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いや確かに俺は太ってるが別に福の神じゃないって

 さて、俺が来る日も来る日も行っていた、ガゼルの皮を脳みそを使って鞣した革は特に女性にかなり好評のようだ。


 噛んだだけだとコラーゲンの変性が充分でないので、身につけていると腐ってきて生臭い臭いがしてくるのだが、腐る部分を短時間で完全に腐らせたり腐らないように変性させてしまえば、そういった腐ったようなすえた臭いはしなくなるからな。


 まあ脳みそを塗り込んで腐らせたものだからさすがに最初は独特の匂いは残るんだが。


 そんなことをしているうちに暖かい春になった。


 とは言えまだまだ寒いのでは在るが。


「ありがとうございます。

 あなたはきっと大地の豊穣の女神が使わしてくれた福を授ける神の使いなのですね」


 マリアがニコニコしながらそんなことを言ったので俺は驚きながら言ったさ。


「え、俺は別に神の使いなんて大層なものじゃないと思うけど?」


「いえいえ、それだけ福々しく太っているののもきっと神に愛されているからでしょう」


 あー、そう言えば昔は太っているというのはそれだけで福があると思われてたんだっけ。


 拝まれても困るのでとりあえず俺は話を変えることにした。


「ところで、この街は石壁と濠で周りを覆ってるけどなんでそんなことをしてるんだ?」


 マリアは笑顔で答えてくれた。


「それはいろいろな理由があります。

 街の中で飼育している山羊や羊が逃げないようにするため。

 また、街の中で飼育している山羊や羊がそれらを食べる獣に襲われないようにするため。

 その他には雪解けの後の川の氾濫の際に洪水の水位が高い時に街が水に沈まぬように、水がうまくひくようになどですね」


「なるほどなぁ」


 ちなみに街の中央には日干し煉瓦を積み重ねて作られた神殿ジッグラトがあり、そこに祀られているのは土で焼かれた大地母神と雨の神である。


 これの神々の恵みがあれば麦や草木が生い茂って生活も安定すると考えられたわけだな。


 で、その女神というのは太めの女性、雨の神は太った男性なわけだ。


「まあ、なんとなくこの神像を見ればわかる気はするわな」


 この時代、山羊や羊の乳の出に関係する草の育成や小麦や豆、野菜などの収穫は、灌漑農業ではなく洪水で水が浸った土地を掘り返して畑にする。


 だからこそ作物などの出来不出来は神様の恵みという考えが、まだまだ強いのだな。


 街の周りに堀を作ったり壁を作ったりするのは遊牧民族も行うことで、水資源がなければ空堀、あれば水堀になるのだが、水があればそこは家庭から出るゴミを捨てたり大小便を排泄する場所にもなる。


 エリコはオアシスやヨルダン川に注ぐ小川も有って比較的水資源は恵まれている場所だな。


 そして、オアシスはこのあたりに住む動物の水場でも有ったわけだが、そういった水場に来たものの中の山羊や羊を捕らえて人に慣らしていったが家畜が狼、トラ、ライオン、ヒョウ、クマといった肉食獣に襲われるようになるとまずは柵と落とし穴を作るようになり、それが石の壁と堀に代わっていったわけだ。


 人間同士の戦いから守るためとなるのはもうちょっと先だな。


 現状ではまだまだ自然環境のほうが厳しいからな。


 そして山羊や羊の毛は勿論毛糸に出来る。


 しかし今現在はまだ、羊の毛皮をそのまま敷物カーペットや防寒用マントとして使用するだけだ。


 いや、まあそれでも十分暖かいのだけどな。


 俺は相変わらずヤギの乳をマリアと一緒に絞っている。


 乳搾りに関してはだいぶ慣れたと思うぜ。


 そしてのんびり草をはんでいる羊を視て俺は呟いた。


「羊の毛を刈って撚り合わせて糸にして、編めば温かい衣装が作れそうなんだがな」


 俺のつぶやきにマリアは反応する。


「そうなのですか?」


 俺は曖昧に笑みを浮かべる。


「まあ、結構手間はかかるんだけどな」


「構いません、ぜひ作ってみてください」


「分かった、やってみるよ」


 マリアがそう言うので俺は毛糸を作ってニット編みを出来ないか試してみることにした。


 羊や山羊など動物の毛でできた糸は、比較的伸縮性が高いため、棒針を使って編みやすい。


 しかし、植物性の亜麻の糸は比較的伸縮性がなく、編みづらい。


 なので亜麻は機織りで織る。


 おもりを下げて縦に吊るした糸に横に糸をくぐらせていくという地道な作業が必要では在るけどな。


 さて、生後2年以上たった羊にまたがって両足で羊を挟んで動かないようにしながら、黒曜石のナイフで羊毛を刈り取っていく、この刈り取ったばかりの羊毛がフリースだ。


 刈り取った羊毛を水で洗い、付いている土、砂、ホコリなどを取り除き、洗い終わったら、亜麻の敷き布の上で乾燥させる。


「ふむ、こんなもんかな」


 乾いたら固まりになっている羊毛を1本1本にほぐし、束ねてロープ状にしていく。


「ふえ、やっと毛糸が出来たぜ」


 櫛があればくしけずってもう少し太さを均一にできるんだが、現状ではまだ櫛は開発されてないし、そこは贅沢を言わないでおこう。


そしてまずは指を使った指編みで編み物の練習をしてみよう。


 細めの棒くらいは流石にもう有るが、指リリアン編みのほうが楽らしいからな。


「やり方は……こんな感じかな?」


 指編みだと靴下を編むというのは難しそうだが両端にポンポンをつけた細めのかわいいマフラーやヘアバンド、シュシュと言ったものは作れそうだ。


「よし編み物のやり方は大体理解したな」


 後は考え方を応用し二本の細長い棒を使って編んで行けばいい。


「んー、ここはこうやって1つ、2つ、3つ……」


 そんな感じでようつべを見たりしながら、俺はようやっとニットのソックスを作り上げた。


「とりあえず首や足が冷たくないようにとあとは練習で作ってみたけどどうかな?」


 毛糸のマフラーやヘアバンド、シュシュにソックスを見たマリアはキョトンとしていた。


「それはどうやって使いますの?」


「ああ、ちょっと足を出してくれ」


「はい……」


 差し出されたマリアの足にソックスを履かせて、首にマフラーを巻き、シュシュで髪の毛をまとめてみた。


「どうかな?温かいと思うんだけど」


「たしかにこれは良いですね」


 どうやら気に入ってもらえたようだ。


 苦労もしたが喜んでもらえたなら何よりだな。

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