英語で言う実験的作品というジャンル
ーこの学校ではよくおかしなことが起こるらしい。
昼下がり、五限英語の授業を子守歌にしながらそんなとりとめのないことを考える。例えば視聴覚室の消したはずの電気がついているだとか逢魔が時に地下に下りると顔の見えない女がたっているとか飛び降りを繰り返す女とか。
だが、私は真っ向からそれを否定する。第一、そんなオカルトは現在全てとは言わずとも暴かれつつあるのだ。今は平成の御代。不可解なことなど起ころうはずもない…。
ふと金臭い臭いがした。眠気が全て消え頭が冴える。このにおいは一体何であろうか。私はそのにおいの元を辿る。異臭は隣の席からのものであった。彼女の白いブラウスの右袖は真っ赤な血に染まっていた。私は目を見張ったがおかしなことに気づいた。彼女はそのような異常な状況で平然と、しかもにこやかに微笑みながら板書をノートにとっているのである。
これはきっと私の見間違いに違いない。彼女は痛みに弱い人間であるはずであるし、また普通あれだけ出血をしていればまず真っ先に本人が気づくはずではないか。私はそう結論づけ居眠りを決め込もうとして、できなかった。
耳をつんざく悲鳴が真後ろから響く。
「その、その腕どうしたのよ!」
ガッシャンという音に驚き後ろを見る。すると真後ろの、風見さんだったか。その血を流しながらもにこやかに板書をとる彼女を指差して立っていた。音からしても分かるほどの威勢の良さをもって立ち上がったらしい。
「何のこと?」
彼女は何のことだかさっぱり分からぬと言わんばかりに平然としている。
私は背中に冷たいものが走るのを感じた。何故彼女はあんなにも出血しているにも関わらず笑っているのか。血とおぼしき物はブラウスの許容量を超えてボタボタとノートに垂れているというのに。あれは集団幻覚だとでも言うのか?それともおかしいのは彼女の方なのか?
風見さんの行動につられたほかのクラスメイトが騒ぎ出したのも仕方のないことだった。先生も何事かと振り向き狂乱に巻き込まれた。
であるにもかかわらず、その渦中の人は未だにこやかにノートをとっている。先生の早く保健室にという声も聞こえていないらしい。狂っているのは一体どちらなんだ。彼女はまだ機械的にノートをとる。教室はますます恐怖に狂い出す。
…つかの間、カタンという音が狂乱する教室にこだまする。そして何もかもが凍り付いたような静寂が訪れた。
彼女が席を立ったのだ。そうしてブラウスの袖を見てぽつりと
「あ、ほんとだ」
そう言ってその場にパタリと倒れた。