第6話 公園の鬼姫
「あの、ありがとうございました」
「ん? 別にいいってことさ。ついでにやっただけだしね」
礼を言うと、鬼姫は肩をすくめて笑った。――ついで、とは?
「ママぁ! かっこよかったよ!」
「おお、そうかいそうかい」
金髪の女の脚に、幼い女の子が抱きつく。なるほど、彼女も娘を見に来ていただけらしい。俺と大黒のやり取りを目撃し、助け舟を出してくれたのだ。
「それにしても、あの大黒さんは随分パワフルでしたが……どうしてあそこまで強気に出られたんです?」
言葉を選びつつ尋ねる。どうにも弱みでも握っているような雰囲気だった。
「あぁ、あたしは昔ヤンチャしててね。アイツも同類で、当時あたしにケンカ売ってきたからボコボコにしたことがあるんだよ。それ以来、頭が上がらないってわけさ」
「な、なるほど……」
確かにそんなオーラを纏っている気配はあった。
「ママはね、すっごく強いんだよ! 冒険者で、Bランクなんだから!」
「もう、桜ったら――」
娘――桜の言葉で、鬼姫が冒険者だと知る。しかもBランク。確かにすごい。
「桜ちゃんって言うんだね。可愛い名前だ」
「ありがとう。この子はあたしの宝物さ。あんたのモンスターも可愛いじゃないか。大事にしなよ」
「ありがとう。そう言ってもらえてモコも喜んでる」
「ワン♪」
両手を上げ、尻尾を振るモコ――確かに可愛い。
「こんなに可愛いのに、さっきのおばさんはなんで怒ってたのかなぁ?」
桜が小首をかしげる。大黒のことで間違いない。
「モンスターも随分受け入れられてきたけどね、それでも偏見を持つ連中は多いってことさ」
「へんけん?」
「あぁ。偏見っていうのは――」
鬼姫が子どもにも分かるように説明する。その横顔を見ながら、俺も考えさせられた。モコは可愛いが、モンスターというだけで嫌悪感を示す人は今後も現れるだろう。
「さて、そろそろ行こうか」
「ワン」
「え~もう行っちゃうの?」
「もっと遊びたかった~」
名残惜しむ子どもたちに、俺は微笑む。
「また今度、モコと遊んでやってくれると嬉しいな」
「うん! モコ、また遊ぼうね!」
「ワウ!」
桜がモコの頭を撫でると、モコも嬉しそうに尻尾を振った。
「そういえば、あんたも冒険者なんだろ? ランクはいくつだい?」
子どもたちへ挨拶を終えたところで鬼姫に問われ、内心焦る。俺は冒険者ですらない。
「まだ下のほうで……大して活動もしてなくてね」
曖昧にごまかすしかない。
「そうかい。あたしは鬼姫 輝夜って名前で活動してる。何かあったら頼ってくれていいからね」
「あ、ありがとう。俺は風間 晴彦で、こっちはモコ。助けがいるときは頼らせてもらうよ」
そう言って、俺はモコと共に公園を後にした。――名前まで名乗ってしまったが、彼女なら信用しても大丈夫だろう。まずはホームセンターへ急がねば。
◇◆◇
「さて、着いたか」
「ワウゥ」
ホームセンターに到着した頃には、モコは少し息を切らしていた。公園でのはしゃぎ過ぎが響いたらしい。
「大丈夫か? とりあえず水でも飲むか?」
「ク~ン……」
ペットボトルの水を差し出すと、モコは子どものように両手で抱えてゴクゴク飲む。その姿がまた可愛い。
水を飲み終えた瞬間――
「ワウ!」
「ん? どうした?」
モコが突然走り出し、店内へ。慌てて追いかけると、陳列棚の前で目を輝かせていた。
「これが気になるのか? それはネイルガン。トリガーを引くと釘が打てる道具だ。釘っていうのはな……」
興味津々のモコに簡単な説明をする。モコは本当に好奇心旺盛だなぁ。
でもネイルガンか。さっきの大黒みたいに敵意を向けて来る相手もいるかもだし、今後の事を考えたら護身用に何か考えておいてもいいかもな。
そう考え、護身用の道具にも目星を付けつつ、俺たちは店内を物色した。
「可愛らしいモンスターですね。使い魔ですか?」
女性店員に声を掛けられ、思わず笑って頷く。
「ええ、そうなんです。名前はモコ。少し特殊ですが、良い子なんで可愛がってあげてください」
「ええ、撫でてもいいですか?」
「モコ、どうだ?」
「ワン♪」
店員が撫でると、モコはとろけそうな顔で尻尾を振る。俺も穏やかな気持ちで見守っていた――そのとき、ものすごい勢いの気配がこちらへ迫って来た。