第41話 それぞれにあった武器
先ずはどの武器から試すべきか――楓師範が畳に並べた品々を見ながら、俺は考えを巡らせた。
単純に想像すると鎌は扱いやすそうだ。鎖鎌という有名な武器もあるし、鎌使いはどこか格好いい。
だが“最初に握る一本”として、しっくり来るのは――。
「これかな」
「え? 鍬?」
俺が手を伸ばした柄の長い鍬を見て、秋月が目を丸くする。確かに、あえて鍬を選ぶ冒険者は珍しいだろう。
「悪い選択じゃないぞ」
言って楓師範がうなずく。どこか感心したような顔つきにも思えた。
「鍬術という分野もあるし、構えは棒術に近い。柄のリーチを活かせば、少ない力でも強力な打撃になる。山守流にも農具を転用した型が伝わっている」
そう励まされ、俺は鍬を構えた。畑を耕す要領で握り、腰を落とすと確かに自然な重心だ。柄を返して振り下ろし、刃床部を突きに転じる――反復するだけで、身体の奥から力が涌く気がした。
「ワン!」
「おっ、モコも何か試したいのか」
「ワンワン!」
師範に向けて意欲を示したモコは、壁に掛かった三節棍を指差す。
「大人用は大きいな。少し待て」
師範が奥からキッズサイズを持ち出してくれた。
「これなら扱えるだろう」
「ワン!」
モコは嬉しそうに三節棍を構える。だが初めての振り返しで、勢い余って自分の後頭部にゴツン!
「モコ、大丈夫か!」
「ワン……」
モコが涙目で俺にしがみつくが、すぐに気を取り直し――
「ワン!」
元気よく吠え師範の前へ戻った。
「その根性は上等だ。まずは鎖の長さを殺さず、肩の延長で回す感覚を覚えろ」
師範の的確な指示に、モコも真剣だ。
「ピキィ~?」
「ラムちゃんも挑戦したい?」
「ピキィ!」
ラムには秋月と紅葉が付き添い、小太刀ほどの木刀を選んだ。身体をぷるんと伸ばし、得意げに突きを繰り出す姿が何とも愛らしい。
俺は再び鍬を握る。土を耕すイメージで振り下ろし、返して突く。月見さんがそっと声をかけた。
「鍬を振るうなら“土の重み”を掌で感じて。父もよく『自然の流れに身を任せよ』と言っておりましたわ」
落葉翁の言葉――確かに、あの人らしい。俺は鍬を構え直し、畳の下に広がる大地を意識してもう一度振る。
その頃モコは三節棍を滑らかに回転させ、ラムは木刀で華麗に足払いの真似。道場には柔らかな夕光が差し込み、乾いた音が心地よく響いた。
こうして俺たちは、それぞれに“今の自分に合った武器”を手にし、汗を流し続けた――どれが本当に自分の戦い方になるのか、確信を得るのはまだ先だが。