もういちど、あなたのそばに
段ボールの中は、すこし寒かった。
前の人生を終えてから、ずいぶん長い時間を待った気がする。
今度の生は、猫のようだ。
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あなたが私を見つけたとき。
「ああ、おまえもひとりか」
そう言って、しゃがみこんで私を掌に乗せた。
あなたは変わっていなかった。
すこし背中が丸くなって、髪に白いものが増えただけ。
でも、私を包み込む掌のあたたかさは、あの頃のままだった。
私はニャアと鳴いた。
猫の声で、あなたの名を呼んだ。
気づくわけないのにね。
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あなたは、よく私に話しかけた。
「昔な、妻がいてな」
「料理上手ってわけじゃなかったけど、あの煮物はうまかったな」
「表情がくるくる変わって飽きなかったな」
……それ、私。
そう思うたび、尻尾が勝手に揺れた。
私はあなたの膝の上で、目を細めて聞いていた。
ちょっと照れくさかった。
そんなふうに憶えていてくれたのね。
私はもっと口うるさい妻だと思っていたから。
でもね。
あなたの声が優しくなるたび、私はもういちど、あなたの妻になれている気がしたのよ。
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猫の時間は、短い。
昼寝と、日向と、あなたの足音でできている。
あなたは、私を溺愛した。
名前を呼び、背中を撫で、「おまえの瞳は、まるくてキラキラしてかわいいな」と言った。
知ってる。
まえから、知ってる。
夜、あなたは眠る前に呟く。
「もういちど逢えたらな」
そのたび、私はあなたの布団の上で喉を鳴らした。
ここにいるよ。
ちゃんと、あなたに逢いに戻ってきたよ。
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私は、猫の寿命を生きた。
身体が重くなって、日向がすこし遠くなった。
あなたはすぐに気づいた。
気づいて、何も言わず、ただ私を抱いていた。
「また、先に逝くんだな」
その声は笑っていたけど、すこし震えていた。
私は最期に、あなたの顔を見た。
まえよりもずっと老いて、
それでも、世界で一番、愛しい人。
「すぐ追いかけるからな。もう、俺の時間も、そんなに残っていない」
だめ。
それはだめ。
でも、私は猫だから、ただニャアと鳴くことしかできなかった。
私が目を閉じたとき、あなたの指先に、午後の光がおだやかに跳ねていた。
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だから、ここであなたを待つことにした。
虹の橋のたもと。
あたたかくて、風が優しくて、あなたの足音が、まだ聞こえない場所。
私は知ってる。
あなたは、必ず来る。
それまで、ここで、あなたとの思い出を反芻する。
妻として。
猫として。
何度、生まれ変わっても。
私は、あなたを愛してる。
あなたも、きっと同じ。
だから、焦らなくてもいいよ。
今度こそ、一緒に、ちゃんと歳を重ねよう。
私は、ここで待ってる。
今回のお題が「ねこ目線」「ねこと人間」
目標が「恋愛要素」
恋愛要素がなんとも苦手で……。




