家鴨や鵞鳥はどうして家禽になったのか、それは人間に餌付けされて飛べなくなったから
さて、最近俺は時折ヨルダン川に行って、川辺に穀物や団栗、ナッツの調理屑などをばらまいてる。
「ほーれ、お前たち食い物だぞー」
”ぐわっぐわっ”
水面に落ちるそれをひょこひょこ泳いできた真鴨や雁が我先にと食べに来るのは、実に微笑ましい光景だ。
鴨や雁は渡り鳥なので冬の季節にやってきたあと春になると子育てをして夏になるとまた北に戻っていったりする。
真鴨はとても多産で10羽位の雛が大体は生まれたりする。
もっとも猫などの肉食獣や猛禽類などに食われたり、人間に狩られたりするので馬鹿みたいに増えることはないけど。
多産であればこそ真鴨などは絶滅の危機とは縁遠かったりするんだけどな。
同じように家畜になった東南アジアの鶏、アフリカのホロホロチョウ、アメリカの七面鳥など雉科で飛べない、もしくは飛ぶのが苦手な鳥が農耕とともに餌付けされたことから家禽となっていくのと違って、真鴨も雁も長距離を飛行できる渡り鳥である。
ではなぜ、彼らは飛べない家畜になったのかというと。
「ほれほれ、もっと食えー」
俺が餌をやっている真鴨や雁は明らかにその体が大きくなっている。
鳥というのは飛ぶために最低限の皮下脂肪しか付けないのが普通なのだが、こいつらは明らかにナッツの食い過ぎなのだな。
こうやって飛べなくなった家鴨や鵞鳥は飯を人間から与えられ、人間によって肉食獣や猛禽から守られることで人間と共存してきたのだ。
まあ、わざわざ餌をやらなくても雑草やその種、それにつく昆虫やカタツムリ、ナメクジなどをもりもり食べて育ったりするのだが。
ちなみに家鴨は餌を減らして痩せさせれば飛べるようになるらしい。
”ぐわっぐわっ”
食い足りないのか真鴨の一羽が俺の近くまでやって来る。
真鴨はそこそこ警戒心が強い方ではあるのだが、なれると人間にも割と近づいてくるようになったりする。
「まだ食い足りないのか?
ほれ、まだまだあるから遠慮しないでいいぞ」
パラパラとナッツをまくと嬉しそうに鴨はそれを食べ始める。
アヒルがいつ家畜とされたのかははっきりしないが、鶏などと同じように農耕が始まってから人間に余剰な作物を食わせる余裕ができてからなのは間違いない。
攻撃的な雉と違って鴨はおとなしい。
だから飛べなくなると猫や猛禽などに襲われやすくなるのだが、うまい飯の誘惑には勝てないらしいな。
”ぐわっぐわっ”
一羽の鴨が地面を突く。
「ん、ミミズが食いたいのか?」
”ぐわっぐわっ”
真鴨は雑食で穀物や小さな雑草、小魚、貝、水性昆虫なども食べるがミミズが大好きなのだ。
「ん、ちょっと待て、今掘って探すから」
”ぐわっぐわっ”
わかったのかわかってないのか、鴨は俺をじっと見ながら待ってる。
俺は石の堀棒で河原を掘り返してミミズを探す。
「お、いたいた、ほれ」
”ぐわっぐわっ”
真鴨の方に投げてやると真鴨はうまそうにミミズを食べた。
やがてそんなことを繰り返すと、鴨や雁は本格的に俺になついてきた。
「んじゃ、家にかえるぞ」
”ぐわっぐわっ”
”ぐわっぐわっ”
どうやら番らしい二羽の真鴨と二羽の雁、あわせて四羽は俺が家に帰る時によちよちちょこちょこと歩いてついてくるようになった。
「やっぱ、来年になったら家畜専用の家をたてるべきだろうなぁ。
俺とリーリスの子どもも生まれることだし」
真鴨や雁の番は、開いている部屋に寝藁を敷いてやると、そこですやすや寝るようになった。
雁は真鴨よりは攻撃的なので、猫などが近づいてきたときに威嚇させるのだな。
「まあ、こうして鴨が家鴨に、雁が鵞鳥になっていったってことなんだろうな」
番で仲良くわらに埋もれて寝ている真鴨や雁を見ると、彼等が家鴨や鵞鳥になった理由も良くわかった気がする。
羊や山羊は西アジアのエリコなどのナトゥーフの飼っていたものが原産らしいが、狼から家畜になった犬やイノシシから家畜になったブタと同じように家鴨や鵞鳥は広い地域でそれぞれ別々に家畜になっていったらしい。
まあ、基本的におとなしく割と人懐こい真鴨があちこちで家畜になるのはわかる気がするな。




