第47話 敵対する冒険者
「冒険者がこんな真似して許されると思うのか? ギルドに知られたら、タダじゃ済まないぞ」
「ハハッ、何をいうかと思えば、俺らはダンジョンに来て探索していただけだ。なんの問題もないだろう?」
俺の言葉も全く通じず鼻で笑われてしまった。こいつらには何を言っても無駄かもしれない。
「何が探索よ! ダンジョンを荒らして好き勝手してるだけじゃない!」
「ワンワン!」
「ピキィ~!」
秋月が眉を尖らせて叫んだ。モコもラムも同じように声に怒りを滲ませていた。
「ヨッと。全く乱暴な嬢ちゃんだぜ」
すると金髪の男が跳ねるように起き上がりヘラヘラと笑ってみせた。こいつ秋月に投げられても平気なのか?
「お前もこんな連中になめられてんじゃねぇよ」
「ワリィワリィちょっと油断したわ。ま、そういうわけだから僕ちゃん、ちょっとだけ本気出しちゃうね」
そう言って金髪男がナイフを取り出してチラつかせた。秋月の表情が強張る。
「お前ら武器まで取り出すなんて洒落にならないぞ」
「そんなことはないだろう。随分とちいせぇがモンスターが彷徨いてんだ。冒険者としては放っておけないぜ」
そう来たか。あくまで冒険者として活動していると言い張りたいんだな。
「そんな言い訳は無駄だ。モコもラムも俺が使役しているモンスターだからな。ギルドにも登録してある」
「あん? この弱っちそうなのを使役してるだって? ハハッ、なるほど。お前も腕輪してるからそんな気はしてたが同業者ってことか」
「……お前らみたいなのと一緒にしないでくれ」
俺は思わず言い返していた。こんな連中と同じにされてたまるか。
「……へぇ。言うじゃねぇか。ま、いいかテメェも冒険者なら話が早い」
言うが早いかタトゥーの男が瞬時に距離を詰めてきた。こいつも動きが速い!
「腕っぷしの強い方が正しい。そういうことだろうが!」
「ゴボッ!」
男の拳が俺の鳩尾にめり込んだ。情けない声が自然と出て膝が折れてしまう。
「何だお前。弱すぎるだろう。いや、俺が強すぎるのかぁ?」
「ワォォオォォォオオオン!」
モコの遠吠えが聞こえた。かと思えばモコがタトゥーの男目掛けて飛び蹴りをお見舞いしていた。
「こいつ!」
男が腕でガード。そのまま反撃するもモコも躱し地面に着地し、かと思えばバク宙しながら蹴りを叩き込んでいた。
「グッ!」
タトゥーの男が怯んだ。モコの動きがいい。今日道場で鍛えられたことが反映されてるのかもしれない。
「おいおい近藤よ、それでも格闘家のジョブ持ちかよ」
「チッ、ちょっと油断しただけだ」
男が顎を擦りながら答えた。近藤――それがタトゥーの男の名字か。
「お前も油断すんなよ金沢」
「わかってる、よ!」
「キャッ!」
金髪の方は金沢というらしい。その金沢がナイフをもう一本取り出して投げつけた。秋月の悲鳴が聞こえる。
「秋月!」
「だ、大丈夫だよ掠っただけだから」
見ると秋月の頬に傷がついて血も出ていた。こいつ女の子の顔を――
「キャッ、だってさ。可愛いねぇ。でもおいたはいけないねぇ。今僕ちゃんに反撃しようとしていたでしょう? 気配でわかるのよ。僕ちゃん盗賊のジョブ持ちだからね」
ヘラヘラと笑いながらそんなことを口にする金沢。盗賊――そんなジョブもあるのか。確かにゲームとかではよく見るジョブだけど……。
「ピキィ~!」
その時、ラムの声が響き渡り、かと思えばラムが飛ばした水弾が金沢の目に命中した。
「くそ! 目がぁあああ!」
「ナイスだよラムちゃん!」
金沢が怯んだ暇に秋月が飛びかかった。
「ワォォオン!」
「チッ、ちょこまかとうざってぇ」
一方でモコも近藤相手に果敢に戦っている。皆一生懸命戦っているのに俺だけ情けない。そもそもこの中で俺だけがジョブを持っているというのに一番頼りなくてどうする。
俺も戦いに、そして俺は畑の側におかれていた鍬に気がついた。あれを使えば俺も戦えるかもしれない、いや戦うんだ!
そう誓い、俺は立ち上がり鍬に手を伸ばした――