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第7話 謎の青年の正体

私とイヴァンは猫吸いを諦め、ウサギ小屋に来ていた。まだ手入れがされていなかったので、私とイヴァンの2人でやってしまうことにした。


地面に散らばっている牧草を集め、一か所にまとめていく。イヴァンはたまにしか来ないという割には、動物の扱いにも周辺環境への対応にもすごく慣れている。きっとすごく良い人なんだろうなと、ブランディ一家と初めて話した時のことを思い出す。”動物好きに悪い人はいない”、私もそう思う!


「…ん?この牧草、キプラーとセグエインが7対3で配合されているな?前はキプラーとジェイオンが半々だったと思うんだが。」


イヴァンは私の作業を見つめ、指を差しながらそう言った。私は思わず手を止め、イヴァンの顔を見つめた。文字通り、ポカーンという表情をしてしまった。鋭い。確かに1か月前までは、牧草の種類が違ったのだ。


「あ、そうか。子ウサギが成熟したからか。ということは、こいつらもそろそろ出荷の時期か。」


私が説明するまでもなく、イヴァンは推測し正解を出していた。私はウサギを撫でるイヴァンの後ろ姿を見ながら小さく『正解です…』と答えるので精一杯だった。


_キプラー

イネ科の植物で、以前と変わらず使い続けている牧草。高繊維で低カロリーなのが特徴で、多くのウサギの飼育に使用されているポピュラー牧草の1種。


_セグエイン

現在配合しているマメ科の牧草。タンパク質が多いとされるマメ科の牧草の中では、比較的低タンパク。そこがポイントで、成熟寸前のウサギにはジェイオンだとタンパク質が多すぎるのだ。そのため、1か月前の時点で牧草をジェイオンからセグエインに変更したのだった。


_ジェイオン

1か月前まで配合していたマメ科の牧草。タンパク質が豊富で低繊維のため、子ウサギの飼育に使用されることの多い種類。成熟したウサギに与えても問題はないけど、高カロリーなため量には注意が必要。


私の表情に気が付いたのか、イヴァンが慌てて訂正を始めた。


「何だか、知識をひけらかしたみたいになってしまったな。すまない、そんなつもりはなかった。」

「いえ、説明する手間が省けました。イヴァンって本当にたまにしかここに来ないんですよね?」

「ああ、あまり穴を開けられない仕事をしているからな。」


その割には現場の人間並みの知識があるんだな、と私は1人関心をする。


「ゴミを出してくる。いつもの場所で良いな?」

「はい、裏にある大きな箱です。」

「うむ、行ってくる。」


廃棄物の入った袋を抱え、イヴァンはウサギ小屋から出ていった。彼、いつもの場所って言ったよね?本当にたまにしか来ていないんだよね?


私の疑問は増えては消えていく一方だった。


◇◇◇


「わふ!」

「あれゾロン、ずっと小屋の前で待ってたの?偉いねー!」

「へっへっへっ!」


ウサギ小屋の掃除を済ませた私とイヴァンは、猫たちの餌を用意するべく近くの小屋に行こうとしていた。ウサギ小屋から少し離れたところでゾロンは伏せて待機しており、私とイヴァンの姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。


「改めてみると、ゾロンってでかいですね。イヴァンもそれなりに背が高いと思うんですけど、ゾロンが二足立ちすると中々の迫力というか。」

「ははっ!小さい頃は、掌に収まるくらい小さかったんだけどな。いつの間にかこんなにでかくなったんだよな、ゾロン!」


イヴァンの声に答えるように、ゾロンは大きく返事をした。



「…あ、やっぱり。」

「アメリアとイヴァン王子!」


声のする方を見てみると、学校から帰ってきたらしいウィルマとコレッタがこちらに駆け寄ってきた。ん?王子?


「ウィルマとコレッタ、久しぶりだな!元気に良い子にしていたか?」

「うん!ちゃんとおとーちゃんとおかーちゃんの言いつけ守ってた!」

「嘘、コレッタは宿題やらずにお母さんに怒られてた。」


イヴァンは片腕ずつにウィルマとコレッタを乗せ、2人同時に持ち上げる。私はその姿を見て、思わず感嘆の声をあげながら拍手をした。


「わあ、すごい!やっぱりイヴァンって力持ちなんですね!」

「これくらい造作もない!後でお前も持ち上げてやるぞ?」

「遠慮します。」


平坦な口調で返す私に対し、イヴァンはわははと大きく笑う。


「イヴァン王子、なんで今日は来たの?」

「いつもと同じ、休暇だ。あと、ブランディ牧場の新人の様子を見てみたくてな。」

「アメリアは良い人だよ!えっとね、アメリアの前の職場の人は悪い人だって!」



イヴァンは双子をゆっくり下ろし、2人の視線に合わせるために小さくしゃがんだ。


「ところで、王子っていうのは?イヴァンのあだ名?」


私の質問にウィルマとコレッタは首を傾げ、イヴァンは大きく吹き出した。私は訳が分からず、3人の顔を交互に見る。


「王子は王子だよ。イヴァンは王子なの。」

「ああそうか、アメリアはキルベキア人だもんね!知らないのも当然かも!」


私の額から、滝のように汗が出てくる。

そんなことある?だって、イヴァンはこの牧場の先代の親戚で、たまに来てお手伝いをしている私と年齢の近い青年で、え?


私は恐る恐る、イヴァンの顔を見る。イヴァンは双子に『しーっ!』と言うと、ゆっくりと立ち上がり、澄んだ空のような彼の綺麗な青い瞳が私の両目を捉える。


「父から話は聞きました。キルベキア王国の聖獣使いの追放と婚約破棄について。大変でしたね、我々は貴女をこの国の国民として歓迎します。」



「改めまして、俺はイヴァン・ラルヴァクナ。現国王ジェラルド・ラルヴァクナの息子で、継承権第二位の王子です。」



イヴァンが、いや、イヴァン王子が改めて自己紹介をする。

私は滝汗と足の震えが止まらず、目が点になったまま彼の顔を見つめた。

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