子どもも無事生まれてよかったぜ
さて、なんやかんやで、リーリスが無事臨月を迎えた。
本当に早産や流産しなくてよかったよ。
とは言え産まれるまでは安心できない。
「とりあえず子供を取り上げる前にシャボン草の汁で手を洗うのは教えたけど……大丈夫かな、大丈夫だよな」
心配げに家の中をうろうろしている俺を見てリーリスが苦笑している。
「もう、あんまりそんなに心配されるとそのほうが怖いわよ。
落ち着いて落ち着いて」
「お、おう、たしかにそうだな」
案ずるよりも産むが易しともいうし、心配だけしても仕方がないのは事実だ。
家の中にいても出産の立会いは出産経験のある女性がするので俺はやることがない。
ようつべなどを見たりググったりしてもても、21世紀の医療技術がない状態で俺が役に立てそうなことは見つからなかった。
「家にいても邪魔っぽいし、ちょっとジッグラトに行ってお祈りしてくる」
「はい、行ってらっしゃい」
大地母神は基本的に死と再生と豊穣を与えてくれる存在とされている。
俺は粘土の土偶のような女神像に手を合わせて祈る。
「神様どうか母子が無事に出産を終えられますように」
何か捧げ物とか持ってきたほうが良かっただろうか?
そんなことを考えていたら、幸せの卵が光った後、何故かスマホのラインにメッセージが。
”ダイジョウブ、シンパイムヨウ”
ああ、幸せの卵の神様はこのあたりの素朴な大地母神信仰から生まれたのか。
なら大丈夫かもしれないな。
俺は急いで家へ戻った。
「おぎゃあぁぁ! おぎゃああぁぁ!!」
ちょうど左右から人に支えられながら、しゃがんだ状態のままお産する、立産の状態のリーリスのお腹から赤ん坊が無事に出てきたところだった。
元気な女の子だな。
「ああ、神様ありがとうな、母子とも本当に無事だ」
俺は幸せの卵に語りかけた。
血まみれでシワシワで小さい小さい新たな命だ、大切に育てないとな。
「リーリスも大丈夫か?」
「うん、わたしも大丈夫よ」
俺はリーリスの頭を軽くなでて笑った。
赤ん坊の血が拭き取られ、菰を引いた床に置かれる。
へその緒は切らずに自然に乾くのを待つ。
へその緒を早く切ることにはリスクのほうが大きい。
へその緒が胎盤とつながっている限りはそこから酸素と血液が供給される、そして肺呼吸が確立されるまでへその緒からの血液の供給があるのは大切なことなのだ。
へその緒は、半透明でヌラヌラと輝いているが、やがて輝きが消えてゆき、透明感が無くなって、細くなり、ただの乾いた白い紐のようになりそうすると切るのも簡単になる。
切る場所の両端を糸で縛り、血が出ないようにしてから石器のナイフで切って赤ちゃんを抱く。
「あ?」
なんか不思議そうにしてるしてるな。
「よしよし、元気そうでよかったぜ」
そしてリーリスに赤ちゃんを渡す。
「う?」
「こんにちは私の赤ちゃん」
「あ?」
ちなみに名前はまだつけないんだけど候補は考えておかないとな。




