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たまには奥さんへのプレゼントでも作ろうか

 さて、エリコなどの西アジアでは冬は農繁期であるが、雨が降ると狩猟や畑仕事はお休みだ。


 寒い冬に雨に打たれながら仕事してたら凍えて死んじまうからな。


 こういう時は家の中で出来ることをする。


 たとえば石器の手入れをしたり、石器の道具を新しく作ったり、土器を焼いたりするのにちょうどいい時間なんだが、今日は奥さんへの贈り物としてビーズの腕輪を作ろうと思う。


 21世紀だとビーズというとなんとなく安物のアクセサリーに使われる装飾品というイメージだが、古代のビーズは邪悪なものから身を守るお守りとして身につけられた。


 ビーズと言う言葉そのものが”祈る”という意味だったりするし、仏教の数珠みたいな感じで扱われたんだな。


 その始まりは1万2千年くらい前、エリコにナトゥフの人々がすみ始め亜麻を栽培して糸として利用するようになった頃からじゃないかと言われてる。


 まあ、狩りに出る人間の狩りの成功を祈ったり怪我などをしないようにという意味合いで牙や骨を身につける風習自体はもっと古くからあるようでもあるんだが。


 骨や石、木、貝殻などを石器で加工して作られ始め、その後には天然の宝石、銅、金、銀、隕鉄などの金属を利用するようになっていく。


 天然宝石としては紅玉髄カーネリアン瑪瑙メノウ、オパールなどの比較的柔らかいものが用いられる。


 まあ、俺は今、貴金属も宝石も持っていないのでガゼルの骨を削って作るつもりなんだけどな。


「んーと、作り方はYouTubeを見るより習ったほうが早いか」


 俺はリーリスのお母さんにビーズの作り方を教わることにした。


「すみませんお義母さん、リーリスに贈るビーズの作り方を教えてもらえますか?」


「ああ、もちろんだよ」


 ああ、良かったぜ。


 そしてリーリスのお義母さんに聞かれる。


「さて、ちゃんと作るための道具はあるのかい?」


 俺は苦笑しながら正直に答えた。


「すみません、作るための道具になにが必要なのかわからないので……」 


「しょうがないねぇ、今回は貸してあげるけどちゃんと自分で揃えなよ」


「あ、はいすみません」


 お義母さんはいろいろな石器を持ってきてくれた。


「まずは穴を開けるにはこれを使う」


 そう言って見せてくれたのは石錐。


 釣り針や衣装の縫い針に穴を開けたりするのにも使う先を細く尖らせた石器だな。


 この石器が発明されなければ毛皮を縫い合わせて衣服にすることも釣り針に穴を開けて糸を通すこともできなかったわけだから、実はとても大切な道具なのだ。


「あと、骨を削る時はこれを使うんだよ」


 そういって見せられたのは、木の柄の先に刃を埋め込んだノミのような道具も貸してくれた。


「磨く時はこれだよ」


 最後に出てきたのは砥石だな。


「ちゃんと返してくれよ」


 その言葉に俺は頷く。


「はい、わかってます」


 そして俺はガゼルの骨を削りにかかった。


 しかし骨というのはかなり硬い。


「こりゃ骨が折れるな」


 もちろん物理的に骨が折れたわけじゃないがな。


 しばらく悪戦苦闘しながら骨を削ったり、穴を開けたり表面を磨いたりしながらなんとか骨をビーズの形に加工できた。


「ふう、こんな感じでどうでしょう?」


 俺はリーリスのお母さんにそう聞いてみた。


「まあ、見かけはともかく心はこもってるみたいだし、初めてにしてはいいんじゃないかね」


 とりあえず一応合格はもらえたみたいだぞ。


 後は腕輪に出来る数をつくるだけだ。


 朝から晩まで骨を削ってビーズにする作業をしてなんとか数は揃ったので、亜麻の糸に通して腕輪にする。


「どうでしょうこれ?」


 やっぱりリーリスのお母さんに聞いてみる。


「まあ、いいんじゃないかい。

 あんたも頑張ったよ」


 そう言って彼女は笑った。


 そうして俺は家に戻る。


「リーリス、今日一日かけて作った安産祈願の腕輪なんだ。

 受け取ってくれるか?」


 リーリスは笑顔で受け取ってくれた。


「うん、ありがとうね、大事にするわ」


 貴重なもので作ったわけでもないし見た目も不格好かもしれないけど、リーリスが無事子どもをうんで母子共に健康であってほしいという思いは本物だ。


 なにせ、初産の死亡率は決して低くない。


 子供を取り上げる時に手を消毒するための石鹸も作ったほうが良いかもしれないな。

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