第28話 邪魔してくる二人
「担当者さんも、こんな奴の相手で大変ですよね。あ、そうだ、ご存じです? こいつ、俺の同期だったんですが前の職場で顧客情報を漏えいしてクビになったんですよ。履歴書はしっかりチェックしたほうがいいですよ」
「……一体、あなた方は何なんですか?」
阿久津が俺を嘲笑った途端、目の前の担当者が眼鏡をくいと上げ、冷えた声で問い返した。
「おっと失礼。この男が話を盛っていたらいけないと思いましてね。しかし、あなたは知的な美人だ。俺の担当もあなたみたいな人だったらよかったのに」
「ちょっと、阿久津!」
今度は担当者にまで言い寄り始めた阿久津を、未瑠が肘で突く。まったく、どこまでも節操がない。
「余計なお世話です。そもそも履歴書はいただいていますが、退職理由までは問いません。それより、あなた方──冒険者を志すにはあまりにも品性が足りません。恥を知りなさい!」
「なっ……!」
担当者の一喝に阿久津は言葉を失った。隣のカウンターにいた職員も顔を上げ、眉をひそめる。
「香川の言うとおりだ。無駄口は慎め」
どうやら彼女の名前は香川らしい。ところが阿久津は舌打ちし、懲りずにタバコを取り出す。壁には大きく「禁煙」の掲示。
「おい阿久津!」
「ピキィ!」
「うわ、冷てぇ!」
肩に乗っていたラムがちょろりと水を吹き、タバコとライターをずぶ濡れにしてしまった。ライターの火は当然着かず、阿久津は声にならない悲鳴を上げる。笑いをこらえるのが大変だ。
「こ、この! 危害を加えられたぞ! こんなの許されるのかよ!」
「危害って、悪いのはそっちじゃないですか」
「ワンワン!」
秋月とモコが即座に反論。周囲で手続きを待っていた人たちも口々に苦言を呈してくれた。
「そのスライムに感謝しろよ。ルールを破ろうとした自分が悪いんだろう」
「ほんと、聞いてて気分悪かったわ」
肩身が狭くなった阿久津は捨てぜりふを吐いて出口の方へ。「クソ! もういい、行くぞ未瑠」「ちょ、待ってよ!」と、二人は小走りでロビーから消えた。
「えっと、皆さんありがとうございました」
「いいってことよ」
「頑張ってね。モンスターも可愛いし応援してるわ」
温かい声に送られ、ようやくカウンター前に静けさが戻る。
「香川さん、いろいろとすみません」
隣のネームプレートに「香川 香」とあるのを確認しつつ頭を下げた。
「口を挟んできたのはあちらです。ただ、モンスターの行動管理だけは気をつけてください」
「ラム、次からはほどほどにな」
「ピキィ……」
ラムがしゅんと縮こまる。モコも「クゥ~ン」と鳴いて心配そうだ。
「あの、ラムちゃんに悪気はなくて……」
「分かっています。むしろ火気を止めてくれたのですから彼らは感謝すべきでしょう。もし火を点けていたら登録どころの話ではありませんでした」
香川さんが淡々と書類を確認しながら語った。
「そういえば、履歴書も必要なのですね。少し驚きました」
何となく世間話程度に話を振ってみた。香川さんは本当に淡々と業務をこなすので、沈黙に耐えきれずと言ったところなんだけどな。
「履歴書が必要なのは、ジョブとの適性を測る参考資料だからです。戦士系なら運動経験、魔法系なら学習歴がパフォーマンスに影響するという研究結果もあります」
「へえ、そこまで関係するんですね」
「ピキィ?」
「ワオン?」
ラムもモコも首を傾げている。
「貴方のジョブは農民ですが、農民ジョブと相性がいいのは、やはり農業経験者。ただし、アウトドア志向も高評価です。キャンプ歴が長いあなたなら問題なく適性ありと判断できます」
「ワオン!」
「ピキィッ」
二匹が嬉しそうに跳ねる。俺も頭を撫でてやった。
「書類はこれで問題ありません。それでは二階で採血と基礎体力測定を受けてください。お連れのモンスター二体も簡易鑑定を行います。すべて問題がなければ、正式に登録手続きを進めます」
最後にきっぱりそう告げられ、俺たちは案内どおり検査フロアへ向かった――。




