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第27話 登録するのも大変

「番号札五八番の方、どうぞ」

「あっ、阿久津じゃない!」

「あぁ、本当だな」

「番号札五九番の方、こちらへ」

「私も呼ばれたわ」


 阿久津と未瑠が受付へ歩いて行く。腕を組み、周囲に聞こえるような大声で他人を嘲笑しながら。


 ──やれやれ。あいつらが離れてくれるだけで、こっちは平穏だ。


「ふぅ、やっと静かになりましたね」

「ピキィ……」

「クゥ~ン……」


 秋月が肩を落とし、ラムとモコまでもが小さく嘆息する。まったく、面倒な連中だ。


「さて、履歴書を仕上げないとな」


 専用用紙に氏名や学歴、職歴を書き込み、写真を貼付する。項目には体力測定の自己申告欄や学習傾向を問う欄まであり、意外と細かい。


 阿久津の言葉が脳裏をよぎったが、退職理由を詳細に記す欄はない。経歴詐称だのと吹聴される筋合いはないだろう。


「番号札六三番の方、どうぞ」


 俺の番だ。受付カウンターに向かうと、メガネを掛けた二十代後半くらいの女性職員が端末の前で丁寧に頭を下げた。知的で、冷静そうな人だ。


「冒険者登録をお願いします」

「承知しました。必要書類をお預かりします」


 履歴書と住民票の写し、個人番号カード、印鑑をトレイに載せて差し出す。


「コピーを取って参りますので、そのままお待ちください」


 一礼して奥へ下がる職員。その間、隣の椅子に秋月が腰掛け、膝上のモコを撫でていた。ラムは相変わらず俺の肩でプルプルと揺れている。


「お待たせいたしました。ところで貴方の肩に乗っているスライムとそのコボルトは?」


 メガネの奥の瞳が二匹を捉える。しまった、やはり聞かれた。


「い、いえ、実は……」


 俺が言い淀むと、秋月が前に出る。


「この子たちは彼が育てた“特殊野菜”を食べて懐いたんです。不可抗力に近い形で――」


 職員の表情がわずかに険しくなり、メガネを押し上げる。


「たとえ幼体でも、モンスターはモンスターです。後ほど鑑定審査で安全性を確認します」

「も、申し訳ありません。しかしご覧のとおり大人しく──」

「ワオン!」


 俺はモコを胸に抱え、ラムを手のひらに乗せて差し出す。二匹は控えめに尻尾や身体を揺らし、害意のないことをアピールする。


「……確かに温和そうですが、規定どおり検査は受けていただきます」


 厳しいが、公平だ。


「ジョブは〈農民〉ですね。生産特化型ですから、探索時は十分ご注意ください」

「承知しています。主に安全な放置ダンジョンで活動する予定です」


 俺が言うと、職員の眉がわずかに上がった。


「放置ダンジョンを拠点に? 珍しい選択ですね。なぜわざわざ……」


 理由を説明しかけたその瞬間――


「アッハッハ! 放置ダンジョンだってよ、似合いすぎるだろ」

「ほんと、ダメ男らしいわね」


 横から阿久津と未瑠のせせら笑う声が聞こえてきた。だからこっちに関わってくるなよ――

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― 新着の感想 ―
普通に食べ物あげたら懐かれたで良いやん変な擬装したらその野菜提出して下さいって言われたら詰む
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