第4話 ダンジョンで一緒に過ごす仲間ができたぞ
食事を終え、器を洗おうと一旦外へ出ると、子コボルトもトコトコあとを付いてきた。外に出ても大丈夫かと少し不安になったが――
「ワウ?」
小首を傾げる仕草が可愛らしい。川の水で器を洗うあいだも、子コボルトは器を抱えたり水をくんだりと、小さな手で甲斐甲斐しく手伝ってくれた。
拠点へ戻るころには、すっかり上機嫌で俺の隣にちょこんと座っている。どうやら完全に懐かれたらしい。
「なぁ、良かったらしばらく一緒に過ごすかい?」
「ワウッ!」
尻尾を千切れんばかりに振りながら、小さくジャンプ一回転。瞳がキラキラと輝き、俺のブーツに前足をそっと乗せてくる。返事は十分だ。
「そういえば、名前はあるのか?」
「ワウ?」
――首をかしげる。呼び名は決まっていないらしい。
「それじゃ、俺が付けてもいいかな?」
「ワウ♪」
期待に満ちた目で見上げる熱視線に少し照れつつ――
「毛並みがふわふわだから……モコってどうだ?」
「ワウ! ワウワウワウッ!」
耳をピーンと立て、尻尾をプロペラみたいに回しながらくるくる跳ね回る。その勢いで俺の膝に飛び乗ると、両前足で「ありがとう!」と言わんばかりに胸をトントン。無邪気な喜びが全身からあふれていて、思わず笑みがこぼれた。
「気に入ってくれたみたいだな。これからよろしく、モコ」
「ワフッ♪」
モコは満面の笑みで俺の頬をぺろり。ついでに尻尾でも頬をくすぐってくる――なんというサービス精神。
こうして俺の放置ダンジョン生活に、一匹の愛らしい仲間が加わった。
「ふぅ……撫で心地、最高だなモコは」
「ワウ♪」
焚き火の前、膝の上で丸くなるモコをゆっくり撫でる。茶色い毛は柔らかく、指先が沈むたびに体温がじんわり伝わってくる。モコも鼻先をすり寄せ喉を鳴らす――まさしくウィン・ウィンの関係!
片手にはコーヒー、もう片手には読みかけの文庫本。火起こし器のおかげで焚き火は安定し、パチパチという音が心地よい。
さて、明日からどうするか。俺には一つ計画がある――が、そのためには道具をそろえなければならない。タブレットを取り出し、モバイルWi-Fiで周辺マップを開く。
するとモコがむくりと起き上がり、興味津々で画面を覗き込んできた。
「モコは好奇心旺盛だな」
「ワウ!」
くりくりした目を輝かせ、尻尾をブンブン。操作方法をジェスチャーで見せると、前足でちょんとタップして真似してくる――可愛い。
「このあたりで一番近いのは、このホームセンターか。少し歩くけど、明日の朝から行ってみるか」
「ワウ♪」
“出かける”と聞いた瞬間、モコは全身を小刻みに震わせ、尻尾を高速で振った。
「もしかして一緒に来たいのか?」
俺の問いかけに、上目づかいでこちらを見上げ――
「クゥ~ン……」
“置いて行かれるの?”とでも言いたげな、しょんぼりした瞳。そんな顔をされたら「ダメ」とは言えない。
もっとも――モンスターを連れ歩く方法がなければ困る。そこで俺は以前見た記事を思い出し検索ワードを打ち込んだ。
──『冒険者とジョブストーン』。
ダンジョンで見つかる輝石【ジョブストーン】は、特殊素材の腕輪などに嵌めることで“ジョブ”を付与してくれる。冒険者はこのジョブストーンを身につけてステータスを強化し、固有スキルを扱ってダンジョンを攻略するわけだ。
中には【モンスター使い】や【召喚士】といった職もあり、モンスターを友好的に従わせる力を持つ。
都市部ではペット感覚でモンスターを飼う人も増え、テイマー向け装備や動画配信まで人気になっている――そんな記事と動画がずらりと検索結果に並んだ。
「なるほど。テイム済みのモンスターなら街へ連れて行っても問題ないのか」
しかも目当てのホームセンターは “ペット・テイムモンスター同伴可” とある。モコのサイズなら入店もOKらしい。
「良かったな、モコ。一緒に行けそうだぞ」
「ワウッ!」
モコは喜びをこぼすように俺の胸に飛びつき、ふわふわの尻尾で腕をぱたぱた叩く。耳までぴょこんと跳ね、嬉しさが全方向に漏れ出ている。
「じゃあ明日は早起きして出発だ。必要な道具をそろえて、もっと快適なダンジョン暮らしにしようぜ!」
「ワフッ♪」
モコは高らかに一声鳴き、焚き火の橙にきらりと瞳を輝かせた。