡すと嬉しそうにアイシャは食べは締めた。
「あまーい」
息子にも小さめの実から種を取り除いて手渡してやると口にする。
「あまー」
あんまりにも水分が多すぎて、実と味にしまりが無いものはヤギやロバなどの家畜の餌にする。
ナツメヤシの実は熟すとだんだん水分が抜けていくが、それでも収穫したデーツの中のだいたい20%が水分が多いものだったりする。
また基本的には実の大きいもののほうが糖度が高くて甘く美味しい。
何れにせよナツメヤシやブドウ、イチジクは比較的土地が痩せていて乾燥していても実のなるありがたいフルーツだ。
そういった植物があることを大地母神に感謝するべきなんだろうな。




