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農耕の開始は草食動物による作物の食害との戦いの開始でもある。

 さて、エリコ周辺で人間が畑に麦や豆をまいて育て収穫するようになると、それを食べにくる草食動物も当然増えた。


 山羊、羊、豚、ロバなどはそういった畑の穀物や野菜を食いに来た元々は野生の奴の中で人間に餌付けされた奴らが家畜になったわけだし、猫なんかも穀物倉庫に集まってくる鼠を狙って穀物倉庫の周辺にいつの間か我が物顔で住み着いたわけだ。


 しかし、家畜にならなかったやつもいる。


 日本では鹿がそうだし、このあたりではガゼルがそうだ。


 ガゼルは基本的にサバンナからステップのような草原に住んでいて完全な草食性の動物で警戒心が強く人に慣れない。


 また運動能力が高くちょっとした柵であれば簡単に跳んで逃げ出せてしまい、群れの明確なリーダーも存在しないため家畜化できなかったんだな。


 その代わりと行ってはなんだが繁殖力が高くて畑の作物を定期的に食べに来るため、畑の作物を食い荒らされないようにするためガゼルは狩られて食用とされたのだ。


 エリコの街そのものがガゼルを引きつけるための罠の餌そのものであるとも言えなくない。


 だから、弓の腕を磨くのは畑の作物を守るためにも大事なわけだ。


 俺もこの時代に来てそれなりに経ったし、それなりに弓をつかえるようにもなった。


 もちろん、生きている動物を狙って矢を放つことに対して最初は罪悪感がなかったわけではないが、結局はだんだんと慣れてしまった。


 解体されている肉を食べるのと弓矢で射殺してそれを解体して食べるのに本質的な差はないとも言えるし、この時代ではそれが当たり前でもある。


 殺されるガゼルがかわいそうなどと言うやつは居ないし、ほおっておけば畑の作物を全部食われてしまうかもしれないのだからな。


 なので、狩猟に犬が不要かというとそんなこともない。


 やはり猟犬ハウンドがいるのといないのとでは狩りの成功率はぜんぜん違う。


「よしたのむぞ」


 ”アオーン”


 猟犬がガゼルの足を止め、そこを狙って矢を放つ。


 矢はガゼルの首筋に刺さってパタリと倒れた。


「よしよし、よくやってくれたな」


 狩りを手伝ってくれた犬をなでて褒めてやる。


 それから手早く血抜きのため頚動脈を切ってガゼルの足に縄を縛り付けて小川に投げ込む。


 血の中の糖分を餌にして細菌が増えないようにするのはこれが一番いい。


 人間を含んだ肉食の動物は本来は草食動物が増えすぎて植物をすべて食べつくしてしまったりしないように数を調整する役割を与えられているのだと思う。


 これは別に陸の上だけでなく海の中でも同じことだ。


 だから、殺した獣の肉はなるべく無駄なく食べるべきだし、意味なく殺すようなことをしてはいけないと思う。


 やがて十分血が抜けて冷えたガゼルを担いで俺は家に帰る。


「ただ今かえったぞー」


 娘がとてとてと歩いて来て俺を迎えてくれた。


「おーしゃー、おきゃーしゃい」


 俺はガゼルを地面において娘の両脇を抱えて持ち上げた。


「おお、ただいま、いい子にしてたか?」


 娘はこくと頷く。


「あい、いいこでしゅ」


 俺は娘を床の上におろして、改めて頭を寝でてやると娘はニパッと笑った。


 うんいい笑顔だな。


 遅れてリーリスも迎えに出てくれた。


「あなた、おかえりなさい」

 今日はパンに肉を挟んで、刻んだにんにくも入れて食べましょう」


「おお、いいなそれ」


「あとは豆のスープよ」


 娘はまだ小さいので食べられないけど、しばらくしたら少しずつ重湯のようなものやヤギのミルクなどを飲ませていかないとな。


 俺はその後ガゼルの解体を行って肉を切り分け、リーリスはパンを焼いたり、豆を煮たりして食事の準備をした。


 娘はなんだかんだでまだ小さいのですやすやと寝息を立てながら昼寝をしてる。


 そんな様子を見ながら俺とリーリスは食事をとる。


 麦、豆、野菜、果物、家畜の乳や肉、畑の作物を食いに来るガゼルなどの肉、ヨルダン川の魚やカラス貝など食べるものに不自由しないエリコは良い街だ。


 女系社会は基本的に争いも少ない。


 いずれはインド・ヨーロッパ語族である古墳を作るクルガン人によってユーラシアやヨーロッパは征服されるのだろうが、どうやっても歴史を変えることはできないのだろうか。


 クルガン人は、侵略した土地の男性や子供たちの大部分を虐殺し、美しい女性だけを助けて妻や奴隷にしてゆき、そこから貴族、自由民、奴隷に階級が分かれていったのだよな。

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