第32話 ギルドマスター
天野川に案内され ギルドマスター室の前へ。重厚な木扉は一見ふつうだが、内側に潜む“格”が空気を震わせている。
「こ、この中にギルドマスターがいるんですね」
「そう。でも怯えるほどじゃない」
そう言いながら天野川がノック。
「天野川だ。入るぞ」
『おう、構わん。入れ』
許可が下りて扉を開く──途端、汗と鉄の匂いが押し寄せた。
「フンッ! フンッ! フンッ!」
部屋の中央、鬼瓦のような大男がバーベルを担ぎ高速スクワット中。皿の枚数をざっと数えると……百五十キロ!?
「なんだ天野川だけかと思ったら客もおるのか」
「ホームセンター前で絡まれていた彼です」
「おお。途中で消えた“謎の男”か」
謎の男って……。
「謎の男! なんかミステリアスでカッコいい!」
「ワンワン!」
「ピキィ~♪」
秋月が目を輝かせ、モコとラムもはしゃぐ。
「それにしてもマスター、客人前で鍛錬とはお行儀が悪い。少しは控えたら?」
「馬鹿言うな。トレーニングは魂の栄養だ。……あと百回で終わる」
そう宣言し、再びバーベルが上下する。俺たちは入り口で立ち尽くしていたんだが――
「お前たちも、そんなところに立ってないで座っておけ」
俺たちは言われるままソファへ──
一分も経たず「ふぅ、いい汗だ」とバーベルをラックに戻し、真正面へドンと構える。が、椅子には座らず膝を曲げたままの空気椅子状態だ。脚がプルプルもしない。
「まずは名乗ろう。俺は小澤 勇。この支部のギルドマスターだ」
気合いの入った自己紹介に、思わず姿勢を正す。
「風間 晴彦と申します。こちらがモコで、こちらがラムです」
「付き添いの山守 秋月です」
小澤はモコとラムに視線を落とし、鼻息を鳴らした。
「むぅ!」
次の瞬間、巨体が音もなく迫りモコとラムをひょいと抱き上げる。
「う、うぉおぉぉお! なんて愛らしいんだぁあ!」
「ワウ!?」
「ピキィ!?」
モフモフ&ぷるぷるに頬ずり。戸惑っていた二匹も、次第に尻尾と体で嬉しさを表す。
「ほら怖くないぞ~。うりうり~」
「ワフン♪」
「ピキュ~♪」
天野川は額を押さえため息。
「……やっぱりこうなった」
「え、こうなるって?」
「マスターは強面だけど“可愛いもの愛好家”なの。動物もモンスターも区別なく愛でる」
ギャップが凄い。
「マスター、そろそろ本題」
「むぅ、名残惜しいが仕方ない」
モコとラムを返され、俺が撫でると二匹はご機嫌。小澤は空気椅子姿勢のまま咳払いし、目を細めた。
「天野川から聞いた。お前は以前モンスターを伴っていたが、今日が初登録。説明してもらおう」
鋭い眼光に汗が滲む。やはりそこを突かれてしまった。天野川にも見られている以上、流石にごまかしようがないか――




