春は新芽の季節だな、そして動物たちの繁殖の季節でも在る
さて、冬も終わって春になってきた。
そして春は草木が芽吹き花をつける季節だ。
小麦などが実をつけるのはまだしばらく先だが、順調にすくすく育ってるようだな。
俺に餌付けされた真鴨や雁は相変わらず俺の家の寝藁の上で寝泊まりしていて、日が昇ったらヨルダン川に向かい、そこで日光浴と水浴びをしては川の小魚や貝やはえてきた植物の新芽などを食べている。
そして日暮れにはまたいえに戻ってくる。
他の真鴨や雁の仲間は北に帰るはずだが、こいつらは残りそうな感じだな。
「まあ、そうしてくれると助かるんだが」
”グワッグワッ”
なついた真鴨は見ていて楽しいからな。
そして無事雛もたくさん生まれてお母さんの後をよちよち歩いてついていっている。
真鴨の場合お父さんは育児を全く手伝わないので、お母さんは大変だ。
「麦や豆の収穫はまだ少し先かな」
「そうね、でも今年も無事に育ってくれて助かるわね」
「ああ、そうだな」
この時期に芽吹いて来る野草にはキバナスズシロいわゆるルッコラやハアザミのアカンサス、リーフレタスなどがある。
「おいおい、お前らあんまり食いすぎるなよ?」
鴨や雁の親子が川べりの野草などの新芽をバクバク食べてる。
まあ、鴨が食べて全滅するほど野草の生命力はやわではないけど、俺達が食べる分は残しておいてもらわなければ困る。
「これはいい感じかな」
「そうね、柔らかくて美味しそうね」
21世紀とは違い年中野菜が取れるわけではないのは当然だからエリコでは新鮮な植物を食べられる機会はあんまりない。
なのでこういう機会に新芽を洗って塩を振って食べると格別にうまいのだ。
「お、チューリップが咲いてるな」
「あら、綺麗よね」
「ああ、なんかいいよな」
チューリップの原産地はこのあたりで、普通に野の花として咲いている。
もちろん薔薇だろうが百合だろうが最初は野草だったわけではあるんだが、チューリップの姿をこの時代でも見るというのはなんとなくうれしいものだ。
まあ、この時代には観賞用に植物を栽培するなんてことができるまでの余裕は流石にないけどな。
そして動物の小屋では山羊や羊などの子供も生まれている。
彼らは秋から冬にかけて妊娠し、気温が上がって草が多く生えてくる春先に子どもを産むのだ。
「よしよし、お前さんたちもたんと食べな」
俺は山羊や羊の親子を小屋から連れ出して町中のクローバーやウマゴヤシなどの生えている場所に連れて行くと彼女たちはのんびりとそれらをはみ始める。
外に連れて行かないのは流石に麦とかを食われると困るからだな。
”んべぇ~”
”んべぇ~”
山羊はおとなしく草を食べてるが、お母さんロバは相変わらず気難しい。
とはいえ、やっと搾乳はさせてくれるようになった。
山羊やロバの乳は栄養も豊富なのでとてもありがたい。
「ほれ、お前さんも新しい草を食いたいだろ?
外に行こうぜ」
つーんと素知らぬ顔のお母さんロバに俺は干し草を持ってきてやる。
「干し草のほうがいいのか?」
お母さんロバは”よろしい”とばかりに干し草を食べはしめた。
子どもロバも一緒に干し草を食ってる。
「なんで干し草を優先して食べてるんだろう?」
ロバにとってはクローバーのような背の低い草は食べづらいのだろうか?
「それにしても随分増えたわよね。
うちの中にいる動物」
だいぶおなかの大きくなってきてるリーリスがそういう。
「そうだなぁ、このままここは家畜小屋にして、俺達が新しい家に移ったほうがいいくらいかもなぁ。
なんか、そのすまん」
謝った俺にリーリスは笑いながらいう。
「ううん、別にいいのよ。
きっと何か意味のあることだと思ってるし」
「ああ、鳥の卵は栄養抜群だからな。
将来的にでも自分たちの手元で取れるようにしたほうが楽だと思うんだ」
リーリスが首を傾げていう。
「そうなの?」
「たぶんな」
鴨や雁の卵は生で食べる事はできないが、栄養が豊富なのは鶏卵と変わらない。
彼らの糞がついた藁は畑の良い肥料になるはずだし、飼っていて悪いことはないはずだ。
ロバのお母さんや子供も慣れてくれれば荷運びに役に立つ日が来る……と思いたいな。




