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第5話 ふたりの愛

 克彦の運転する車は、6号国道を走り続けた。「ランチをしよう」とメールで約束したとおり、どこかで食事をするつもりだった。せっかくのデートなので、どこかちょっとおしゃれなお店に入ろうと思ったのだが、生憎このあたりは二人ともよく知らない場所だった。国道沿いなので、目に入ってくるのは、ほとんどファミリーレストランばかりだった。どのお店に入ろうか、二人ともなかなか決められずにどんどん走り続けた。時計の針は、もうすでに12時を回っていた。

「お腹すいた?」

「ううん、まだ大丈夫。」

理沙子は話に夢中で、お腹がすいたかどうかなど全然わからない状態だった。

「何を食べたい?」

「何でもいい。」

「食べられないものってあるんだっけ?」

「別に嫌いなものはないから大丈夫よ。」

理沙子は心の中でくすっと笑った。克彦はまた同じことを聞いてくる。(本当に私に関心がないのね・・)普通、嫌いなものはないと一度聞いたなら、きっともう同じ質問を繰り返すことはないと思うのだが、今までにもう何回も同じような会話を交わしている気がする。

 そんな克彦を、最初、理沙子は(この人は私の話を聞いているのかしら)とよく不信感を持ったりしたものだった。しかし、今はそうは思わない。彼はそういう性格なのだ。

 表面的な言葉や態度で、人というのはわかるものではない。些細なことはどうでも良かった。気の緩み・・という言葉があるが、そうだ。気が緩んでいても、一緒にいて疲れない人。そういう雰囲気のある男性。彼なりの気遣いは嬉しかったし、会話が自然に成り立つし、お互いに無理をしなくていい関係。

 理沙子の頭の中で克彦の言葉がこだまする。『・・俺の理想の恋人関係は、いつも気が緩んでいても気にしない関係、だな・・』いつのことだったか、そうつぶやいた言葉が、理沙子の頭の中にしっかりインプットされていた。そして理沙子は、自分が克彦に必要とされていることが嬉しいと思った。自分も彼を必要としている。

 

 普段は心の奥に秘沈めている言葉が頭をもたげる。『逢いたい。逢いたくてたまらない・・ずっとそばにいてほしい』でもそれをはっきりと意識しても許されるのは、実はこうして実際に逢っているときだけ。それ以外の時には、下手したら心が押しつぶされそうになる。『逢いたい。逢いたくてたまらない』というその自分の感情に、自分自身が押しつぶされそうになるのだ。

 でも、そんな感情との付き合い方に、さすがの理沙子も慣れてきた。出逢ってから、いつのまにかもう、3年以上もたっていた。この3年の間、彼の心は少しも変わっていない。ゆったりと川が流れるように、理沙子を愛してくれている。そして理沙子の方はといえば、やっぱり静かにゆったりと、克彦のことを愛していた。

 勿論、出逢ったばかりの頃は、嵐のような感情で心の中が荒れ狂っていた時期も確かにあった。まるで熱病にかかってしまったかのような、狂おしい恋をしていた時期もあった。でも、徐々に克彦のペースで、二人の恋愛は進んできたような気がする。ゆったりと、そして優しく。彼のほうが2歳年上。大きくて広くて、少し大人の気がした。そのせいだろうか、いつしか理沙子も、そんな克彦とのやわらかく温かい時間が、とても心地よく感じるようになった。


 道路がどんどん渋滞してきた。国道だから仕方がない。仕事がら、運転し慣れている克彦は、渋滞を避けるためにすっとわき道にそれて、市街地のほうに入って行った。

「この辺でいいかな。」

「そうね、この辺で。」

少し走ると、和食のお店があったので、そこで食事にすることにした。二人とも初めてはいるお店だった。

 

 乗り心地の良いゴルフ・トゥーランを駐車場に停め、車から降りると、理沙子はもう一度車の周りを眺めながら

「本当にいい車ね。」と言った。

ふと、後ろのナンバーを見ると、『3030』だったので

「あら?3030・・・」

理沙子が言うと

「美和だよ、美和。」

と克彦が嬉しそうに答えた。

「ああ、なるほど、美和ちゃんね。」

そう言った時、もう克彦はさっさとお店に入っていってしまっていた。その後姿を眺めながら、克彦がどれだけ愛娘の美和ちゃんを愛しているのかがよくわかり、理沙子の心はとても温かくなるのを感じた。

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