私は私を愛せるか。
―――私にそっくりだ。
今となっては彼女を表す言葉はそれしかないであろう。
食べ物の好き嫌い、血液型に誕生日、そして考え方。
細かくみていくと似ている要素はこれっぽっちもなかった。
だけれど、真っ先に思い浮かぶ言葉は、私にそっくりだ、ということ。
その正体ははっきりとはわからない。
いつしか二人の心は繋がりあっていた。
お互いのことがよくわかる、よくわからない。
そしてよくわかるからこそわからない、よくわからないからこそわかる。
そこにあったのは信頼と尊敬だけだった。
そっくりな二人。
私と彼女、彼女と私。
私と私、彼女と彼女。
この世界には二人しかいないのではないのか、と錯覚した。
私は天邪鬼だった。
彼女は天邪鬼だった。
自分が望み、相手が望むことをしたくなかった。
それは照れや嫉妬して欲しいからかもしれない。
とにかく一方が一方に与えることは無かったし、良い言い方かはともかくとしてギブアンドテイクだった。
私は彼女を愛していた。
私は私を愛していた。
だけど、彼女は私を愛していなかった。
彼女は彼女を愛していなかった。
愛しているからこそ愛していなかった、愛していないからこそ愛していた。
彼女は私とそっくりだった。
細かくみていくとこれっぽっちも似ている要素がないのに、彼女と私はそっくりだった。
彼女はこう言った。
「貴方は私だから、私は貴方だから。だから一緒にはいられない」
私と彼女の心は紛れもなく繋がっていた。
だから繋がっていなかった。
私は私を愛し、彼女は彼女を愛さなかった。
ただそれだけの事だった。
対外的な恋愛はもはや体をなさず、それはいつしか家族愛から更には自己愛までも昇華していた。
私は彼女だから、彼女は私だから、そんな理屈でも理解することが出来た。
それは幸せだったのか、不幸せだったのか。
過ぎ去った事を考えることは簡単だが、答えを出すということは不可能だった。
とにかく私は、彼女は、お互いを見つめることをやめた。
私は、彼女は、自分を見つめることをやめた。
何故なら私は彼女を愛し、彼女は私を愛さなかったから。
私は私を愛し、彼女は彼女を愛さなかったから。
―私は私を愛せるだろうか。
―彼女は彼女を愛せるだろうか。
―貴方は貴方を愛せるだろうか。