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どんな時代でも交易は大事なのだ

 さて、今日はマリアのところにアナトリアから来た交易商人が来ている。


 俺はリーリスと一緒に商人のところへ来ていた。


 アナトリアというのは21世紀でいうところのトルコのことだが、エリコ周辺では良質な黒曜石やフリントなどの石器の材料となる石は取れないので、穀物などの食べ物と石器など狩猟用の鏃や農耕に使う鍬や鎌、ナイフ等の日常道具などとを交換するわけだ。


 これは縄文時代における日本でも同じで縄文人は黒曜石のある場所に住んでいる人間の場所へ自ら向かったり、石器を運んでくるのを待ったりして交易をしていた。


 人類が狩猟をしながら定住せずに居た時代ではそういった集団は定期的に自分たちで石器の材料となる石を取りに行った。


 そのうちにいつしかその一部が石を採掘したり鏃や石斧などに加工する集落を作り定住を始めたらしい。


 まあ、そのほうが効率は良いよな。


 商人は様々な石器を並べてニコニコしている。


 俺は早速商人に聞いてみた。


「ちなみにこの石のハンマーならドングリどのくらいと交換してくれるんだい?」


「そうだな革袋2つでどうだ?」


 ちなみに革袋の大きさは親指と人差指を広げた長さとか大きさはある程度決まってる。


「うむむ、結構高いな。

 元の石だけなら?」


「革袋1つだな」


 そうこの時代では石器や石器のもとになる石とドングリやナッツ、麦などの保存が効く食べ物と交換したりするのが交易の基本だ。


 貨幣はまだ無いので物々交換なわけだ。


 まあ交換するものは山羊だったり猫だったり亜麻布だったり服だったり塩だったりする場合もあるがな。


「じゃあ、石のハンマー1つをドングリ二袋と交換してくれ」


「あいよ、ありがとうな」


 にこにこ顔の商人に俺も笑い返す。


「こっちこそ」


 彼らは丸木舟でアナトリアからキプロス島を経由してこちらに来ている。


 荷運び用の馬もロバも馬車もない時代では丸木舟に荷物を載せて運ぶのが一番楽だからな。


 その他ではヨルダン川流域をやはり丸木舟や葦舟で行き来したりもする。


 水運というのは重いものを長距離運ぶのには不可欠なのだ。


 まあ陸路ではかごに入れたりして運んだりするわけだから、それほど多くの商品は運べないわけでもあるのだが。


 ちなみに交易を行うものたちも何かに襲われた時の対策のために武装はしているが、集落の中で彼らを襲うことは基本的にはない。


 交易というのはお互いに不足するものを交換しあうわけで、目先の欲に囚われて彼らの持ち物を奪ってしまったりすると、もう二度と取引ができなくなったりする。


 石器の取れない場所の集落で狩猟だけでなく農耕や建築などに使う石が手に入らなくなるのは最終的な死を意味するからな。


「ところでアナトリアから旅してくるのは楽しいかい?」


 俺は交易商人に聞いてみた。


「まあ、色々危険も多いですが、楽しいこともありますな」


「まあ、天気の急変とか、肉食獣とか色々危険もあるもんな」


「そうですね、まあ、なるべく危険の少ない場所を通るようにはしていますけどね」


 石をもってきていろいろなものに変えて戻っていくのもそれはそれなりに苦労があるらしい。


「リーリスは何か欲しいものはあるか?」


 リーリスは少し考えてから聞いた。


「麦の穂を苅る鎌の新しいものがほしいのだけど、 いくらくらいかしら?」


「はいはい、曲がった骨の石鎌でしたら、ドングリ二袋ですがいかがですか?」


「じゃあ、それを貰おうかしら」


「はい、ありがとうございます」


 俺は石のハンマーを、リーリスは石の鎌をそれぞれ手に入れた。


 こういったものは消耗品なので定期的に買い換えるしか無いのだ。


 鉄のハンマーなら買い換える必要はないし、鉄の鎌なら研ぎ直せば切れ味も戻るんだが石だと割れたりかけたりしてしまうからなおしようがないんだよな。


 だからといって石の鎌の切れ味が悪いということは決してないんだけどな。


 トルコのチャタルフュィックで発見される自然な銅鉱石の加熱加工をエリコの住人はいずれ発見するのだが、それが森林の過剰な伐採につながって大地は保水力を失い、塩害に苦しんだ結果として西アジアは不毛な荒野となってしまう。


 できればそういった未来は避けたいものでは有るな。


 森林を失った大地に再び森林を復活させるのは、降水量が少ない土地ではほぼ無理なのだから。

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