表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第2話 ― 優しい願い ―

 


 トゥーラは、付近の村から食料を探しに森へ出ていたところ、運悪くオーガに出くわしてしまったらしい。


 ヨルは彼女の話を静かに聞き終え、短く息を整えると頷いた。


「村まで送るよ。危ないから、僕たちが一緒に行こう」


 トゥーラは小さく「うん」と答え、少しだけ安心した表情を浮かべた。


 ⸻


 森の奥深く、木々の隙間を抜けた先に、ひっそりとした集落が現れた。


 粗末ながらも手入れされた家屋が寄り添うように建ち、細い煙がいくつも空へと立ち昇っている。派手さはないが、確かに“人の暮らし”があった。


「ヨルさん! 着いたよ!」


 トゥーラが振り返る。

 その声には、わずかな誇りと、拭いきれない不安が混じっていた。


「ここはね、わたしたちの村なの」


 ヨルはゆっくりと周囲を見渡した。

 壁や屋根には幾度も補修された跡が残り、ここが安らぎの地であると同時に、傷ついた場所でもあることが分かる。


 その時――


「……トゥーラ?」


 家屋の奥から、慌てた足音が響いた。


 白髪の老エルフが戸口に現れ、孫の姿を認めた瞬間――その表情が崩れ落ちた。


 杖が手から滑り落ち、乾いた音を立てる。


「……まぁ……トゥーラ……」


 祖母は震える足で歩み寄り、孫の頬を両手で包み込んだ。何度も、何度も確かめるように撫でる。


「森に行ったと聞いてねぇ……オーガが出たなんて噂で……もう、胸が張り裂けそうだったよ……」


 トゥーラは祖母にしがみついた。


「こ、こわかった……でも……ヨルさんが……助けてくれたの……」


 祖母は深く息を吐き、ようやくヨルへ向き直る。


 そして――深々と頭を下げた。


「旅のお方……孫をお救いいただき、心よりお礼申し上げます。老いぼれの身で大したもてなしもできませんが、せめてお茶でも飲んでいっておくれ」


 その礼は、形式ではない。

 長く生きた者の、静かな祈りだった。


 ⸻


 囲炉裏の前に腰を下ろすと、祖母は湯を注ぎながらゆっくりと語り始めた。


「……“戦星士せんせいし”という存在を、ご存じでしょうか」


 ヨルは湯気を見つめたまま答える。


「噂程度には」


 祖母は静かに頷いた。


「“星の啓示ほしのけいじ”を受けた者たちのことです。剣や魔術を超える力を宿す存在……ですがね」


 祖母は視線を落とす。


「その力が振るわれたあとに残るのは、私たちのような者ばかりです」


 トゥーラが小さくうつむいた。


 この村を襲ったのは、星の啓示を受けた巨人族の戦星士。

 オーガを従え、自らを“選ばれし者”と称し、村を踏み荒らしたという。


「あの人……言ってたの」


 トゥーラは震える声で続ける。


「『生き残った人だけが、星に選ばれる価値がある』って……でも…」


 祖母は静かに首を振った。


「トゥーラの両親はその際…。…今はその戦禍から逃げて来た様々な種族達が身を寄せ合ってここで暮らしているのです。」


 続けて老エルフは語る。


「王国の戦星士が駆けつけ、戦星士同士の戦い。“星戦せいせん”は起きました。けれど……決着はつかなかったのです」


 ヨルはゆっくりと顔を上げる。


「まだ続いている?」


 祖母は重く頷いた。


「この村から北へ半日ほど。森の奥で、もう何日も争いが続いております。力と力がぶつかり合い、終わりが見えないまま……」


 村に集まった人々は、戦いから逃れた者たちだった。

 星に選ばれなかった者たちだけで、寄り添い生きている。


 その時――


 戸口の外から、軽やかな足音が近づいた。

 弓弦がかすかに鳴り、衣擦れの音が風に混じる。


「……あれ? ここは――」


 澄んだ声が、囲炉裏の煙の中に落ちた。


 戸口に立っていたのは、一人の女。


 白を基調とした長衣に淡い光を帯びた外套。背には細身の弓、腰には矢筒。金色の髪は後ろで緩やかに束ねられ、細い編み紐が絡んでいる。


 ただの旅人ではない気配――

 場の空気が一瞬だけ揺れた。


 ヨルは小さく息を吐く。


「……はぁ……ラジエル」


 名を呼ばれた女は、ぱっと顔を上げて笑った。


「やっと見つけたわ、ヨル!

 星の気配を追っていたら、森の奥へ入り込んでしまってね」


 軽やかな口調。

 だが、どこか気品がある。


 祖母もトゥーラも、言葉を失ったまま弓を見つめていた。そこに宿る光が、ただの武器ではないと本能で感じたからだ。


 ラジエルは家の中をぐるりと見渡す。

 寄せ集めの寝具、煤けた梁、疲れ切った人々。


 笑みがふっと静まった。


「……ここも、“星戦の余波”か」


 その一言で、トゥーラは確信した。


 この人たちは、戦いの“外側”を知っている。


 そして――ヨルを見る。


 彼は誰の正義も叫ばない。

 誰にも怯えない。

 誰にも従わない。


 ただ、現実を見ている。


 トゥーラは小さく呟いた。


「……ヨルさんなら……」


 ヨルが視線を向ける。


「…何がだい?」


 トゥーラは両手をぎゅっと握りしめた。


「この戦争を……終わらせられるかもしれないって……思ったの」


 ヨルはすぐに答えなかった。


 静かな沈黙が落ちる。


 やがて、彼は静かに言った。


「僕は、どちらの味方にもならない。巨人族でも、王国軍でもない」


 拒絶ではない。

 それは、裁定者としての立場だった。


「でも――


 願いがあるなら、聞くよ」


 トゥーラは震える声で言う。


「……もう、だれも死んでほしくない。お父さんやお母さんみたいに……だれも……」


 涙がこぼれ落ちる。



「おねがい……終わらせて、ヨルさん……」


 ヨルは目を閉じ、深く息を吸った。


 そして静かに頷く。


「……君は優しい子だ。分かった」


 彼は立ち上がった。星戦の余波は悲しき悲劇を残す。

 そう彼女のように。


「ラジエル、アザゼル。行こう。星戦を終わらせに」


 ラジエルは肩をすくめ、明るく笑った。


「迷った甲斐があったわね。道中にそれらしい場所を目にした」


 ヨルの背後で、アザゼルが静かに頭を垂れた。


「御意」


 トゥーラは震えながらも、決意を込めて言った。


「わ、わたしも……いく……」


 その言葉に、アザゼルは彼女の心情、決意を感じ取り、深く一礼する。


「トゥーラ殿の身――我が命に変えましても御守りいたします。」


 ヨルは静かに頷いた。


「アザゼル、頼んだよ」


 星戦は、まだ終わっていない。


 だからこそ――

 この役目はーー

次回はいよいよ巨人種の戦星士が登場です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ