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たぶん9千5百年くらい前の古代オリエントのエリコに転移したけど意外とのんびり暮らしてる件  作者: 水源


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冬に備えてカモミールやエルダーの花などを取りに行くことにしたよ

 さて、春の野菜や豆・麦などの収穫も無事に終わり、そのことを大地母神に感謝するための祭りも終わった。


 ちなみに春のまつりは豊穣を感謝するもので、秋の祭りは豊穣を祈願するためのものだ。


 冬の雨が振らないと干ばつが起こって収穫が期待できなくなるので、そういうことがないようにというわけだな。


 収穫できた豆や麦は冬に種をまく分を除いても半年以上食べるに困らない量の備蓄はあるので、これからはのんびりしていてもいい。


 家畜の乳が出なくなったら魚をとってタンパク質を補充する必要はあるけどな。


 とはいえ夏の時期の暑さに備えて収穫した亜麻から糸をよって、布を織って夏服を作る準備をしたり、夏に魚をとるための漁網の修繕をしたりはしないといけないけど。


 ちなみにコムギの収穫のときは去年と同じようにアイシャに手伝ってもらって、アイシャに大きめのカゴを持たせ、俺は適当な長さの木の棒を用意し、麦の穂を叩いて落ちた種は野生種、落ちなかったものは栽培種と選り分けてみたが、そこまで栽培種の割合は増えなかった。


 とはいえアイシャの、


「むぎしゃんおちてこなー?」


 というセリフ自体は増えていた気はするので、全く無駄だったというわけでもなかった気はするけどな。


 おそらくその原因はこの地域全体ではまだまだ野生種の麦のほうが多く、花粉が野生種のものであったためなのだろう。


 まあ、麦の野生種から栽培種への置き換わりは3000年ほどかかっているそうだから、そんな簡単には行かないだろうし、これからも地道に進めていくしか無いかな。


 まあ、それはともかく今の時期はまだカモミールの花が咲いているはずだからそれを採取しに行こうか。


 カモミールの開花時期は3〜6月頃と長いので、今までも作物の収穫時期に見かけたら花を摘み取っておいたけどな。


 エルダーは、開花時期が5〜6月頃なので、カモミールもエルダーも小麦の収穫が終わってから採取しに行っても十分間に合う。


 とはいっても小麦の収穫から、ヨルダン川の水があふれる時期はそんなに離れていないので急がないといけない。


 なので俺はマリアと相談して、冬にローズヒップを大勢で取りに行ったように、今回も人数を集めて一度に採集をすることにする。


「マリア、また薬になる花なんかを取りに行くんだが女性たちに採取の手伝いをしてもらってもいいだろうか?」


 俺がそういうとマリアはうなずいて答えた。


「ええ、今は農作業も終わり余裕がありますので構いませんよ」


 そしてマリアが話をつけてくれたらしく、以前にリーリスの乳母をしてくれた女性の母親などの女性達15人ほどが、集まってくれた。


「また、風邪対策に必要な物を取りに行くんだろう?

 あたしらにも手伝わせておくれよ」


「ああ、みんなの申し出ありがたく思うぜ」


「実際子供が死ににくくなったのは間違いない事実だしね」


 そしてアイシャも手伝ってくれるようだ。


「とーしゃん、あちしもてつだうー」


「ああ、よろしく頼むな」


 というわけで大きめの籠を抱えた女性を引き連れて俺達は街の外へ出る。


 カモミールもエルダーも乾燥には比較的強く、栄養を豊富に必要としない、その代わり高温多湿に弱いが、エリコの周囲は比較的そういった条件にあうので問題はないだろう。


 カモミールの属名のマトリカリアは、ラテン語で子宮を意味するマトリックスで、婦人病の薬として用いられていたことに由来するらしい。


 実際に風邪の初期症状や月経痛をやわらげる、その香りはリンゴに似ているため地面のリンゴともいわれたりするがそのためリラックス効果もあるようだ。


 エルダーの花はマスカットに例えられる甘くフルーティーな香りを持っていて、ヨーロッパでは、病気や悪霊を寄せ付けないために家の側にエルダーを植える習慣があったと言われていたりする。


 そして、実際にエルダーの花には発汗作用による解熱効果や、呼吸器系の炎症を抑えたりする効果、気管の粘液分泌を促進させる効果があるため、コーディアルシロップは風邪やインフルエンザ、花粉症対策に使われていたりする。


 また、エルダーの花には利尿作用や、便通を良くする作用、発汗を促す作用もあるらしい。


 そのため”万能の薬箱””田舎の薬棚”と呼ばれるほど多くの病気の予防に効果があるとされ、古くから万能薬的な存在として親しまれてきたらしい。


 しかも、どちらもハーブティーにしても飲みやすいためハーブティとして長年愛飲されてもいた。


 まあ、カモミールはともかくエルダーは日本では馴染みがあまりなかったけどな。


 土器や炻器がなく、お湯を沸かすということが基本的には出来ないこの時代のエリコでは、冬対策に春の花を摘んで保存しておき、寒くなってきたらハーブティにして飲むというのは考えつかなかったのは当然かも知れないから炻器を焼けるのは良かったと思う。


「なるほど、このリンゴのような匂いのする花やこの木についてる小さい花を摘んで乾燥させておけばいいのかい?」


「ああ、冬の前のドングリやナッツ、フルーツの収穫の時期にお湯で煮出して飲めばいいはずさ」


 ついでに薬効があるフェンネルやローズマリーの葉っぱなども一緒に採取して乾燥させておけば、冬の風邪予防の効果はかなり期待できるんじゃないかな?

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