第33話 内密にな
「その――」
「言っておくが、俺は嘘が嫌いだ。そこのところ、よく考えて答えろよ」
どう言えば怪しまれずに済むか――と逡巡していたが、小澤マスターには浅はかな考えを見透かされていた。下手なごまかしは通用しない、と悟る。
もう真実を話すしかない。
「実は俺は会社を首になって――」
モコやラムと出会った経緯を正直に語った。放置ダンジョンで二匹に救われたこと、彼らが心の穴を埋めてくれたこと。テイムこそしていないが、モコもラムも人に迷惑を掛けたことは一度もない――すべてを話し終える。
「――以上です。この話に嘘偽りはありません」
「ふむ。確かに嘘は感じない。だが許可なくモンスターと暮らしていたのは問題だ」
「だったら俺はどんな罰でも受けます。だからモコとラムだけは助けてください!」
思わず叫ぶ俺に、モコとラムが縋りつく。
「今のをまとめると、自分がどうなっても二匹を守りたい、と」
「はい」
「……なるほど、なるほど。モンスターの代わりに自分が罰を受けるか――」
「そ、そんな。なんとかなりませんか!」
「ワンワン!」
「ピキィ~!」
秋月が小澤マスターへ訴え、モコとラムも必死にアピール。そんな様子に小澤マスターは腕を組み、突然腹の底から笑いだした。
「ガハッ、あははは! これは愉快だ!」
そして二匹の頭を豪快に撫でる。
「安心しろ。こんな可愛いモンスターが悲しむ展開、俺の美学が許さん。風間、今回の件は俺の権限で“不問”とする。ただし――内密にな」
「へ?」
小澤マスターが口に人差し指を当てながら、意外なセリフを吐いた。不問ということは、俺はこれからもモコやラムといっしょにいられるということ――
「わかってるな、天野川?」
「……マスターのことだから、そう言うと思っていた。私は何も聞いていない」
天野川は静かに目を閉じる。
「よ、よかったですね風間さん!」
「あぁ……でも、本当に大丈夫なんですか?」
「被害がない以上、誰も訴えん。こちらも動く理由がない。それにな――」
小澤マスターが俺の肩を軽く叩き、笑う。
「可愛いモンスターを庇う心意気、気に入った!」
胸が熱くなる。ギルドマスターがこの人で本当によかった。
「とはいえ手順が狂ったのも事実だ。状況を説明しておけ」
「はい!」
香川への提出内容を説明すると、小澤は親指を立てた。
「お前たちも心配いらんぞ」
「ワン♪」
「ピキィ~♪」
抱き上げられたモコとラムが嬉しそうに鳴く。
「モコちゃんもラムちゃんも良かった!」
そう言って秋月が微笑む。
「天野川さんも、ありがとう」
「……私は何もしていない。マスターの判断」
クールな返答だが、協力してくれたことに感謝する。
その時、部屋の電話が鳴り小澤が出る。
『あぁ、こっちに来ているぞ。興味深い相手だったから話をしていたんだ。当然だ! こんな可愛らしいモンスターを見て放って置けるか! うん? わかったわかった。すぐに向かわせるからそうカリカリするな』
受話器を置き、困ったように頭を掻く。
「担当は香川か。あいつは頭が固い。長く席を外したと怒っている。すぐ戻って手続きを続けてくれ。まあ問題はないだろうが、上手くやれ」
「分かりました。失礼します!」
俺たちは礼を述べて部屋を後にする。
「私は報告があるからここでお別れ」
「色々ありがとうな、天野川さん」
「何かあれば冒険者アプリで連絡を。名前は教えてある」
彼女に手を振り、廊下を戻る。
「さて、行くか」
「ワン!」
「ピキィ!」
「…………」
モコとラムは元気だが、秋月が無言で天野川の去った方を見ている。
「大丈夫か?」
「あ、はい。その……改めて綺麗な人だなって」
苦笑してうなずく秋月。
「まあな。でも山守も可愛いと思うぞ」
「へっ!?」
「あ、いや、つい本音が……」
「……風間さんがそう言ってくれるなら、嬉しいです」
頬を朱に染め、もじもじする秋月。小動物のようで微笑ましい。
「じゃあ、戻ろう」
「はい!」
「ワウン!」
「ピキィ~!」
こうして俺たちは来た道を引き返し、登録所へ向かうのだった。