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第40話 秋月の実力

 楓師範に導かれ、俺たちは再び畳の中央へ。秋月は軽く息を整えたあと、真っ直ぐ父親を見据えた。


「ねぇ、お父さん。今度は私とやろうよ」


 挑発ではなく、純粋な挑戦。楓師範の口元がぐっと吊り上がる。


「たまには良いだろう。来い、秋月!」


 向かい合った父娘の体格差は歴然だが、秋月の眼には揺らぎがない。紅葉が手を叩き、モコとラムも「ワンワン!」「ピキィ~♪」と声援を送る。


 構え合う二人の気迫に、空気が澄んでいく。


「体格差がすごい……」

「ふふ、見ていてください。あの子は小柄でも、芯は折れませんよ」


 月見さんが涼やかに囁いた直後、裂帛の気合。


「はぁッ!」

「むんッ!」


 組み手へ移行するかと思いきや、秋月が一気に踏み込み、跳躍からの高速回し蹴り。袴が弧を描き、帯がひらりと舞った。


 だが楓師範は両腕で受け止める。轟く衝突音――。


「軽い!」


 父の太い声が響く。が、その瞬間、秋月の身体が鞭のようにしなり、蹴り脚を支点に背後へ回り込む。不意を突かれた楓師範の首へ、素早く前腕が回った。


「なっ……!」


 背負われた巨体が揺れる。小柄な秋月が、全身の重心を巧みに使い絞め上げたのだ。観ているこちらも息を飲む。


「回し蹴りはフェイントといったところかしら。危険だけれど、見事な連携ね」


 月見さんが面白そうに目を細めている。確かに、この技は軽量の身体を活かした切り札だろう。


「……だが!」


 楓師範が雄牛のように咆哮し、腕をつかんで強引に引き剥がす。そのまま大上段からの払い腰――。


「フンッ!」


 秋月の背中が畳に沈んだ。衝撃で空気が揺らぐ。けれど当の本人は涼しい顔で受け身を取り、すぐに膝を立てて起き上がる。


「決着だな。だが良い手だった」

「はぁ……もう一歩だったのに」


 悔しげに息を吐く秋月だが、顔は晴れやかだ。


「お姉ちゃん、すごかった~!」

「ワンワン!」

「ピキュ~♪」


 紅葉とモコ、ラムが駆け寄り、秋月は軽く汗を拭って笑った。その姿に、楓師範も豪快に頷く。


「娘の受け身は完璧だ。昔、崖から転落しても無傷だったくらいでな!」


 いや、それは尋常じゃない。


「もしかして俺より冒険者向きなんじゃ……」

「え? そ、そうかな?」


 感心してつぶやくと、楓師範が両手を大きく振った。


「冒険者など危険すぎる! 大切な娘をお前らのような無茶な世界に出すわけにはいかん!」


 場がしんと静まる。だが次の瞬間、楓師範は俺に視線を戻し、顎に手を当てた。


「だが、お前は冒険者の道を行くのだったな。ジョブは何だ?」

「農民です。戦闘向きでは――」

「いや、農民でも十分戦える。武器さえ選べばな」


 楓師範は壁際へ歩み、農具をいくつか抱えて戻ってきた。手のひらサイズの小鎌、柄の長い大鎌、そして頑丈そうな鍬。いずれも丁寧に研がれ、刃が青く鈍く光っている。


「農民にとっては日常の道具だが、鍛練次第で立派な武器になる。まずは、この三つを握ってみろ」


 順番に柄を取ってみる。大鎌は振り応えがあるが、重量と遠心力を制御できるか不安だ。小鎌は軽快だが、リーチの短さを技で補う必要がある。そして鍬――見た目以上に重量はあるが、両手で支点を取れば深く打ち込める手応えがありそうだ。


――さて、俺にいちばん合うのは……どれだ?

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