第2話 再会
克彦とはもう逢えないだろうと思っていた理沙子に、突然『逢いたい』というメールが届く。
遠くからのシルエットでも、すぐにわかった。水色のシャツのよく似合う克彦が、携帯電話を片手にこちらに向かってくる。そして理沙子の姿を見つけると、やさしく微笑んで、携帯電話を切った。理沙子もそっと手を振りながら微笑み返して、同じように携帯電話を切ると、克彦のもとに早歩きで急いだ。
理沙子は、ショッピングセンターの1階にあるコーヒーショップで待っていた。克彦は車を3階の駐車場に停めた。やっと逢える嬉しさから、逸る気持ちを抑えながら、お互いがお互いのいる場所に行こうとしてすれ違ってしまったらしい。二人はそのことに、携帯電話で話しながら気づいた。理沙子は気持ちばかりが焦って、ショッピングセンター内をうろうろしてしまった。そんな理沙子の様子を察して、結局、克彦がコーヒーショップの前まで降りてきてくれることになった。
二人とも、とても嬉しかった。何ヶ月ぶりだろう。最後に逢ったのは確か6月だった。もう4ヶ月も逢っていないことになる。でも何も変わっていない。以前のままの二人だった。二人とも大勢の人混みの中にいながら、他の誰も目に入らなかった。やっと逢えた。その喜びだけが、二人の心いっぱいに広がっていた。特に理沙子は、引っ越してからの2ヶ月間、もう逢えないとあきらめていただけに、現実に克彦が目の前にいることが信じられなかった。こんな時、人はよく、頬をつねったりするのだろう。理沙子もそんな心境だった。
「駐車場がいっぱいあってさ」
「そうみたいね。どの駐車場にいたの?」
「3階だよ、3階じゃわかんないだろうと思って」
「ごめんね、ホントにわかんないよ、これじゃ」
そんな会話を交わしながらエスカレーターを上っていく。そして無事に克彦の車の停まっている駐車場に着いた。
「あら?車替えたのね、ゴルフ・トゥーランじゃない」
「そうなんだ」
そう言いながら、克彦は助手席のドアを開けてくれた。
車内はとても広かった。「乗り心地がとてもいい」と、嬉しそうに克彦は話した。理沙子はちょっぴり寂しかった。助手席が理沙子の指定席だった、あのきれいな水色のジャガーはもうないのだ。でも、次の瞬間、エンジンをかけると、カーステレオからは、マイケルフランクスのソフトな声が流れて、やっぱり何も変わっていないのだということを、理沙子はすぐに感じることができた。それにしてもゴルフ・トゥー-ラン に乗り換えていたとは、あまりの偶然だった。
「今、私もゴルフを乗っているのよ」
「え、そうなの?」
「そうなの、しかも色も同じよ」
「そうなんだ、ミスティ・ブルーっていう色なんだよね」
田舎に引っ越しをして必要になったため、理沙子は車を購入した。でもまさか同じゴルフを買うとは思ってもいなかった。
「インパネのライトはブルーじゃない?」
「そうそう、ブルーだよ。じゃ、ほんと一緒なんだね」
二人とも何だかおかしくなってしまった。そして、こうも趣味が同じだと、一緒にいる違和感が全くなくなってしまう。4ヶ月の空白は、簡単に埋まってしまう気がした。
やっと逢えた克彦と理沙子。だんだんと4ヶ月の空白が埋まっていく。