表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もういちど、あなたのそばに

作者: fmn

段ボールの中は、すこし寒かった。

前の人生を終えてから、ずいぶん長い時間を待った気がする。

今度の生は、猫のようだ。


---


あなたが私を見つけたとき。

「ああ、おまえもひとりか」

そう言って、しゃがみこんで私を掌に乗せた。


あなたは変わっていなかった。

すこし背中が丸くなって、髪に白いものが増えただけ。

でも、私を包み込む掌のあたたかさは、あの頃のままだった。


私はニャアと鳴いた。

猫の声で、あなたの名を呼んだ。

気づくわけないのにね。


---


あなたは、よく私に話しかけた。

「昔な、妻がいてな」

「料理上手ってわけじゃなかったけど、あの煮物はうまかったな」

「表情がくるくる変わって飽きなかったな」


……それ、私。

そう思うたび、尻尾が勝手に揺れた。


私はあなたの膝の上で、目を細めて聞いていた。

ちょっと照れくさかった。

そんなふうに憶えていてくれたのね。

私はもっと口うるさい妻だと思っていたから。


でもね。

あなたの声が優しくなるたび、私はもういちど、あなたの妻になれている気がしたのよ。


---


猫の時間は、短い。

昼寝と、日向と、あなたの足音でできている。


あなたは、私を溺愛した。

名前を呼び、背中を撫で、「おまえの瞳は、まるくてキラキラしてかわいいな」と言った。

知ってる。

まえから、知ってる。


夜、あなたは眠る前に呟く。

「もういちど逢えたらな」

そのたび、私はあなたの布団の上で喉を鳴らした。


ここにいるよ。

ちゃんと、あなたに逢いに戻ってきたよ。


---


私は、猫の寿命を生きた。

身体が重くなって、日向がすこし遠くなった。


あなたはすぐに気づいた。

気づいて、何も言わず、ただ私を抱いていた。

「また、先に逝くんだな」

その声は笑っていたけど、すこし震えていた。


私は最期に、あなたの顔を見た。

まえよりもずっと老いて、

それでも、世界で一番、愛しい人。


「すぐ追いかけるからな。もう、俺の時間も、そんなに残っていない」


だめ。

それはだめ。


でも、私は猫だから、ただニャアと鳴くことしかできなかった。

私が目を閉じたとき、あなたの指先に、午後の光がおだやかに跳ねていた。


---


だから、ここであなたを待つことにした。

虹の橋のたもと。

あたたかくて、風が優しくて、あなたの足音が、まだ聞こえない場所。


私は知ってる。

あなたは、必ず来る。

それまで、ここで、あなたとの思い出を反芻する。


妻として。

猫として。

何度、生まれ変わっても。


私は、あなたを愛してる。

あなたも、きっと同じ。


だから、焦らなくてもいいよ。

今度こそ、一緒に、ちゃんと歳を重ねよう。


私は、ここで待ってる。

今回のお題が「ねこ目線」「ねこと人間」

目標が「恋愛要素」


恋愛要素がなんとも苦手で……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ