第181話 馴染みの皆と待ち合わせ
約束の日になり、俺たちは冒険者通りへ向かうことになった。
朝から秋月が迎えに来てくれて、いつものように彼女の運転で待ち合わせ場所へ向かう。
「本当いつも悪いな」
「大丈夫。私も一緒に行くんだし」
「ワンワン♪」
「モグ~」
「ゴブッゴブッ♪」
「マァ~♪」
「ピキッ♪」
後部座席ではモンスターたちが窓の外を覗き込み、耳やしっぽをぱたぱた動かしている。
新しい場所に行くことに胸を躍らせているのだろう。
「冒険者向きの道具を色々扱ってるらしいから、楽しみだね」
「そうだな。普通の買い物とはまた違うからな」
そもそも一般人が武器を買うことはできない。そこを特別に認められているのが冒険者通りだ。
もちろん、剣などを購入した場合はむき出しで持ち歩くわけにはいかない。収納具や魔法のかかった袋などに仕舞う必要がある。
そういえば香川さんも講習のときに魔法の袋を持参していたな。俺も一つは用意しておくべきかもしれない。
「興味はあるけど、予算は足りるかな」
「う~ん、どれぐらいするのか見当もつかないもんね」
俺の不安に秋月が苦笑する。ゴブリン騒動の報酬三十万円があるとはいえ、装備の値段なんて想像もつかない。
けれど、見て回るだけでも十分楽しめるはずだ。秋月が駅前の駐車場に車を停め、俺たちは駅前の広場へと歩いた。
「おお、待ってたぜ」
広場の中央にそびえる奇妙なオブジェを背に、熊谷が手を上げていた。
高さ三メートルほどの金属製。ねじれた円柱が途中で枝分かれし、先端は意味ありげに尖っている。見る角度によっては横顔のようにも、巨大な楽器の部品のようにも見える代物だ。
芸術家が「生命の躍動」をテーマにデザインしたらしいが、俺にはさっぱりわからない。
だが、その前に立つ熊谷はTシャツにジーンズというラフな格好で、妙に場違いなオブジェと対照的だった。
七月に入り、日差しも強まってきた。熊谷の軽装は理にかなっている。
「おお! 揃ってるな。全員プロテイン飲んできたか?」
「いや、飲んでないし……」
駅の出入り口から、タンクトップに短パン姿の中山が姿を現す。鍛え上げられた腕をこれでもかと見せつけ、開口一番の言葉がこれ。ぶれないな、ほんと。
「あぁ! もう揃ってる! ごめんね、待った?」
駆け寄ってきたのは愛川だ。涼しげな半袖ブラウスにロングスカート姿で、走ったせいか頬が上気している。
俺と秋月が「大丈夫」と答えると、安堵したように微笑んだ。
「はぁ、今日かなり暑いよね。もう少し薄着でも良かったかなぁ」
愛川がハンカチで首元を押さえながら言うと、秋月が小さく肩をすくめた。
秋月は七分袖のシャツにデニムという落ち着いた服装。少し暑そうだが、きっちりした性格がよく出ている。
俺自身は半袖のTシャツに軽めのジャケット。日差しは暑いが、カバンの肩紐が擦れるのを避けたくて羽織ってきた。
それにしても薄着か。確かに駅前の通りを歩く女の子の中には結構際どい格好の子も――
「……ハルさん、今何を考えてるのかなぁ~?」
「え? いやいや! 何も、何も考えてないから!」
ジト目で覗き込んでくる秋月に慌てて手を振る。女の子の勘って、本当に鋭い。
「お前たちは着るものを考えなくていいから、気楽でいいよなぁ」
熊谷がモンスターたちを見回しながらつぶやく。
「ワン?」
「マァ?」
「モグ~?」
「ゴブ?」
「ピキィ?」
モコもマールもモグも、みんな首をかしげてきょとんとしている。ゴブだけは腰蓑をつまみ上げ、気にしたように視線を逸らした。
「とりあえず行こうぜ。結構店も多いみたいだし、見て回るだけでも十分楽しめそうだ」
「うむ。俺の筋肉もウズウズしているぞ!」
「そうだな、とにかく行こう」
「楽しみだね、アキちゃん」
「うん。何があるかなぁ~」
こうして俺たちは冒険者通りへ足を踏み出した――。




