表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/121

はじめてのさかなすくい

 さて、基本的に植物の育成には多大な水分と養分が必要でなおかつ適度な温度でなければならない。


 だから、基本的に定住は大きな川のそばで行われるようになった。


 しかし、定住が行われると季節によって快適な温度や湿度の場所に移動するということができなくなったり、洪水を避けるのが難しくなる。


 だから、エリコの周りには壁が有って、それは肉食獣などの危険な生物の侵入や害意を持った人間の侵入を防ぐ意味もあるが、どちらかと言えば洪水時に街を水から守るために築かれたという方が大きい。


 現在は川の増水期で雪解け水によりエリコの街の周りは水浸し。


 なのでこの時期の食べ物は主に家畜の乳や収獲済みの穀物など以外は水の中の住んでいる生物、要は魚がメインなわけだ。


 で、俺たち家族は今日は葦舟に乗ってエリコの外にいこうとしている。


「とーしゃ、かーしゃおみずがいっぱー」


 エリコの壁の外は水が一面に広がっていて娘は物珍しそうに見ている。


「ああ、今はな、水がいっぱいの時期なんだ」


「いっぱーいっぱー」


 そして葦舟には先にリーリスが乗っている。


「ほれ、おまえさんも舟に乗るぞ」


「あーい」


 俺は娘の両脇を抱えるとひょいと持ち上げて葦舟にのせた。


「大丈夫だ、怖くないぞ」


「こあくなーい」


 船に乗せた娘はリーリスが抱きかかえる。


 初めて船に乗った娘はやっぱり楽しそうだ。


「とーしゃ、かーしゃおみずがもっといっぱーいっぱー」


 俺は娘の言葉に頷く。


「おう、水がもっといっぱいいっぱいだな」


 そして娘は水の中を泳いでいる小さな魚を指差していう。


「おしゃかなー」


 リーリスが笑って頷く。


「そうね、お魚が泳いでいるわね」


 のんびりパドルを使って船を進め、ちょっと街から離れた場所に来る。


 まあ、水深はそんな深くはないので大人なら立てる程度だ。


 もっとも冷たい雪解け水に浸かる趣味はないけどな。


「さて、そろそろ魚を捕まえないとな」


 俺の言葉にリーリスが頷く。


「そうね」


 娘が両手を上げて言う。


「あちしもやうー」


「おいおい、大丈夫か?」


「だいじょー」


 なぜに自信満々なのか?


 まあ、やりたいというのだからやらせてやろう。


「んじゃ、網で魚を捕まえてみてくれな」


「あいー」


 俺は娘にタモ網をわたして、娘が水の中に落ちないように支えてやることにした。


 釣りではなくタモ網で魚をすくってるのは娘や子猫が食べやすいようにだな。


この時代では小さな釣り針を作ったり、細い釣り糸を使ったりするのは難しいが、(バーベル)は最大で2m近くまで成長することも有り大抵80cmくらいは有るので釣るのは問題ないがな。


「えいー」


 ”ばっしゃーん”


 娘は網を思い切り水の上から叩き込もうとして魚に逃げられた。


「さかなしゃんいないー?」


「そりゃ、あんだけ派手にやったら逃げるさ。

 魚を驚かさないようにそっとやらないとな」


「そっとー」


 俺達は少し船を移動させて再びチャレンジする。


「網は最初から水に入れて、魚が近寄ってきた時に動かすんだぞ」


「わあったー」


 娘は網の先を水の中に入れ魚が来るのを待っている。


「よしきた」


「えーい」


 娘が網を持ち上げると無事に魚をすくい上げることができた。


「やたー」


「おお、えらいぞ」


 俺が娘の頭をなでてやると心なし胸を張っているな。


 まあ、小さいのに大したものではあるんだが。


 そんな感じでたぶん(バーベル)の仲間やカワスズメ、イワシの仲間の比較的小さい魚などを何匹かすくい上げたら無事食料調達完了だ。


「よーし家に帰るぞ」


「あーい」


「そうね、帰りましょう」


 パドルを漕いで水の上をゆったり進んでエリコの街に帰り着く。


 魚はさばいたら焼いて食べ、子猫にもやる。


 川から溢れた水は大地に潤いと栄養をもたらしてくれる。


 水浸しになるのはやっぱり困ったものだが、それはとてもありがたいことでもあるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ