第2話 放置ダンジョンを探索してみよう
放置ダンジョンで生活を決めた俺は、さっそくキャンプ道具をすべて中に持ち込んだ。とはいえ、ダンジョンに入るのは初めてだ。それ相応に緊張もする。
こんな大胆な行動に出られたのは、ランク外の放置ダンジョンに危険性はない――という情報をつかんでいたからこそだ。
中へ入ってみると、様子は普通の洞窟といったところ。ただ思ったより明るい。そういえば危険度の低いダンジョンは、明かりが要らない程度には明るいと聞いたことがある。
ここはランク外。危険も少なければ、照明も十分。これなら安心して過ごせそうだ。
「さて……まずは寝床の確保からかな?」
いきなりダンジョンの奥で寝る度胸はない。ダンジョンについて詳しくない以上、下手に動いて迷子になったら目も当てられないからだ。というわけで最初にやったのは拠点づくり――と言ってもテントを張るだけだけど。
テントを張ったあとは周辺を散策。何せここはダンジョンだ。ランク外とはいえ念のためだ。
「やっぱり何もないよな」
しばらく歩き回ってみたが、やはり何もなかった。いや、正確には落ちているものはあった。空き缶やゴミが、な。
外の張り紙と言い、面白半分に入ってダンジョンを汚していくバカがいたらしい。壁にも落書きが刻まれていて、むしろこのダンジョンが哀れに思えてくる。
歩き回ると、ダンジョンは三十分ほどで一周できる広さしかなかった。地下へ続く階段もない。モンスターが出てくる様子もない。――ただ、どこかから見られているような気配だけはしたような?
気になる場所をのぞいても怪しいものは見つからなかった。念のため護身用のサバイバルナイフを持っているが、使う機会はなさそうだ。
しかし本当に何もないダンジョンだ。さすが放置ダンジョンといったところか。ダンジョンが見つかれば土地の所有者は大喜びするというが、このダンジョンが発見されたとき、あのじいさんはどう思ったんだろう……。
とはいえ落書きを放置するのも変だ。管理すら無駄だと思われているのかもしれないけど、どこか違和感がある。
「ま、いいか。そろそろ昼だし、何か食べよう」
ソロキャンプではキャンプ飯も醍醐味のひとつ。まして初のダンジョン内キャンプ飯となれば、テンションも上がる。問題は火を起こして大丈夫かどうかだが、ダンジョンの中心部で、入口に近い広場を選べばいいだろう。
実際、冒険者たちはダンジョン内でも火を起こして寝泊まりするらしい。それでも酸欠にならないあたり、ダンジョンには不思議な力が働いているのだろう。
一応安全のため入口近くで炭に着火。着火剤と火おこし器、それとバーナーがあれば簡単だ。
そして出来上がったのは定番のカレーライス。ダンジョンの中で食べるカレーというのも、なかなか乙なものだ。退去費用としてまとまった金も手に入ったので、食材は少し奮発した。
野菜も肉もたっぷりで――うん! 旨い! とはいえソロキャンだから、本当に俺一人で楽しんでいるだけだけど。
こんな時、彼女がいたらもっと楽しかったのかな……なんて、むなしいことを考えてしまった。婚約者に裏切られたというのに、なかなか女々しいな――ん?
――ジーーーーッ……サッ!
その時、確かに俺は見た。ダンジョンの物陰からこちらをうかがう一匹の犬――いや、二本脚で立つ犬を。