第70話 講習の担当者
「あまり舐めた口聞いてるとしめるぞコラッ。俺のバックにはなぁ、あの大黒天で特攻隊長を務めた大黒がついてるんだからな!」
ドレッド男が偉そうにそんなことをいい出した。しかし唐突にそんなことを言われても、そもそも大黒天が何かわからないが。
「いや、誰だよ。大黒天からして知らないし」
「グルルゥウゥウウ!」
「ピギィ!」
「マァッ! マッ!」
俺の言葉に合わせるように三匹が唸り声を上げた。どうやら敵と認識したらしい。これまでのやり取りを考えればそれもそうか。
「チッ、チビのクセに生意気なモンスターだ」
言動がいちいちイラッとくる男だな。皆は確かに小さいが頼りがいのある大事な仲間だというのに。
「いいか! 大黒天はかつてこのあたりでブイブイ言わせていた族でな。その中の大黒と言えばその名を聞くだけで相手を震え上がらせていた、そういう人なんだよ」
割と詳しく説明してくれたな。しかし話の流れで予想はついたがやはりそういうグループだったか。だけど大黒――聞き覚えがあるなと思ったが、そうだあの公園でイチャモンを付けてきた女だ。
そういえば鬼姫が大黒もヤンチャしていたって言っていたっけ。まぁ鬼姫がボコボコにしたっていう話でもあったけど。
「なぁあんた。鬼姫って名前はしってるか?」
「な! テメェどこでその名を!」
あ、やっぱり知ってたんだ。ちょっとビビっているようだし、どうやらこのドレッド男みたいな連中の中では有名なようだな。
「冒険者としても鬼姫は有名だろう? だけど彼女はお前みたいにやたら噛みつくような真似はしないと思うけどな。お前も少しは見習ったらどうだい?」
諭すように伝えてやる。ドレッド男が苦虫を噛み潰したかのような表情になった。
「テメッ……」
「一体何を騒いでいるのかしら?」
ドレッド男とのやり取りの最中、教室に凛とした声が響いた。見ると教室に入ってきた女性の姿。恐らく今回の講習で担当してくれる人なのだろうけど、俺はその女性に見覚えがあった。
「香川さん――」
そう香川さんだった。まさか講習に来るのが彼女だったとは。そういえば昨日ホームセンターで、別れ際「またね」と言っていたけどこういうことか。
「そこの君、早く席につきなさい。講習を始めますよ」
「テメェ、覚えておけよ」
香川に言われたドレッド男は、俺にそんなことを言い残し席についた。やれやれ変な男に目をつけられたものだな。
しかし大黒の名を口にしていたけど、今は子どももいるし、正直モンスターペアレント気質なのは間違いないだろうが、バックとして語るほどの存在じゃない気がするんだがな。
「ワン……」
「ピキィ~……」
「マァ~……」
モコ、ラム、マールが心配そうに細い声で鳴いていた。そんな三匹の頭を撫でつつ大丈夫だよと返す。
何か最近色々あってあの手のに絡まれてばかりだったからな。何だか随分と耐性がついてきた気がする。
「改めて、私は今回貴方達の指導官を務める香川 香です。この講習を通じて貴方たちの適性をチェックすると同時に冒険者としての心構えをお伝え出来ればと思いますので宜しくお願いします」
全員を見渡しながら香川が言った。なるほど流石講習だけあって色々と確認されるようだな。何はともあれいよいよ講習が始まるようだが――




