第19話 生産に役立つジョブ
壁に投影されたステータス画面を眺めながら、俺はさらに詳細を引き出すことにした。ここでは“気になる点を問いかける”だけで、追加情報を表示できるらしい。
「この【農民】について、詳しく知りたい」
即座に光文字が現れ、ジョブの概要が映し出される。
ジョブ説明
・農業に特化した生産系ジョブ。
・戦闘だけでなく、耕作・収穫などの農業行動でも経験値を獲得してレベルアップ可能。
・生産系スキルが豊富で、戦闘は不得手。ただし特定の道具使用やレベル上昇により、戦闘補助スキルを習得する場合がある。
「なるほど、やっぱり生産向けか。放置ダンジョンで暮らすにはむしろありがたいな」
戦闘スキルは後回しでいい。まずは食い扶持だ。俺が頷くとモコとラムが目を輝かせて尻尾――と体――を振った。
「スキルの内容も詳しく教えて」
再び光が揺らぎ、四つのスキル説明が現れる。
◆土壌改良(5㎡)
土壌を肥沃化し、作物の成長速度と品質を向上させる。
効果範囲:半径約5m2
◆土鑑定
土の質・養分を判定する。
◆耕作力向上(小)
耕す速度と精度がわずかに上昇。疲労も軽減。
◆栽培力向上(小)
種子の発芽率と成長速度を微増。収穫物の栄養価が向上。
「これは……本気で農業をやれってことだな」
「ピキィ♪」
「ワンワン♪」
二匹も嬉しそうに賛同する。しかしレベル0ゆえ効果は控えめ。それでも“無いよりずっとマシ”だ。
気になっているのは昨晩蒔いたばかりの種が、もう芽を出していること。洞窟型ダンジョンで光もほとんど無いはずなのに――。
「よし、スキルを試してみるか。えーっと……スキル【土鑑定】!」
念じるとジョブストーンが淡く光り、視界の端に半透明のウインドウが出現。さらに石から伸びた光線が土面をスキャンし、壁に詳細を投影した。
鑑定結果
・名称:ダンジョンの土
・性質:長年の魔力流入により、高濃度の養分と魔素を蓄積。
・評価:非常に肥沃。光量が不足しても魔力が光合成を補助するため、作物が短期間で発芽・生育する。
・付与効果:収穫物にランダムな魔性効果が付随する可能性あり。
「おお……これはすごい!」
思わず声が弾む。モコは尻尾を高速で振り、ラムはぷるぷる跳ねながら「ピキュ~?」と首を傾げている。
「要するに、この土は“魔力肥料”入りの超高級畑ってことらしい。太陽無しでも成長できるわけだ」
太陽光の代わりに魔素が光合成を肩代わりする――まさにダンジョン産ならでは。しかも土壌改良のスキルを使えばさらに上乗せできる。
「よし! このダンジョンで本格的に作物を育ててみよう!」
「ピキュ~♪」
「ワオ~ン!」
二匹が飛び跳ねて喜んだそのとき――
「貴方たち! ここで勝手に何をしているのですか!」
洞窟内に鋭い少女の声が反響した。慌てて振り向くと、入口付近に紺色のセーラー風ブラウスに動きやすいプリーツスカートを合わせた若い女性が仁王立ちしていた。
年のころは高校生ぐらいに見えるが、背筋を伸ばした佇まいは大人びている。肩までの黒髪を揺らし、眉間に皺を寄せるその表情は真剣そのものだ。
「あ、あの……君は?」
「わ、私はこのダンジョンを管理する 山守 秋月 です! 無断で私の土地に入り込むなんて……貴方たち、泥棒ですか!」
いきなり“泥棒”呼ばわりされ、俺は思わず目を丸くする。確か山守といえば、この山の所有者だったはずだが――俺が知っているのは白髪の頑固なおじいさんだけ。目の前の女性は一体……?
胸の鼓動が高鳴る中、洞窟の空気がぴりりと張り詰めた。
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