やってしまった
「ふうん?君、魔法使えたんだ」
その瞬間、あー、やっちゃったーと状況はかなりまずいのに、能天気なセリフを棒読みで心の中で読みあげました
といっても、顔には出していない自信はあります
あんたの表情筋死んでるよねー
と友達からよく言われるほど、全く動かないのですから
まぁ、唯一動く時がありますが、
それは今はどうでもよくて
どうにか誤魔化してこの状況切り抜けないといけません
目が悪いんですか?とでも言ってみましょうか
いや、無理ありすぎますね
と、ここまで考えて意外に自分が焦っているんだと気付きました
焦るなんて久しぶりで少しびっくりですね
それはともかく
さて、どうしましょう
* * *
私、ルーネ=フーリエは現在17歳
一年前にこの国、ゾルデにメイドとしてあがりました
潜入捜査のために
ここ、ゾルデは魔法国家と呼ばれるほど魔法がさかんで多種多様な魔法が使える人がいます
この国に来ると魔法の最先端が学べるので、多くの人が留学で来れる学校をつくったり、他国と共同研究したりと、その知識を広めることにとても積極的です
その代わり、この国の王宮は警戒が厳しく、他国の貴族といえどもなかなか入れません
警備が厳しいうえに、内部調査がキツイ所でもあるので、スパイとしての素質が高い(なにがあっても顔に出ないので)私にこの仕事がまわってきました
最初、他国の人間の私は色々な人に警戒されていましたが、全く動く気配が無いと思われ(ヘマなんてしないので、全然ばれませんでした)なににも関心を持たないので(報告が必要なことだとしても、本当に興味ないので)半年もたてば、警戒をとかれました
そして順調にさらに半年がたったのですが…
ここに来てヘマをやらかしました
実はですね、洗濯物を運びながらフッと廊下の外を見た時に、ちょうど庭で遊んでいた王女様の上に劣化した銅像が倒れてきていて、たまたまお付きの侍女が離れていたのか誰も傍にいなくて、しかもお花摘みをしてしゃがんでいた王女様は後ろから倒れてきている銅像に全く気付いてなくて、危ないって思ったときには魔法で吹っ飛ばしていました
しかも、無詠唱で
はい、わざわざ言ったとおり、どんなに魔法が発達したとしても無詠唱で発動できる人なんてまだほんの少し
この国でも数人しかいません
しかも相当重そうな銅像を(銅でできてるんだから、絶対重いはずです)たった一発で、です
無詠唱はできても威力が落ちますので、元が凄く魔法の威力がある人か、魔法を使うのが素晴らしく上手な人でないと実践レベルにはいたりません
まぁ、なにが言いたいかといいますと、
ただのメイドができるなんて無茶苦茶怪しいだろ、ってことです
しかも、ここに入るときにほとんど魔法は使えないと言っていたのに使えたんですから、さらにあやしいですね
それを見られてしまったんです
この国の魔法第一騎士団の副隊長こと、第二王子のツキ=ドゥ=ゾルデ様に
眉目秀麗、けれども冷酷非道が代名詞のツキ様に、です
整った顔でいつもニコニコと笑っており、何も知らない人が見たら天使を感じさせ
顔の横の一房に飾り紐がついたショートのサラサラな黒い髪
光があたる回廊を歩く様はまるで一枚の絵のよう
けれどもそのお顔に似合わず武力派なひとで、一蹴りでガタイの良い男が吹っ飛んでいく
魔法士としても立派で、この国でも有数の実力者として名をはせる
男からは尊敬の眼差しを
女からはうっとりしたため息をこぼす存在としてどちらにも大人気
けれども一度仕事になると、優しさのカケラもなく
さらりと鬼畜な訓練メニューを告げ、敵とみなせば徹底的に相手を潰していく
情け容赦のない人
そんな人に見られてしまいました
どうやら私から死角になるところにいたらしく、いつもなら気付くところを咄嗟のことで気付けなかったのです
やばいです
すぐに逃げようとしましたが、「待て」と先制をされ思わず動きを止めてしまいました
恐る恐る顔を上げますと微笑みながらこちらに歩いてくる姿が目に映りました
天使でさえ見惚れる美しい笑顔をうかべているのはずなのに、目が笑っていないので安心なんかできません
美しい黒髪が風に吹かれて揺れていて、一枚の絵のように見えるのに、感じるのは恐怖です
というか、バックに黒いものが見えます
近づくたびに黒いものが膨らんでいるのは気のせいと思いたいです
彼の一歩一歩が地獄へのカウントダウンに聞こえるのは気のせいでしょうか
誰かが天使と彼を称していましたが彼の背中に見えるのは美しいけれども黒い羽の気がします
堕天使様でしょうか
きっとそうですね
とうとう目の前に立たれた私はジッと彼を見上げます
彼も私を見つめます
なので私も見つめかえし続けます
…いつまで続ければいいのでしょうか
飽きてきました
無視して去ってもいいかしらと私が考え始めた頃、
ふと目元を緩ませた彼が呟いたのは
「一緒に来てくれるよね?」
死刑宣告でした
怖っ