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COLOR CHEMISTRY  作者: 乃木伊穂理
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青の総統

 謁見の間には水を貯めるための溝があり、そこにはお城の中と同様に水が入れられていた。

 ただ、水路のように水が流れているのではなく、ただ貯めているだけという点、溝の上に透明なガラスのようなものが張られている点の2点が道中のそれとは異なっていた。

 溝の中央には王座へと繋がる道が作られており、その王座の後ろに巨大なオルガンが設置されている。

 謁見の間にいた2人は私たちの存在に気が付いたようで、2人のうち、王座に座っていた男性の方が私たちに向かって歩き出した。


「やあやあ赤の総統レッドちゃんじゃないの!」

「どーも青の総統ヴラウさん」


 ブラウの熱烈な歓迎を、レッドは適当にあしらった。


「ちぇー、つれないなあ」

「今日はそんな気分じゃないんだ。勘弁してくれ」

「ああ、だろうね……ん?」


 ブラウは今この瞬間に私の存在を認識したようだった。

 ブラウは、左目にかけられたモノクルの位置を正し、鼻先が触れるほど顔を近付けて私を見る。


「赤の新人さんかな? 僕の目がおかしくなければ、白色に見えるけれど」

「あ、はい。私は赤のグループに住まわせてもらっているホワイト……です」

「ホワイトちゃんか! いいねぇホワイト! 是非うちにも迎え入れたい!」

「あまり近付くな。昨日来たばかりの新人なんだぞ」


 レッドに怒られたブラウは、渋々私の側を離れ、レッドへと向き直った。


「よし、用件を聞こう。何でも言ってくれたまえ!」


 すべてを受け入れよう! といった風に、ブラウは両手を広げてみせた。


「これを見てくれ」


 レッドは足を動かし、大剣の存在をブラウに教えた。


「青のグループのザフィールという女性のものだ」

「どうしてそんなものを君が?」

「喧嘩を売ってきたんだよ。あろうことか、この私にな」


 そんなはずはない! と、ブラウは今でもオルガンを引き続けている少女の方を振り返った。


「メーア。ザフィールという女性を知っているかい?」


 メーアと呼ばれた中学生くらいの少女は、首を横に振った。

 その首と同時に揺れる青く長い髪は、まるで先ほどまで見ていた清流のようだった。


「あの子は嘘を吐かない。だから本当にそんな女性は知らない」

「確かに、ブラウと違ってメーアが嘘を吐いている姿は一度も見たことがないな。しかし、私たちも嘘は吐いていない。彼女は青い髪をしていた」

「うーん……となると、ザフィールさんが神託に背いているという可能性くらいしか思い浮かばないなあ」

「神託に背く? そんなことをして何になるんだ。デメリットしかないじゃないか!」

「あくまで可能性の話だよ。でも、それ以外考えられない」


 神託……? 背く……?

 何だか話が分からなくなってきてしまった。


「とりあえず、近いうちに会議を開こう。これは和平に関わる重要な出来事だ」

「まあ、そうなるよね……とうとう僕らのグループも信頼を失うことになるのか……」


 ブラウはそう言って、少し大げさなほど肩を落とした。


「穏便に事が運ぶようフォローしてやるから、そう落ち込むなよ。ほら、メーアもオルガンで元気出してって言ってくれてるんじゃないのか?」


 本当にそういう意図があっての行動なのかは分からないが、確かに流れる曲が明るく弾むようなリズムの曲へと移り変わっていた。


「そうだね……ありがとう2人とも……」

「んじゃ、ブラウも元気を取り戻したってことで、そろそろ帰らせてもらうわ」


 行くぞ、ホワイト! と、レッドは私を膝で突っつき、扉の方へと私を誘導した。


「最後にいいかな!」


  レッドが扉を少し開けたその瞬間、ブラウが大きな声でそう言った。

 私とレッドは、同時に後ろを振り向く。


「ホワイトは何色にも染まれる……もしもの時は、僕ら青のグループも頼ってほしい!」

「……それ、今言うことかよ」


 もしもの時──それは、赤のグループに何らかのトラブルがあった時という意味だろう。

 故に、赤のグループの総統をしているレッドが不機嫌になるのも無理はない。

 私も今は赤のグループを離れるつもりはないし、レッドがいれば、何かあってもすぐに解決すると信じている。

 なので、私は建前半分でこう返答した。


「分かりました! この人が許してくれたら……ですけど!」

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