猫とツバメは人間を利用してその数を増やしたんだな
さて、人間にとって一番古い家畜は犬で、人間が狼をいつ家畜化したかははっきりしない。
しかし、象のような大型の動きが鈍い哺乳類が絶滅して小型で素早い獲物を狩るためには猟犬として犬が絶対的に必要になったので狩猟を行うユーラシアの人間はほぼ全て犬をともなって生活するようになった。
犬の家畜化は、13万5千年というホモサピエンスがアフリカから出る前にネアンデルタール人によって家畜化された可能性もあるが、ユーラシア全体に広がったのは大型哺乳類の絶滅の時期の約1万8千年前頃で間違いないだろう。
では犬と並ぶ人気の猫はいつから人間と一緒に暮らしていたのかというと大体1万年くらい前からだ。
これは羊や山羊よりも下手すると早い。
つまりこのエリコではもうすでに人間と一緒に猫も暮らしていたりするんだな。
「お、猫が鼠を食ってるな」
「あら、そうね有り難いことだわ」
いつの間にか家の中に入ってきた猫が鼠を捕らえてもしゃもしゃしてる場面をたまたま見つけてしまった。
この時代、窓には木戸やガラスとかないし入り口にもドアとかはないので人や動物は簡単に入ってこれる。
猫の先祖はリビアヤマネコだが人間がウサギ等の小動物の狩猟をメインにしていた時はむしろ競合する相手だった。
しかし、人間がナッツとともに麦や豆を栽培しそれを保存するようになると、それを食おうとするネズミや野ウサギを狩るために、猫は人間の生活圏に頻繁に足を踏み入れるようになり、やがてその中に居着いてしまい家や食物倉庫に住み着くようになったわけだ。
これがこの地方で農業が広まった理由の1つでも在るんじゃなかろうか。
猫のいない地域では穀物の保存をするためにねずみ返しのような建築の工夫が必要だったが、そういった細工は石器だけの工具だと大変だったからな。
「あ、どっか行っちまった」
「まあ、お腹いっぱいになったから何処かで寝るのでしょう」
「まあ、そうかもなぁ」
ただし猫にとっては犬や山羊、羊のように人間の家畜になったつもりはないだろうけどな。
完全に肉食である猫は穀物を食うこともないから、ネズミなどを駆除してくれる穀物倉庫の番人として人間からもありがたがられたわけさ。
気が向けば人間に擦り寄ってきて肉やミルクをねだることもあるが、基本的には勝手気ままに過ごしてるのが現状の猫だ。
まあうまく子猫の時になつけばそのまま人間と一緒に住むことも在るんだがな。
要するに猫は人間の生活圏内で暮らしているだけであって、人間に必ずしもなれてるとは言い難いというのが現状であったりする。
ようは半野良の猫が気ままに住み着いてるに近いって感じだな。
猫と同じように、その姿形によって人間に愛されてきたがゆえに人間の生活圏で巣作りをする鳥がいる。
それはツバメでツバメは人間が住んでいる家の軒下に巣を作る。
”ジャージャー”
ツバメのヒナは口を大きく開けて親が餌を運んできてくれるのを待つ。
親は頑張って餌になる虫を捕まえると巣に戻ってきては雛に与える。
お腹がいっぱいになったひなは後ろに下がってうんちをして鳴き声が小さくなるので、親はお腹をすかせて前にいるいる声の大きなヒナから順に餌をあげる。
基本的にはそうすればヒナ全員にエサが行き渡るからな。
ただ病気だったり餌が十分食べられなくなって弱って移動できなくなったり声が小さくなった雛はそのまま死んでしまったりもする。
で、なんでツバメが人間の住んでる場所に巣を作るかというとツバメのヒナにとってはそこが一番安全だとツバメの親が思ってるからだ。
基本的にツバメのカップルは毎年同じ相手と巣作りをする。
先にオスが去年作った巣のところに行って巣や周りの様子を調べて後からメスがやってくる。
ツバメのヒナを狙う猛禽なども人間の住む地域には入ってこないし人間は可愛いと思う生物は保護する傾向がある。
勿論、個人個人によって対応は違うので巣を落としてしまう人間もいるわけだが、この時代ではわざわざそんなことをする人間はいないし、ツバメが巣を作るのはむしろ縁起のいいこととかんがえているので、みんなで見守ったりする。
「うまくみんな育ってくれるといいな」
俺の言葉にリーリスも頷く。
「ええそうね」
秋になればサハラの南の暖かい地域に戻るツバメが一生懸命子どもを育てている様子を見ると、おなかが大きくなってきたリーリスにために俺も頑張らないとなと思う。
しかし、この時代でも他の集落との争いも多少は有ったりするし、けっこう大変かもしれないな。