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第一話 「好きの告白」


「はてなちゃーん! 好きだっ!」


 昼休み。昨日と同じようなノリで、僕ははてなちゃんこと結原果菜に近づいていった。


 はてなちゃんは、鞄から取り出したランチ用のバスケットを開く手を停止させて、僕を見上げる。その顔は、いつもの無表情としては、少々目が見開き過ぎているかもしれない。


「えっ……?」


 常時鉄仮面な彼女にしては珍しい、女の子らしい反応だった。


 ふむ、さすがに驚くよな。昨日撃沈したはずの艦隊が、再び攻めてきたのだから。まあ、彼女にとっては艦隊というより、申し分クオリティのイカダ程度のものだっただろうけど。


「……あ」


「いや、あのね、今日は告白のつもりじゃないんだ」


 騒ぎ始めたクラスメイト達にも分かるよう、僕は大げさに手を振っていつもの台詞をけん制する。最初の一文字が「……わ(たしもあなたのコトが好きでした)」だったら止めておくつもりだったけど。


「……?」


 きょとん、とした顔で僕を見上げる小動物みたいなはてなちゃん。ああ、可愛いなあ。


 そのちっこい頭を撫で回したいぐらいだ。彼女でもないからボディタッチは自重するけど。


 僕は爽やかな笑顔を崩さないまま、持っている風呂敷に包まれた弁当箱をひょいと持ち上げて見せる。


「もし良かったら、一緒にお弁当食べない? クラス替えがあってから、仲良しグループがバラバラになっちゃって。一人で寂しいんだ」


 知り合いがいないっていうのは嘘だけど。彼女たちが一緒に弁当をつつく仲ではないことは確かだ。


 はてなちゃんは再び目を見開いて、「えっと」と口ごもった後、まるで視線を逸らすように昼食の準備を再開しながら、


「……それは、別に」


「あっ、ほんと? じゃあ椅子だけ持ってくるねー」


 彼女が言い終える前に、僕はとんとんと会話を進めてしまう。


 曲がりなりにも、好きな女性と一緒に食事ができるのだ。嬉しいに決まってる。








 とにもかくも、はてなちゃんの机に自分の椅子をスタンバイさせて、僕らは昼食を開始した。彼女の席は窓際で、開かれた窓から吹いてくる春風が心地よく、差し込む日差しは心まで温めてくれるように優しい。


「へえ、はてなちゃん、ランチはパン派なんだ。どこかで買ってきてるの?」


 はてなちゃんのバスケットの中には、ミニクロワッサンやらミニメロンパンが入っていて、もうそれだけで愛くるしさ百点満点獲得なのに、それらを頬張る彼女の姿なんてのは、もはや悶絶ものだね。


「……全部、手作り」


「まじでっ! 上手いもんだねー」


「……ありがとう」


「ひとつもらってもいい?」


「うん」


「ありがとー!」


 僕ははてなちゃんお手製ミニクロワッサンを一つ取って、口に放り込む。


「ん、んまい!」


「……あ、ありがとう」


 次々に褒められて、気恥ずかしいのだろうか。はてなちゃんはそっぽを向いて、もくもくとミニメロンパンを咀嚼し始めた。


 にしても、本当に美味しいなあ、このミニクロワッサン。こりゃ間接キスも計算に入れて、はてなちゃんが食べているミニメロンパンも頂きたいところだね。げへへ。


「……あ、あの」


 いかがわしい妄想を膨らませながら、夢心地でミニクロをもぐもぐしていると、不意にはてなちゃんが口火を切った。


「むぐ、なにかな? メロンパンもくれるの?」


「これは……だめ。じゃ、なくて……その、」


 むう。ミニメロンパンはお気に入りのようだ。残念。


「……どうして?」


 いや「どうして?」って、何が? の問題だが、探り込むようなその瞳に、僕は彼女の言いたいことを直感した。……それにしても、本当に口下手だなあ、この子。でも、むしろそこが(以下省略)


「どうしてって言われても……」


 僕はミニクロをお茶で流し込んで、一息置いた。


「好き、だからだよ。はてなちゃんの求めているような説明はできないけれど、だからって君を諦めきれないんだ。だから、こうして一緒にお弁当つついたりして、ゆっくり気持ちを伝えていこうかなーって思ってさ」


 受け取り用によっては、ストーカー思考である。キモチワルイと言われればそれまでだし、彼女がやめてと言えばすぐにやめるつもりだ。だけど……僕はキッパリと彼女に「フラれた」わけじゃない。だからこそ、こういう手段……俗に言う「とりあえず、お友達から」ってやつをやってみること決めたのだ。


 我ながら何かむずがゆい台詞だなーと思いつつも、僕は平静を装ってタコさんウインナーを口に含む。


 はてなちゃんはというと……ちらり。うん。なかなか驚いている。特別大きなリアクションを取っているわけじゃないけど、彼女なりに盛大に目をぱちくりさせていた。長いまつげが相成ってか、この子、けっこう目が大きいな。むう、やはり間違いなく美少女だ。


 だがしかし、彼女、要塞と呼ばれるだけあって、驚いているのは分かるとも、その奥の感情は全く読み取れない。嬉しくて驚いているのか、いい迷惑だと思われているのか、表情だけでは分からないので、言葉を失くしている彼女に、僕は訊いてみることにした。


 できるだけ、相手の気に障らないよう、下手に出ながら……と。


「えっと……嫌、かな?」


 これで僕が童顔だったならば、その効果は計り知れなく絶大だったのだが、生憎と僕のルックスはそっち方面とは違う一途を辿っているのだった。残念なこと極まりない。いつか、はてなちゃんにこんなことを言われてみたいもんだね。その時に、果たして理性を保っていられるかは保障外の話だけど。


「……わ、私は」


 僕と目は合わせず、食べかけのミニメロンパンを見つめながら、はてなちゃんは言葉を紡ぎ出す―――。




「わ、わからない……」




「うんうんやっぱりそうだよね僕も分からないんだ……って、え? ええ?」


 予想外の返答に、僕はうっかり箸から卵焼きを机に落としてしまう。


「あ、ごめん。すぐ拭くから」


「わ、私、トイレ!」


 三秒ルール適用で僕がそれを拾い上げ、ポケットティッシュを取り出している最中、はてなちゃんは席から立ち上がって、ぱたぱたと駆けて教室から出て行ってしまった。


「え、え、ええー!? は、はてなちゃーん!」


 追いかけたいところだが、何も女子トイレまでストーキングするほど僕は一線を越えてはいない。彼女が置いていったミニメロンパンを「食べちゃおっかな」と考えながら、おとなしく待っていることにした。メロンパンは食べなかった。


 ……結局、昼休みが終わるまで、はてなちゃんは帰ってこなくて、


 僕は、もしかして彼女のパンが傷んでいたんじゃないかと、内心びくびくしながら午後の授業を受けた。



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