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天をつく巨人 オウル・コンシリアートル 三


 錬太郎の答えを聞いた後、少し間が空いて、オウル・コンシリアートルの体が震え始めた。あまりにも巨大な肉体のため、オウル・コンシリアートルが震え始めると、地面まで震え始めた。オウル・コンシリアートルは耐えているのである。今にも動き出そうとしている肉体を、何とか自分の魂の力のみで、抑えきっていた。自分が押さえつけていなければ、ありえないほどの巨体は町を破壊して止まらず、どこまでも破壊の限りを尽くすだろうから。それはオウル・コンシリアートルが最も避けたい事態であった。彼は守るために警察官になったのであって、壊すために生きてきたわけではないからだ。しかし、それにも限界というのがあった。シージオの相棒をつとめていたオウルであってもダナム博士とエルヨ・ガリファイアの二人掛かりで命令を刻まれてしまえば、いつまでも耐え切れるものではなかった。

 震えるオウルがこういった。

「申し訳ないが、錬太郎君。恥をしのんでお願いしたいことがある。私を殺してくれ」

聞き取りにくい風の声であった。オウル・コンシリアートルの声には覚悟の響きがあった。オウルはすでに自分がどうしようもない状況にあるということを理解していた。理解していたからこそお願いをしたのだ。自分がとんでもない破壊を起こす前に、自分を殺せるだろう錬太郎に幕を引いてもらいたいと。何せ錬太郎はネフィリムと戦ってきているのだから、自分を倒すこともできるだろうと。そう考えたのだ。

 かぜの声を理解した錬太郎が、呆然とした。目を開いて、手の力が抜け落ちていた。錬太郎は信じたくなかったのだ。ずいぶんうまく話が進んで、そして、もしかしたらオウル・コンシリアートルを仲間に引き入れることができるかもしれない。平和的にすべてを終わらせることができるかもしれないと思っていた矢先だったのだ。殺したくない。しかし錬太郎はオウルの声が、まったく嘘偽りない気持ちから発していることにも気がついてしまった。どうやっても、何があったとしても自分はこの人の命を奪わなくてはならない。しかし殺したくない。そんな気持ちが一気にわいてきて、錬太郎の頭の働きを悪くさせた。道は見えていた。しかし踏み出せそうになかった。

 震えるオウルに、錬太郎がこういった。

「なぜです」

責めていた。どうして自分に、あなたの命を奪わせるのか。せっかく話ができたのだから、せっかくシージオと引き合わせることができるかもしれないのだから、何もなかったようにして終わらせてしまえばいいじゃないかと。八つ当たりをするような気があった。

 錬太郎の質問に、オウル・コンシリアートルが答えた。

「ダナム博士の仕掛けだよ。私の意思とは関係なしに体が動くように細工されてしまっている。このままだとこのあたりいったいを破壊しつくすまで動き続けることになる。私が銀の砂粒になるまでずっと」

オウルはずいぶんと申し訳なさそうに錬太郎に話してくれた。オウルが自分の状況を話して聞かせてくれたのは、錬太郎が自分を始末しやすいようにである。錬太郎を話を進める間に、オウルは錬太郎の内面というのを考察できていた。オウルは錬太郎のことを目的さえ決まれば、しっかりと歩いていける少年であると見通している。また今、錬太郎が迷っているのはシージオとオウルのことを思い、悩んでいるのだということまで察していた。そうなってきて、オウルは自分のお願いを聞いてもらいやすいように、理由を説明した。殺す理由があれば、きっとやってくれると信じていた。

 説明を聞いた錬太郎の表情が暗くなった。今まで力に満ちていた錬太郎の目から、光が失われていた。錬太郎は自分がやらなくてはならない道というのをやるべきというように決めたのである。自分の行動を決めて、後はやるだけなのだから、いっそ元気になってもいいかもしれない。しかし錬太郎にはできなかった。理由こそあるが、錬太郎の行動の結果の先にある悲しみというのを思うと、心が押しつぶされそうだったのだ。

 落ち込んでしまった錬太郎にオウル・コンシリアートルがこういった。

「本当にすまない。しかしわかってくれ。私の命よりも、大切なものがある。そうだろう?

 君だって何か大切なものを守るため、無茶をした。私にも大切なものがある。だから勇気を出して君にお願いをする。大切なものを守るため、私を殺してくれ」

ずいぶんと早口であった。北風が吹きぬけるような勢いである。オウル・コンシリアートルが早口になり、錬太郎をせかしたのは、そろそろ自分の肉体をコントロールができなくなりつつあるからだ。かろうじてダナム博士とエルヨ・ガリファイアの呪縛にたえていたが、オウルの精神力を呪縛の威力が超えてきたのである。そうなっておきるのは、オウルの超巨大な肉体を使った圧倒的な破壊である。オウルが腕を振り上げて、地面を殴りつけるだけで、地面は揺れ、建物は崩れ落ちるだろう。そして、おそらくまだ生き延びているだろう人たちが消えていく。それはオウルにとって耐えられないことだった。



 オウルの言葉からすぐ後のこと、天を突く巨人の体が動き始めた。静かに拳が固められた。しかしこの拳というのが一戸建て住宅よりも大きかった。この握りこぶしは、どこかにぶつけられるのだろう。そうなったときどうなるのかなどというのは、誰にでもわかることである。破壊だ。破壊しかない。オウル・コンシリアートルの体は、ダナム博士とエルヨ・ガリファイアの呪縛に操られ、暴走を始めたのである。

 拳が固められてすぐのことであった。拳を握るのとほとんど間が開かずに、巨人の拳が、振り上げられた。巨大な肉体の周りが、回りのことなど気にせずに動き回るのだ。巨人が動くたびに、超高層ビルがゆれ、壊れた。また、周りにあった駐車場の車たちが飛び跳ねていた。振りかぶった姿を見ると、どうやらこの拳を何物かにぶつけるつもりなのだ。小さな子供が拳を固めて暴れるようないい加減なうごきがあったが、一キロメートルを超える身長の、巨大な怪物が行えば、耐えられるもはいない。これをまず、錬太郎にぶつけるつもりなのだ。オウルの体に刻まれた本能が、錬太郎を一番の障害物と認識していた。

 目の前の怪物が動き出してすぐ錬太郎はすぐに対応した。錬太郎の落ち込んでいる表情というのはもうない。それよりも今何が起きているのかというのを理解するのでいっぱいいっぱいになっていた。というのが、あまりのも相手の体が大きすぎて、どこに何があるのかというのがわからなかったのだ。錬太郎が今見えているのは、山のような大きさの頭である。これが動き出したので、錬太郎は攻撃の予兆とくみとった。しかし頭が見えているだけで、視線を動かしても見えるのは、せいぜい肩、また、姿勢が変わったという直感から得られる、攻撃のフォームだけだった。そして大質量の攻撃が自分に向けて放たれるということを予感して、怖気がした。自分の念力はそこまでの質量をとめることができるだろうかと。殺してくれといっていたが、殺せないかもしれない。物質としての桁が違いすぎた。

 何が起きるのかと防御に回っていた錬太郎は引きつった。完全に青ざめていた。錬太郎は自分に向けて放たれようとしている拳というのを見てしまったのだ。錬太郎にはネフィリムの力、念力というのがある。そのためほとんどの怪物に負けるということがない。また、建物をいくつ飛ばされようとも、止められるという静かな自信もあった。しかし、実際に目の前で大質量の拳が、それこそ山が拳の形をしているようなものというのは、異様な迫力があった。人間に敵対する蚊がみる光景というのは錬太郎の見る光景とよく似ているに違いない。

 そして拳がぶつかる瞬間、錬太郎はつぶやいた。

「マジかよ」

すでに後ろめたさというのは消えていた。錬太郎のつぶやきに会ったのは、想像を超えた怪物に出会ってしまったという後悔だけだった。というのが、あまりにもでかく重たいはずの肉体が、普通の人間が自在に動き回るような、滑らかな勢いで動いていたのである。体というのは大きければ大きいほど、制御するのが難しくなっていく。慣性の法則だとか、重力のような目に見えなかった力が大きく働くようになり小さなときには気がつかなかった障害物になるのだ。しかしオウル・コンシリアートルはまったく関係ないとばかりに体を動かしてきた。思い切り振りかぶった拳を、当たり前のように振りぬいてきた。悪夢である。オウルの動きを見たとき、錬太郎は地面を這うありの気持ちを実感していた。

 錬太郎の呟きをかき消すように、拳が振りぬかれた。超巨大であるというのに打ち込まれる拳は人間並みの滑らかさである。どうやらオウル・コンシリアートルの本能は、完全に錬太郎を始末するつもりらしい。

 錬太郎は何とか拳をいなすことができていた。大振りに振りかぶられていた拳を、念力を使ってはじいたのだ。あまりにも迫力が強すぎて、錬太郎は両手を前に突き出して、道を阻もうとしたのである。自在に使えるようになっていた念力であった。自分の思うような動きというのをたやすく行えた。

 しかし拳をとめることはできたが自分の肉体を留めることができなかった。錬太郎の右腕と左腕が、先ほどの一発で、ほとんどだめにされていた。錬太郎が倒してきた怪物たちと同じように、銀色の砂の粒に変わろうとしていた。その銀の砂粒に変わろうとしている腕からは、自分のまとっているコートと同じ光があふれていた。錬太郎に向けて放たれた拳というのは、その大質量のため、錬太郎の念力を超えてきていたのである。また、ほかの怪物たちとは違った、奇妙な密度というのがあった。今まで相手をした怪物たちが水なら、オウルは氷であった。それが念力をきかせないようにしていた。

 一発目のすぐ後であった、二発目の拳が放たれた。錬太郎を逃がすつもりなどなかった。オウル・コンシリートルの肉体に刻まれた戦闘技術、また思想が錬太郎の隙を見逃してくれなかった。

 二発目の攻撃を受けて錬太郎は地面に叩き落された。一発目の攻撃で、錬太郎の肉体が悲鳴を上げていた。今まで怪物の攻撃を受けてもなかった現象である。錬太郎は二発目の拳に何とか対応した。両手を挙げて、進行方向を変えた。しかし、あまりに勢いが強すぎて、空を飛び続けることができなくなっていた。船酔いのような症状が、錬太郎に現れていた。今まで感じたことがない気分の悪さであった。体調が悪いということはあったが、このような現象は初めてであった。この船酔いに似た状況が生まれてから、錬太郎は念力がうまく使えなくなっていた。

 三発目の攻撃がすでに待ち構えていた。それは踏みつける動きだった。

 錬太郎はなんとしてもそれを受けたくなかった。どうやっても死ぬようにしか思えなかったのである。

 錬太郎はできるだけオウル・コンシリアートルから離れたところにいきたいと願った。瞬間移動である。



 錬太郎はシージオたちから少し離れたところに姿を現した。国立演劇場の広場であった。錬太郎がここに飛んできたのは、逃げ出したいと願ったときに、この場所しか思い浮かばなかったからである。しかし着地をうまく決められなかった。背中から落ちて、呼吸が怪しくなっていた。

 錬太郎が急に現れて、誰もが驚いていた。

 しかしすぐシージオが大きな声を出した。

「大丈夫か!」

シージオは錬太郎がとんでもない相手と戦い始めていたのを確認していた。肉眼で見える距離ではない。しかし錬太郎の体は夕焼けのような光を放っていて、見やすかった。そして一キロメートルをこえる巨人というのははるか彼方から見てもはっきりと姿を確認できた。戦っているのだなというのは、ばったばったと超高層ビルが吹っ飛んでいくのを見ていれば誰でも理解ができた。

 錬太郎の状態を確認したルアウダが悲鳴を上げた。ルアウダは錬太郎に駆け寄っていた。そのときに錬太郎の両腕を見てしまったのだ。ルアウダの悲鳴というのは自分のための悲鳴ではない。錬太郎のための悲鳴だった。ルアウダは錬太郎が戦いによって、とんでもない怪我を受けてしまったことを悲しんだのだ。

 逃げ延びた錬太郎の両腕が、肩辺りから崩れ落ちていた。錬太郎の失った両腕からは血が流れていなかった。錬太郎の切断面は金属のような光沢と光のコートと同じ光を放っていた。


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