古今東西に関わらず祭りと言うのは楽しいものだ、そして弓矢の扱いには早くなれないとな
さて、畑への種まきや森林からの果樹やドングリやナッツの採取が一息つけば、街で収穫の感謝と作物の豊穣を祈念する大きな祭りが行われる。
大地母神に果樹やドングリやナッツが無事与えられたことを感謝しつつ麦や豆、野菜などが無事に実るように大地母神に捧げ物をするのだ。
この時代のジッグラトに祀られている大地母神は土偶のような粘土を干したり焼いたりして固めた像でふっくらとやや太った感じの女性とされている。
これが子どもを宿していることを意味しているのか、たくさん食べて太っていることを意味してるのかは俺にはわからない。
ただ、縄文時代に作られた土偶も胸や腰が大きく張り出た女性の姿であったことから胸や尻が大きいというのは安産を司るものであるようにも思う。
「豊穣と子孫繁栄を与えてくれる女神よ。
あなたのおかげで今年も数多く果樹や木の実が取れました。
これで無事冬を過ごすことができます。
これは私達の感謝の気持ちでありますのでどうかお受け取りください」
神像が祀られたジッグラトに人の手によって発酵させたワインやビール、ヤギのミルクのチーズ、ドングリなどを小麦に混ぜてチャパティのように丸く焼いたパン、焼いたガゼルの肉などが運び込まれ捧げられる。
各家の中に先祖を祀った墓標があるようにジッグラトはエリコの村長の先祖の墓標であって、村を収めてきたものが村を見守る神になり、それが更に大地の実りや子孫繁栄を司る大地母神になったらしい。
だから、エリコの村長は代々女性なのだな。
もっとも時代が下ると争い、戦争が本格的に行われるようになり、その統率を行う男が権力を握るようになるのだが。
「さあ、神様の施しです。
皆さん大いに飲み食い歌い踊って楽しんでください」
マリアがジッグラトから神に捧げたあとのワインやビール、チーズやパン、肉などを外に持ってきて村の皆に配り始める。
「おお、まちかねたぞ」
「さあ、みんなで踊ろうぜ」
男も女も老いも若きも関係なく楽しそうに飲み物と食い物を受け取っては笑顔で食べ始める。
歌を歌って豊富な食べ物が今年も得られたことに対して神に対する感謝の祈りを捧げ、輪になって踊り、男女が距離を縮めるわけだ。
俺はマリアから受け取った食い物をリーリスのもとに運んで二人で分け合って食べ始めた。
「ん、これうまいな」
骨付きのガゼルの肉にかぶりつきながら俺が言うとリーリスも肉にかぶりついた。
「本当、美味しいわね」
リーリスも美味しそうに肉を食べている。
しかし、俺もいい加減弓矢をつかえるようにならないといけないか。
言うのは簡単だが実践するのは難しいのだが。
1つは弓を使って正確に目標を射るようになるのは大変だということ。
もう一つは生きている生命を自ら奪うということに慣れていないというのもあるんだよな。
もちろん今までも解体された鹿の毛皮を鞣したり、肉を食ったりはしてはきた。
しかし、自らの手で生きている動物を仕留めたことはない。
この時代における冬の狩猟は畑の麦や豆、野菜などを獣害から守るためにも必要なことだ。
そうしないとどんどん草食動物に野菜を食われてしまうからな。
「ともかく練習もしないとな……」
この時代の弓は単一の木の枝などを削って乾かし、その両端に弦を張って作る単純な丸木弓だ。
威力を増やすために複数の素材を貼り合わせて、威力を増す複合弓が開発されるのはだいぶ後の話だな。
俺は弓の使い方を子どもに混じって教わることになった。
なんか情けないがまあ仕方ない、弓を使えないままでいるほうがよっぽど情けないと思われるだろうしな。
「まず弓の持ち方はこう。
そして矢をつがえてこう引く」
「ええと、こうか?」
「うむ、そんな感じだ。
ではあの的を狙って矢を射てみろ」
「わかった、やってみる」
俺は弓に矢をつがえて、弦を引くと、的にめがけて矢を放ってみた。
ああ、もちろんまだ鏃はつけてないぜ、石の鏃は貴重なんでな。
「えい!」
しかし、矢は思った方には飛んでくれない。
「ダメダメだな」
男にそう言われて俺はがっくりうなだれた。
「ああ、ダメダメだな」
これに関してはコツを掴めるまでひたすら反復練習をするとともに、弓を使うために必要な筋肉を育てるしかないようだ。
まあ、止まっている的に対して矢をあてられるようになるのはそこまでは難しくはないと言ってはくれているが……。
「まあ、頑張ろう畑と家族を守るためにも」
収穫した後の穀物や豆を狙う鼠は猫が狩ってくれるとしても、畑の作物を喰おうとする草食動物まで狩ってくれないからな。
そのあたりは自分で守るしか無いわけだ。
農耕の歴史はそれを食べようとする草食動物との闘いの歴史でもあるわけで、その中でも比較的我慢強くてリーダーに従う性質を持つ山羊や羊は人間に飼われたほうが食べ物に困らないと人間に従うことになったようだ。
もともとは畑の作物を食われて困っていたのだが、何かの機会で山羊や羊の子どもを捕まえたら意外となついたとかそんなところが牧畜の始まりなのだろうとは思うけどな。




