第20話 山の管理者
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突然の来訪者に驚き、俺は必死に両手を広げた。
「その……勝手にダンジョンを使っていたのは謝る。でも、泥棒目的じゃないんだ。ここで静かに暮らしていただけで――」
「く、口では何とでも言えます!」
セーラー風ブラウス姿の女性――秋月は、つい先ほどまでの可憐な表情を一変させ、険しい目で俺たちを睨みつけた。
「ここには、片付けても片付けてもゴミを捨てて行く人がいるんです。洞窟の壁に落書きまでして……。あなたも、同じタイプの“迷惑キャンパー”かと思ったんですから!」
確かに入口付近は張り紙や空き缶、焚き火の燃えかすで荒れていた。俺が初めて来た日ですら、壁面には罵詈雑言が刻まれていたくらいだ。警戒するのも無理はなかった。
「俺は片付けをしていた側だよ。見てくれ、この壁――」
高圧洗浄機できれいにした石壁を指差す。古い汚れは大方落ち、昨夜の種まき跡も整然としている。
「確かに……落書きがなくなってる……」
彼女は少しだけ声を落ち着かせたが、まだ疑念を捨て切れていない様子だ。
「大げさなことは言わない。けれど、俺はこの子たちと平和に暮らしたいだけなんだ」
「ワンワン!」
「ピキィ!」
俺の足元で、モコとラムが前のめりになって吠え、あるいは震え、存在をアピールする。モフモフの毛並みとゼリーのような体がランタンの光を受けて揺らいだ。
秋月の視線が二匹に吸い寄せられ、険しかった眉がみるみるゆるむ。
「な、何ですか……この子たちは? 見たことのないモンスター……なのに、かわいい」
「ここで見つけたコボルトとスライムさ。攻撃性ゼロ、むしろ甘えん坊。一緒に畑を作っている相棒なんだ」
俺がモコの頭を撫でると「ワフッ」と鼻を鳴らし、尻尾を高速回転。つられてラムがぷるるんと体を弾ませて喜びのダンスを披露した。
「ほら、人畜無害だろ?」
「か、かわ……いえっ、だ、だからといって簡単に信じるわけには――」
秋月は言いながらも視線が二匹に釘付け。手を伸ばしかけ、引っ込め、また伸ばし……とうとう誘惑に勝てず、そっとモコの頭を撫でた。
「……ふわ、ふわふわ……っ」
「ピキィ~♪」
ぷにぷにのラムにも触れた途端、秋月の頬がゆるゆるに崩れ、絶妙な甘い声が漏れる。
「うぅ~……可愛いですぅ!」
完全に陥落である。モコはドヤ顔で尻尾を振り、ラムも得意げに胸(らしき部位)を張った。
いいタイミングだと思い、俺は以前から気になっていた疑問をぶつける。
「ところで君、名字が山守って言ったよね。ここを所有してる落葉さんの親族?」
「え、ええ……お爺ちゃんを知ってるんですか?」
秋月がぱちくりと瞬きを繰り返す。
「ああ。昔からソロキャンでこの山を使わせてもらっててね。ルールを守れば好きにしていい、ってよく焚き木を分けてくれた。頑固だけど筋の通った人だったよ」
秋月は感激したように息をのむ。
「お爺ちゃん、偏屈って言われがちなのに、そんなふうに言ってもらえるなんて……」
彼女の肩がわずかに震え、その眼差しが柔らかくほどける。だが次の瞬間、暗い影が瞳を曇らせた。
「それで……もしかして、キャンプの延長でここに寝泊まりを?」
「ああ。最初は短期のつもりだったけど、モコとラムに出会ってから長居してしまってね。挨拶に行こうと思ったら、山で姿を見かけなくて――」
そこで話を切り出す。
「落葉さん、今もお元気かな? ちゃんと近況を報告したいんだけど」
秋月は一度口を開きかけ、視線を床へ落とす。洞窟の静寂が、ひんやりと肌を撫でた。
「お爺ちゃんは……その……」
小さく震える声。雫のようにこぼれ落ちた沈黙の重さが、胸にずしりとのしかかる。
しばらく姿を見なかった理由――頭に最悪の可能性が浮かび、背筋を冷たいものが走った。嫌な予感が静かに背を冷やした。
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