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狩猟生活から農耕生活の過渡期の人類を飢えから救ったのは果樹とドングリとナッツ

 さて、果樹の収穫の後、麦や豆、にんにくなどの野菜の種まきをしながら、同時に夏の間に育った畑の豆を収穫しつつ、雑木林に入ってオークのドングリやピスタチオ、クルミ、ハシバミ、アーモンドなどのナッツ類を採取する。


 もちろん単独でうろちょろして肉食獣の類や他の村の人間に襲われたり誘拐されたりするのは困るので、こういう時も集団で行動し、弓矢で武装している護衛と警戒用の犬も一緒に森にいる。


 もちろん護衛役の人間は採取したものを入れるための籠などを持てないので採取もしない。


 こういう時はリュックサックやナップザックみたいに背負えて両手が開けられる物があれば便利なんだがな。


日本だと竹細工や籐製品の背負いかごがあるんだが 、両方とも東南アジアからから東アジアの植物だからこのあたりではなさそうだし、使えるとしたら柳かな。


まあ、木と紐で背負子を作ってそこに籠を乗せるでも良いんだろうけど。


帰ったら作って見ようか。


 まあ、彼らは周りに危険なものがいないか警戒しながらずっと見張りを行うのがその役目だし無理して荷物を運ばせる必要もないけどな。


「無駄っちゃあ無駄だけど色々危険がある以上しょうがないよな」


 なにせ他の集落の人間以外にも危険な肉食動物はたくさんいる。


 まあ、そういった生物はほとんど夜行性なので昼間に襲われることはあまりないはずなのだが、世の中には例外というのはいくらでもあるから警戒するに越したことはない。


 なので本来採取は女も行うはずのものだったのだが、現在では女は街の中でドングリのアク抜きや製粉作業を行い、採取は男がやる作業になっている。


 街の近くの畑作業ならすぐに街に逃げ込むこともできるが、果樹やオークなどが生えている林は少し街から離れてる場所にあるからな。


 まあ、それとは別にドングリのアク抜きや製粉作業というのは大変時間がかかるという理由もあるんだけど。


「まあそれにしてもドングリやナッツがたくさん取れるのは有り難いな」


 そんなことを言いながら俺は拾い上げてはかごに入れていく。


 実のところ象やヘラジカのような大型で比較的動きが遅い生物が絶滅した時に人間を飢えから救ったのはこのドングリやナッツ類だった。


 象などの大型の動物を仕留めるには人間も大勢の人数で追い立てたり、石槍を大勢で投げつけたりして獲物を倒す必要があったが、そういった獲物が少なくなってくると、大勢の集団でいると食料が十分得ることができなくなっていく。


 たとえば日本の縄文期の関東のような魚や貝などの水産資源が豊富な地域ではそういったものももちろん食べられたのだが、多くの地域ではそう都合よくは行かなかった。


 そこで西アジアの人間が出会ったのがヨルダン渓谷の森林ステップの果樹とオークのドングリとピスタチオを主とするナッツだった。


 特に林檎、葡萄、無花果などの果樹とナッツは加熱やアク抜きなどをしなくても食べられ、ナッツは長期保存も可能だった。


 しかしナッツだけでは足りなくなるとドングリを食べざるを得なかったわけだが、ナッツと違いドングリは灰汁が多すぎて普通には食べられない。


 そこで焼いてみたりなんだりしたんだろうが、やはりアク抜きしなくては加熱しても食べられなかった。


 東南アジアにはタロイモやヤムイモ、南米にはジャガイモやさつまいももあったが、そういった食べ物はそこまでは広がらなかった。


 この時代では交通手段は船か徒歩しか無いからな。


 しかし、誰かがドングリを粉にしてそれを水につければアク抜きが出来ることを発見した。


 植物資源の多い東南アジアや東アジアではもっと先に食物を煮るための土器が開発されていたが、西アジアでは植物資源も淡水資源も貴重なので多量に水を使う煮るという手段はそこまで発達しなかったのかもしれない。


 その代わり焼くという手段はそれなりに発達した。


 ドングリの粉を丸めて焼くとそれなりに固くて保存が効くこともわかった。


 まあ、ドングリを煮てアク抜きするよりも、粉にして水に晒すほうが手間も時間もかかるので主に女はその作業にかかりきりにならざるを得なくもなったわけだが。


「まあ、これくらい取れれば十分かね」


 俺がドングリやナッツを十分拾い終わる頃には周りもだいたいカゴいっぱいにドングリやナッツを拾い集めていた。


 そうしてみんなでまとまって街まで帰る。


 街に帰るまでは安心はできないのだな。


 まあ特に何も起きずに街には帰り着いたけど。


 しかし、何かに襲われるかもしれないってのは心臓に悪いよな。


 21世紀の日本だとそんなことはなかったから尚更そう感じるんだろうけど。


「只今戻ったよ」


 家にたどり着いたらリーリスに声をかける。


「あ、おかえりなさい」


「おかえりなさい、お義兄さん」


 おや、リーリスの妹も来ていたようだ。


「ただいま、リーリス、リーリム」


 そろそろリーリスのお腹も目に見えて大きくなってきてるから、妹が家事の手伝いに来てくれてるのだな。


 回転式の石臼が有っても、穀物などを粉にするのは重労働だし助かるぜ。


「パン、食べてくかい?」


 俺はリーリムにそう声をかける。


「うんうん、食べてく食べてく」


 トルコのピタ、南米のトルティーヤ、もしくはインドのチャパティのような薄く焼いたまっ平らなパンよりも、大麦麦芽などを加えて発酵させたちょっとふっくらしたパンのほうがやっぱり食べやすいらしく、リーリムはそれ目当てに最近は良くうちに来て家事を手伝っていたりする。


最近は乾燥させたナツメヤシの実であるデーツを粉にして混ぜたり、干したぶどうを混ぜることで甘いパンもできてるのも有るかもな。


 まあ、身重のリーリスを心配してるのもあるだろうけどな。


「まあ、やっぱ柔らかいほうが食いやすいよな。

 それに甘みは偶には必要だし」


 俺の言葉に二人が頷く。


「まあ、そうよね」


「うん、そうだね」


 まあ、そろそろ麦だけでなくドングリやナッツの粉も混ざるので食感は更に変わるかもしれないけど、自然の恵みで飢えずにすむのは有り難いことだ。

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